INTERVIEW

松本若菜

転機が訪れても「女優は続けていきたい」
映画『大綱引の恋』陸上自衛隊三等陸尉役


記者:鴇田 崇

写真:鴇田 崇

掲載:21年05月25日

読了時間:約5分

 女優の松本若菜が、映画『大綱引の恋』に出演した。2007年女優デビュー後、数多くの映画、テレビドラマに出演を重ね、最近でも「珈琲いかがでしょう」「イチケイのカラス」にゲスト出演するなど、その顔を観ない日はないほどだ。本作では、三浦貴大演じる主人公・有馬武志の幼なじみで、中園の一人娘・陸上自衛隊三等陸尉役で、「ここまで男勝りの役柄はなかった」と本人も言う印象的なキャラクターを好演している。

 松本は1984年、鳥取県米子市に生まれた。2017年『愚行録』では第39回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞するなど、演技派として着実にキャリアを重ねる。本人も女優という仕事が好きだと言い、故・佐々部監督や原田眞人監督という名だたる名匠の現場で学び、「人生の転機であろう結婚や妊娠・出産が今後もしあったとしても、女優を続けたい」と思いを明かすが、実はそのこと以外にも演じる仕事を続ける理由があるという。注目女優が秘める想いとは。胸の内に迫った。【取材・撮影=鴇田崇】

『大綱引の恋』

ここまで男勝りの役柄はなかった

――今回の映画『大綱引の恋』はタイトルに恋とありますが、さまざまなテーマがあり、深い人間ドラマが魅力の作品ですね。

 最初に台本を読み終えた時、シンプルにあのようなお祭りが日本にあるのかという驚きと、韓国との友好として同じようなお祭りが向こうにもあるということを題材に、淡く切ない恋愛と家族模様を丁寧に描いている物語に、佐々部監督らしい作品だなと思いました。以前、監督は『チルソクの夏』という韓国文化を描いた映画も撮られていましたから。いろいろなテーマがありながら一気に読み進められたのも、すべてに監督の愛情が注がれているからで、改めて佐々部監督の脚本は素敵だなと、いい作品に呼ばれたなと思いました。

――中園典子というキャラクターについては、どのような感想を持ちましたか?

 典子は男の子に憧れていて、どうして男の子に生まれなかったのかと思っているくらい男勝りの女性。ここまで男勝りの役は、今までなかったですね。監督はいい意味で裏切りをする方で、観ている側が持っている、この人はこうだからこういう役がくる、というイメージを覆してくるんです。

――それはまた、演じたことがない役柄を演じるというひとつの転機にもなったと思うのですが、これまでの作品で一番の転機になったと感じた出会いはありましたか?

 原田眞人監督の『駆込み女と駆出し男』という映画で、お種という役を演じたのですが、彼女は舌を焼かれてしゃべれない障害のある設定だったので、すべてを体で表現しなければならなかったんです。そこで顔を歪めたり、バランスよく歩けない演技をする必要があったのですが、セリフは一行もないんです。でも、セリフがあろうがなかろうが、役者としてその場にはいるのですから、当然本読みにも参加します。

――素人考えですが、セリフがないのであれば本読みに行っても…とは思いました。

 特に原田監督は、カメラの後ろ側でケンカをしている設定があれば、映らなくても本気でやりましょうという方です。そういう現場を経験して、現場での居方が変わったようにと思います。それからは、どこを切り取られていても問題がないように、常に役としてそこに居るようにしています。あの経験は、良い転機になったと思います。

鴇田 崇

松本若菜

自己肯定感を強めたいから

――ある意味、大変な仕事だと思うのですが、やり続けられる理由はどこにあるのでしょうか?

 しょっちゅう辞めたいと思っていますよ(笑)。でも、また次の作品に呼ばれたりすると、それはすごくうれしい。この職業をやっていてうれしいと思うことは、前回ご一緒した方に、また声をかけてもらえることなんですよね。佐々部監督、また来てほしいと呼んでもらえたということは、何か引っかかるものがあったのかなと。前回辛かったとしても、また呼ばれるかもしれないと思うと、続けられちゃうんですよね。

――他人の期待に応える喜びでしょうか?

 そうですね。特にお芝居みたいに絶対の正解がないものだったりすると、まず観てくれている人がいて、その人たちの琴線に触れるものがあったなら、やっていてよかったなと思います。

――俳優業以外のことを考えたりはしますか?

 今のところですが、体が元気なうちは、この職業を続けたいなと思います。人生の転機である結婚や妊娠・出産が今後もしあったとしても、女優は続けていきたいですね。

――認められるとうれしい以外に、何かほかにも女優をしている理由がありそうですね。

 自己肯定感を強めたいから、ですかね(笑)。私は三人姉妹の三女なのですが、3人目なので、写真がまったくないんですよね。一番上は最初の女の子だから、親も沢山撮るんです。真ん中の姉は年子だったので、自然と一番上の姉とのふたりの写真が増えていく。でも、真ん中の姉と私は3つ離れていて。男の子でなくて女の子だったので、写真が本当にないんですよ(笑)。

――コンプレックスみたいなことですか?

 いえ、病んでもいないし、コンプレックスというほどではないのですが。テレビ番組で昔の写真を出してくださいと言われても、「本当にないんです」と断ってしまうほど(笑)。洋服も姉のお下がりで、学校の勉強にしても姉と比べられて。そうなると、自分の存在意義をふと考えたりするようになるんですよね。

――そこで人生の転機が訪れた?

 これも世間ではよくある話ですが、一度就職をしたときに、「この仕事は私じゃなくてもできるよな」と思ってしまったんです。じゃあ私にしかできない仕事って何だろうと思った時に、15歳の時に地元でスカウトされたことを思い出して。それがきっかけで、この仕事を始めました。どこかで昔からある劣等感とまではいかないのですが、常に自分はいていいんだと思いたいんです。私が勝手に思っているだけなのかもしれないのですが、自分で自分の居場所を作っておきたいんですよね。それが私にとっては女優という仕事だったのかなと思っているんです。

――この先、どういう女優になりたいでしょうか?

 それも返答に困っちゃうんですよね(笑)。母親にはデビューする前から常に「実るほど頭を垂れる稲穂かな」と言われてきました。あなたより上手い人、きれいな人はいくらでもいるのだから、礼儀をちゃんとしてなさいと、決して調子に乗らないようにと。37歳になった今でも言われ続けているんですよね。本当に子供みたいな言い方をしますが、真面目に手を抜くこともなく、ちゃんと真っすぐに向きあっていくことが大事かなと思っています。これからも、その気持ちを忘れないようにしていきたいと思います。

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