INTERVIEW

松村沙友理

「不安、だからいっぱい褒めてほしい」支えは「みんなの声」、『ずっと独身でいるつもり?』で新境地


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年11月16日

読了時間:約8分

 今年7月に乃木坂46を卒業した松村沙友理が、田中みな実が主演する映画『ずっと独身でいるつもり?』(ふくだももこ監督)で新境地を見せる。現代を生き抜く女性の不安や寂しさ、希望を描いた作品で、松村が演じるのはパパ活で生計を立てるもこの生活に不安を抱く26歳の美穂。“可愛らしさ”を一切封印しもがき苦しむ女性をリアルに表現した。自身とは正反対のキャラクターに当初は戸惑いもあったという。その時に手助けになったのは田中みな実の言葉。「みな実さんは私のなかのヒロインです」。役者としての自信は今もないが「この先もやってみたいと思えた作品です」とも語る松村は本作にどう臨んだのか。そして活動の原動力は?【取材・撮影=木村武雄】

(C)2021日活

田中みな実は私のなかのヒロイン

――どのように臨まれましたか。

 撮影当時は乃木坂46に在籍していましたので「アイドルとしての可愛らしさ」とは切り離された「美穂という私」への切り替えがすごく大変でした。ふくだ監督にも「松村沙友理じゃなくて、美穂が観たい」と言われましたので、どう松村沙友理を封印するかが課題でもありました。美穂とはまったく境遇も性格も異なりますが、同じ女性として共感するところもありました。年齢が上がるにつれて求められることが変わってきて、私もアイドルとして壁に当たることもあり、美穂を通じてみんな同じ悩みを抱えているのかなって思いました。

――ご自身とは正反対の美穂というキャラクターにどう向き合いましたか。

 台本を読んだ段階では面白い作品で「こういう難しい役にも挑戦したい」という前向きな気持ちでしたが、実際に撮影に入ると自分が思っていたものとは全く違っていました。パパ活をやる女の子はどういう子なのか自分なりに調べていましたが、現場に立って表面の薄いところしか見ていなかったんだと痛感させられて。最初に台本を読んだ時と、実際に演じ始めた時とでは、180度ぐらい違う人物になったと思います。

――180度違っていたとなると相当大変だったんですね。

 すごく大変でした。ただパパ活を目立たせるのではなくて、美穂として生きている中で「美穂、何やっているの? 今あなたがしているのはパパ活だよ」と役として自分自身に訴えかけるようなものと言われ「なるほど」と思いましたが、本読みの段階では全く答えが見つからなくて「どうしよう…」と焦りました。監督が言われていることは分かるけど、どうしたらいいのか分からなくって。その本読みが終わって解散して、でもこのまま撮影に入るのは怖いと思った時に、田中みな実先生(笑)が助け船を出してくれたんです。撮影に入ってからもずっと監督と話し合いながら演じ、それも大変でしたが、あの時にみな実さんが助け船を出して下さったのは私の中ではすごく大きかったです。監督に言われていることは理解出来るけどそれをどう形にしていけばいいか分からない状態でしたが、田中さんとお話しするとそれがちゃんと形になって、腑に落ちて。みな実さんとお話しできたのはすごく大きな事でしたし、あの時のみな実さんは私の中でスーパーヒロインでした。

――どのようなお話をされたのですか?

 美穂のセリフを読んで下さって、監督の考えも踏まえ「こういう事じゃないのかな?」と教えてくれたり、「こういう感じでセリフを言った方がいいかも」と実際に演じて下さって。しかもいくつかのパターンをやって下さって、本当に感謝しています。

松村沙友理

すべてを投げ出した先にあった答え

――光が見え始めた状態で現場に入られたわけですが、美穂になれた瞬間は? 六本木で走るシーンの撮影では、監督から「松村沙友理じゃなくて、美穂が見たい」と言われ、何度も撮り直したそうですね。

 正直、自分では美穂になれていたかはあまり分からなくて。それまでは、どうやって泣こうかとか、どうやって跪(ひざまず)こうか、どうやって声を出そうかということをすごく考えていました。でもその六本木でのシーンは10回以上も撮り直して、違う事をやっても同じ事をやってもダメで、途中で何をやっていいか分からなくなってしまって。それで考えることをやめてそのまま考えずにやったら、それが正解でした。だから、自分の中では何かを掴めたという明確なものはなくて、全て投げ出したらそれが正解だったという感じでした。撮影も後半になった頃でした。

――もしかしたら、迷いながら体当たりしている心情が良い感じで出ているかもしれないですね。強がっている部分とか、本当は不安なんだけど強がっているところとか、美穂の感情を表現する上で全てが大切だったと思います。

 そうだとしたら嬉しいです。美穂を演じる上で改めて大切だと思ったのは台本に書かれていない美穂の生活や感情というところで、そういうところは意識しました。美穂はなぜ20歳から六本木で遊ぶようになったのか、どうしてこの道に進んだのか。美穂としてその人生を歩むためにその背景を想像しました。

――撮り終え、完成した今、手応えは?

 実は…手応えは感じられなくて、それは私の力不足なんですけど。もっと出来る自分でいたかったなっていう気持ちが結構強いです。でも、よく俳優の方がインタビューなどで「このチームで作り上げました」と仰いますが、今回はすごくそれを感じました。このチームで作ってきたなという思いが強いです。私一人だったら出来なかった。そういった意味ではチームで作ったという手応えはあるのかもしれないです。

松村沙友理

役者をやり続けたい、転機となる作品

――卒業から3カ月以上が経ちますが、何か目指すものはありますか。

 今は自分を模索していて自分の道を見つけたいと思っています。卒業してから時間が経っていますが、いまだに、何がやりたいか明確に答えられないんです。やりたいことはたくさんありますが、正直自分に何が向いているのか分からないですし、自分が何をするべきかも分かっていなくて。なので、もうちょっと自分を模索してこれだというのを見つけたいです。

――西野七瀬さんや白石麻衣さんたち卒業生の活動はどう感じていますか?

 みんなの活動はやっぱりすごく見ています。いつの間にこんなに出来るようになったんやろって(笑)。七瀬とか、まいやんとか見ていて、乃木坂46では同期だったので、同じように始まって、同じ年月を歩んできたのに、知らんうちに出来ているやんって毎回すごく思います。

――刺激になっていますか?

 刺激になっていると思います。みんなが頑張ってくれればくれる分、自分も遅れたくないっていう気持ちになりますし、会った時に「観ているよ」と言われたらすごく嬉しいですし、お互いに良い意味で刺激し合えているのかなと思います。

――今回の作品は役者としての転機になるかもしれないと思いますが、周りの声は気になりますか。

 すごく気になります。この作品への思い入れが強くて、いろんな方に早く観てもらいたいですし、これを観たあとみんながどう思ったのか、一人一人とカフェとかでお茶しながら語り合いたいです!

――模索したいと話していましたが、役者としてやっていけると思える作品かもしれないですね。

 正直、まだやっていけるっていう感じはしませんが、やりたいなっていう気持ちは芽生えました。まだ修行の身なのでまだやっていけるぞとまでは思えないですけど、この作品に出て面白さはすごく感じましたし、悔しい思いがたくさん詰まっているからこそ、もっとやりたいと思っています。もっと出来るようになりたいです。また10年後にこの作品を撮りますってなったら、市川実和子さんのような良い雰囲気を出したいです、ああいう女性になりたいです。

――そういう風に役者として数十年後また演じてみたいと思えている自分をどう思いますか。

 人生で目標にしているのは「意欲的でいたい」なんです。自分でこれやりたい、あれやりたい、こうなっていたいって思わないと、人生って萎んでいくと思うんです。今まさに10年後、誰々さんみたいにかっこいい女性を演じていたいとかって思えている自分は魅力的だなと思えますし、良い人生歩んできているなという実感もあります。

松村沙友理

私の原動力

――アイドルを卒業して、今活動の原動力となっているものは何ですか。アイドル時代から変わっているのか、それとも変わっていないのか。

 変わっていないのかもしれないです。アイドル時代も求めてくれる人の声が必要でした。私は求められないと何も出来ない人なので、みんなから「姿を見たい」とか、「会いたい」と言われてきたから、ずっと頑張って来られましたし、それは今もそうです。でも…ちょっと変わったかも。今は負けず嫌いも出てきたかもしれないですし。アイドル時代は求めて下さるから「頑張りたい」というのが100でしたが、今はこの作品もそうですが、出来ない事が多すぎて、出来るようになりたいっていう気持ちもすごくあります。それは悩みでもありますが、良い悩みなのかなと思います。

――充実されている感じがしますよね。今までファンと直接触れ合えていたのが、SNSはあるにせよ直接触れ合う場所が減ってきています。その辺はどう考えていますか。

 私は、欲しがりですし、みんなに支えて欲しがりです。アイドル文化で育ってきましたので、握手会があると、みんなから「写真集良かった」とか「音楽番組可愛かったよ」と感想を頂けて。今はそういう声を直接頂ける機会が減っていますので不安です。実際にお会いした人に褒めてもらったりとかしないと自分の中では結構不安なんです。私が10年間やって来られたのはみなさんの声のお陰だと思います。

――舞台挨拶が直接会える機会になるわけですが、会う期間のスパンが長くなった分、自分を見つめ直す時間が出来ているかもしれないですね。

 そうなのかもしれないですね。私は特に甘やかされたい人なので、本当はもっと短いスパンでみんなにいっぱい褒めて欲しいです!

松村沙友理

(おわり)

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