森山直太朗「愛は求めるものではなく、そこにあるもの」新曲『愛々』制作秘話
INTERVIEW

森山直太朗

「愛は求めるものではなく、そこにあるもの」新曲『愛々』制作秘話


記者:村上順一

撮影:提供

掲載:26年04月29日

読了時間:約10分

 フォークシンガーの森山直太朗が、4月18日に新曲『愛々(あいあい)』を配信リリース。『愛々』は、岡田将生と染谷将太が兄弟役を演じるTBS金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。冤罪や時効といったドラマの重厚な設定を背景にしつつも、森山が楽曲の核に据えたのは、社会的なルールや価値基準に縛られない「兄弟愛」や「パートナーシップ」という、より普遍的な人間同士の繋がりである。編曲には、劇伴や舞台音楽で成熟したコンビネーションを見せる原摩利彦と須原杏を起用。静謐ながらもスケール感の大きな音世界を構築している。長いキャリアの中で、表現の扉を叩き続ける彼が、この楽曲を通じて現代社会に問いかける「愛」の本質とは何か。『愛々』制作の裏側から、内省的なアンビエントサウンドのアルバム『弓弦葉』と、祝祭的なブルーグラススタイルのアルバム『Yeeeehaaaaw』という対極的な2枚を掲げ、2つの異なる全国ツアーを同時進行させるという前代未聞の挑戦を続けている森山に話を聞いた。(取材=村上順一)

人間同士の関係性に強く惹かれた

森山直太朗 Two jobs tour 2025〜26『あの世でね』〜「Yeeeehaaaaw!」

――今回の新曲『愛々』は、岡田将生さん、染谷将太さん出演のドラマ『田鎖ブラザーズ』の主題歌です。脚本を読んだ際、森山さんの視点からはどのような景色が見えましたか。

 今回、脚本をいただいて、そこから書き下ろしてほしいというオファーをいただきました。最初は「社会派」で「時効」がテーマという重たい触れ込みでしたが、僕はむしろ「兄弟愛」や「パートナーシップ」といった人間同士の関係性に強く惹かれました。そちらにフォーカスした方が自分の筆が乗るなと感じたんです。もちろん、冤罪や時効といったテーマもありますが、それらはあくまで社会的なルールに過ぎない。所謂、学歴社会やルールといった価値基準に、自分たちの人生や感性が狂わされてしまうのはもったいない、という思いが活動の根底にずっとあるんです。

――「感性が狂わされるのがもったいない」という言葉、深く響きます。

 先日、ライブの後にCDのお渡し会を行った際、ある女性が「ライブを観て、死んでいた感性が蘇りました」と言ってくれたんです。それは僕にとって、何より嬉しい言葉でした。物事の判断基準や思考回路がオートマチックになっていく中では、自分が「たった今感じている思い」やシンプルに「こうしたい」といった感覚は、どうしても磨り減っていってしまう。だからこそ、今回も「社会的なルールには苛まれても、自分たちの感性はそこには影響されないんだ」というアイデンティティを描きたかった。あと、人間はそもそも一人だけれど、色々な季節や成長していく過程で、誰かと「対(つい)」になって生きていく、そんな景色も描ければと思って作りました。

――タイトルの『愛々』はスムーズに決まったのでしょうか。

 曲自体ができたのは去年の12月後半だったのですが、モチーフはずっと前からありました。当初は『愛々』というタイトルではなく、歌詞にもある「my life」や「that's my life」といった英語の仮タイトルをつけていたんです。でも最終的には、生まれたものに名前をつけるような感覚で、本当に最近のことなのですが、『愛々』に決まりました。

――ドラマのタイアップにおいて、森山さんが最も大切にされているスタンスは何でしょうか。

 誤解を恐れずに言えば、「書き下ろしすぎない」ことです。作品に寄り添いすぎてしまうと、逆にライブ感がなくなってしまう。作品としての拠り所は大事にしつつも、自分の中で突き抜けたものを作り抜く。そうすることで、言葉や情感がおのずとドラマにリンクしていくし、そこに「解釈の自由」が生まれると思っています。ドラマ『田鎖ブラザーズ』のプロデューサーの新井順子さんとお話しした際、楽曲終盤の「うぉー」という叫ぶような歌声について、新井さんが「言葉にならない兄弟の悲痛な叫び、絶望に打ちひしがれた叫びに聞こえる」とおっしゃっていて。なるほどと思いました。でも実は、僕自身は最初から叫ぼうと思っていたわけではなく、曲の制作時に言葉のないフェイクとして吹き込んだものでした。きっと最初から全部が共鳴しているより、作り手がそれぞれ実直に向き合った結果として、最終的に同じ場所へ辿り着けるのが、一番いい形だと思うんです。

予定調和があまり好きではないんでしょうね(笑)

――楽曲構成についても伺います。イントロがなく、歌から始まりますが、昨年リリースされたアルバム『弓弦葉』でも歌始まりの曲がいくつかありました。イントロの有無については、どのような感覚をお持ちなのでしょうか。

 予定調和があまり好きではないんでしょうね(笑)。制作過程でイントロをつける案もありましたが、ありきたりなイントロをつけるくらいなら、この曲は「ポーン」と潔く始まってしまう方が相応しいなと。僕がこれまで聴いてきたボーカル音楽にもそういう手法が多くて、自分にとってはポピュラーな感覚なんです。

――編曲を担当された原摩利彦さんと須原杏さんのコンビネーションはいかがでしたか。

 摩利彦くんとはかねてから一緒にやりたいねと話していました。お誘いしたら摩利彦くんもやりたいと言ってくれて。ただ、とても忙しい方なので、年末を避けて年始にオファーをしました。時間も限られていたことから、僕のライブや制作にも参加してもらっている杏さんにも共同編曲としてお願いしました。映画『国宝』などでも一緒に活動されている2人にアレンジしてもらったら、とても面白そうだと思ったんです。それこそ『田鎖ブラザーズ』のお二人のような成熟した関係性を、レコーディングを通じて感じていました。

――ということは、弦のアレンジは須原さん、他の部分は原さんが担当されているのでしょうか?

 それが話を聞いたら、そういうわけでもなくて。僕が「ここは杏さんが書いたんでしょ」と思った箇所が摩利彦くんだったりして、予想が全部外れましたから(笑)。それくらい一心同体でした。

――歌詞の<求め合うだけの日々を憂う>の箇所のピアノの和音が、非常に印象的で耳に残ります。

 あの部分のピアノは、摩利彦くんが自分のビジョンを持って構築してくれました。『愛々』はとてもソウルフルな曲なので、彼の持つ「動物的な感覚」と「薄明るいサウンド」を大切にしたくて。コードの当て方やテンション感についてはかなり話し合いましたが、最後は「好きなようにやっちゃってください」と全幅の信頼を寄せてお任せしました。

――あの和音の上でピッチ(音程)を正確に当てるのは、素人には難しいですね。森山さんからアドバイスをいただけるとしたらいかがでしょうか。

 もしカラオケで歌う方がいたら、その箇所は「ピアノのコードを聴きすぎないこと」です。伴奏を気にすると迷ってしまうので、自分の音感を信じて貫いてください!

愛とは求めるものではなく、ただそこにあるもの

森山直太朗『愛々』配信ジャケ写

――歌詞の<愛は愛でも 満たされない愛ってな〜んだ?>という一節。森山さんの中に答えはあるのでしょうか。

 あります。人は結局、「求める」から苦しくなるんです。「なぜ自分の思うような言葉をくれないのか」と相手に求め続ける限り、人生は生きにくくなり、満たされない感覚は消えません。でも、愛とは求めて満たされるものではなく、「ただそこにあるもの」なのだと気づけるかどうかだと思います。

 子供の頃は愛を求める時期があってもいい。でも大人になったら、どこかで精神的に自立しなければならない。子供の頃に求め続けた愛を今求めても、寂しくなるだけなんです。自分が何をしたいかという子供的な発想から一歩進んで、「誰かのために自分は何ができるだろう」ということにワクワクできたら、また違う愛の形が芽生える気がするんです。相手に求める「容量」を工夫して減らしていくことで、人間関係はより建設的に成長していくのではないでしょうか。

――愛をテーマにした歌詞は、今後も様々に展開できそうですね。

 愛という形のない、概念でしかない世界共通言語のようなものは、今後もおそらく自分のテーマになってくるんじゃないかなと思います。

――<“振り出し”なら それもそれで good>という考え方も、今の森山さんの人生観を象徴しているように感じます。

 全てが理想通りにはならないじゃないですか。「ここに行きたいけれど、どうやっても辿り着けない」みたいな。でもそのうち、そのことを忘れて、気づいたら結婚していたなとか、理想を捨てた時に初めてその理想そのものになっていくような感覚があります。人生は螺旋階段を登るようなプロセスだと思っています。失敗を繰り返して元の場所にいるように感じても、それは生まれたままの自分に戻るような「完全な振り出し」ではない。振り出しに思える瞬間も、決して間違いではないということを伝えたかったんです。一見同じ景色でも、経験を積んだ自分の「フェイズ(段階)」は確実に上がっている。社会的な制度や常識に囚われすぎると「もうやり直しは無理だ」と諦めてしまいがちですが、「感性のやり直し」はいくらでも余地がある。そのためには、昔のしがらみや環境など、捨てなきゃいけないものも出てくるかもしれません。

――ジャケット写真は「愛」の文字が水彩画のような不思議なデザインですね。

 僕は「愛」という字の形が好きなんです。当初は、ドラマのイメージに合わせて「二人組」の象徴として、電気グルーヴの石野卓球さんとピエール瀧さんを起用する案も考えていました。絆の象徴としていいなと。でも、楽曲の方向性などを考えたときに、僅差でしたが、「愛」という字をフィーチャーしてデザインしてもらう方向になりました。

――デザインの細部にもこだわりが?

 「愛」の字はデジタルとアナログな手書き感を出して、繰り返しの「々」部分も手書き風にしようと言っていたのですが、あえてカチッとしたフォントにしています。デジタルとアナログが融合したようなハイブリッドな質感があって、すごく気に入っています。

抱えていた葛藤や矛盾が少し解消されたような気がしている

森山直太朗 Two jobs tour 2025〜26『あの世でね』〜「弓弦葉」

――現在、森山直太朗 Two jobs tour 2025〜26『あの世でね』〜「弓弦葉」と「Yeeeehaaaaw!」という2つの異なるツアーを同時進行されていますが、実際に取り組まれてみていかがですか。

 ツアーはとにかく楽しいです。僕が行うツアーは本数が多いのですが、それは自分がそうしたいと思ってやっていることです。ただ、それと同時にマンネリ化しないためにはどうすればいいのか、という課題は常にあります。たとえば初日の関東公演と、千秋楽の東京公演。その間、他の地域でパフォーマンスをする際に、全く変わらない自分をどう作っていけばいいのか。そうした葛藤や矛盾に思いを馳せながらツアーを回っていましたが、結論として、それは無理だと悟りました。

――それを今のツアーで解消できている?

 舞台にあるたった一つの扉をくぐると、その日のツアーの世界(『弓弦葉』か『Yeeeehaaaaw!』か)が待っている。3時間前にリハーサルをしていても、その扉の前に立つと「今日はどっちなんだろう?」と毎回ドキドキするんです。このシンプルな仕掛けが、長期ツアーのマンネリを解消し、常に新鮮な、まるで夢の中にいるような感覚を僕にもたらしてくれています。夜に見る夢というか、走馬灯を見ているような不思議な高揚感です。それによって、抱えていた葛藤や矛盾が少し解消されたような気がしています。

――森山さん、いずれ3つ、4つとツアーを同時にやりそうな予感がしてきました。

 3つまでは同時にいけるかもしれません(笑)。

――ちなみに新曲『愛々』をツアーで聴ける可能性は?

 ゼロではないですが、当初はセットリストに入れることを考えていなかったので、難しいかもしれません。新しい部屋を一つ作るような感覚にならないといけないので。とはいえ、一人の人間が作っているものだから、何か共通項はあるはず。今、ライブで歌える場所がないか模索しています。もしやらなかったら、「歌える場所がなかったんだな」と思ってください(笑)。(注:『愛々』は現在実施されているツアーで披露済み。この取材は3月下旬に行われた)

森山直太朗 Two jobs tour 2025〜26『あの世でね』〜「Yeeeehaaaaw!」

(おわり)

ヘアメイク:河西幸司(アッパークラスト)
衣装:夏見恵美子(suzuki takayuki)

■『愛々』楽曲情報
森山直太朗『愛々』
作詞・作曲:森山直太朗
編曲:原摩利彦・須原杏

■楽曲配信
配信日:2026年4月18日(土)
Apple Music、Spotify、Amazon Music、LINE MUSIC他
主要音楽配信サービスなどで配信開始
▼Pre-Add(Apple Music) / Pre-Save(Spotify) はこちら
https://form.universal-music.co.jp/pspa_naotaro-moriyama_aiai/page/index.html

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