アタウアルパ(宮沢)

 渡辺謙と宮沢氷魚が14日、東京・渋谷のPARCO劇場で、舞台『ピサロ』(15日~6月6日)初日前会見と公開ゲネプロに臨んだ。約36年前に渡辺謙が演じたインカ帝国の王・アタウアルパ役を務める宮沢はどう向き合うのか。

 【写真】圧巻、黄金色に輝くアタウアルパ=宮沢の登場シーン

 本作は、16世紀に167人の寄せ集めの兵を率いて、2400万人のインカ帝国を征服した、成り上がりのスペインの将軍ピサロの物語。ピサロは渡辺謙が演じ、宮沢氷魚がインカ帝国の王・アタウアルパを演じる。

 昨年45公演の予定だったがコロナ禍で10公演のみの上演で中止となった。「中止が決まった時に謙さんが『また会いましょう』と言って下さったので『これは間違いなくやるんだ』と思っていました。悔しい思いをどこにぶつけたらいいかと思った瞬間もあったけど、それで前向きになれて、1年を経て同じ作品を披露できることが幸せです」

 再演自体が初めての経験だ。「同じ役を演じることで違う景色が見られたり、成長を感じられる瞬間もこの稽古で感じられて、作品としても個人としても成長した姿を見せられると思うと嬉しい」。渡辺から「かなり成長している」と太鼓判を押され、「かなりプレッシャーです」と照れながらも喜んだ。

 宮沢が演じるアタウアルパは自らを太陽の子と呼ぶインカ帝国の王。約36年前の日本初演で渡辺が演じていた役だ。宮沢は「当時のお話しや写真は残っているけど、あえて参考にしないでおこうと思いました」と語り、こう続ける。

 「当時演じられたアタウアルパと僕が演じるアタウアルパはキャラクターや存在感は違う。僕が演じたいアタウアルパをやろうと思いました。自分の引き出しを存分に使い生み出せるように考えていました」

 渡辺からアドバイスを沢山受けたという。「当時、僕がそうだったからこうしたほういいではなくて、ピサロという役を通してアタウアルパはどう見えるかを教えてくださって。考えるきっかけを与えてくださったことに感謝しています」

アタウアルパ(宮沢)

 首に黄金の塗料が塗られ、白の衣装に身を包んだ、アタウアルパ=宮沢は王たる風格が、会見中から漂っていた。

 渡辺は「この衣装を見て頂ければ分かると思うが超越している。神の存在。それを舞台でやるのは相当大変。僕も当時それを感じていた。去年演じているので、それありきのスタート。いろんなことを考えられる稽古場だったと思う」と宮沢を慮った。

 当の宮沢は「着いていくのにいっぱいいっぱいでした。でも1年でいろんな作品に出て経験も積みましたし、若手もかなりパワーアップして先輩に負けないようなエネルギーもあって。だから謙さんに負けないように演じたい」と意気込む。

アタウアルパ(宮沢)

 舞台は、ステージに大きく陣取る階段、そして、バックには巨大ビジョンが配する。この階段を使い様々な場面の環境を作り上げる。割れた階段から、背にいっぱいの光を浴びて登場したり、階段の上段に立つアタウアルパは黄金に輝き神々しい。太陽の子と形容するアタウアルパを象徴していた。

 階段に流れるマントのような衣装。引き締まった肉体。ピンと伸びる背筋。そして、所作と口調。宮沢にもともと備わっている気品が、王アタウアルパを作り出す。気品が高まれば、対峙するスペイン軍の将軍ピサロとのコントラストはより深みが増していく。

 物語の体格をなすのはピサロだが、それを引き出す重要な役どころ、アタウアルパを見事に演じている。

 【取材・撮影=木村武雄】

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