INTERVIEW

桜田ひより

作品を成立させるために存在したい。
『未来へのかたち』主人公の娘役


記者:鴇田 崇

写真:鴇田 崇

掲載:21年05月06日

読了時間:約7分

 映画・ドラマに出演作が続く女優の桜田ひよりが、映画『未来へのかたち』に出演した。約240年の歴史を誇り、国の伝統的工芸品に指定されている愛媛県の砥部(とべ)町の“砥部焼”を題材に、窯元一家が巨大な五輪聖火台づくりへ挑む物語だ。『瀬戸内海賊物語』『ポプラの秋』の大森研一監督のオリジナル作品で、現存する陶石採掘場や実際の窯元、焼き物などリアルな現場を追求するため、オール愛媛ロケを敢行した。

 桜田は、主人公・高橋竜青(伊藤淳史)と竜青を傍で支える妻・幸子(内山理名)の高校生の娘・萌役だ。対立している家族や砥部町の窯元たちへの想いを込めてシンパシーライジングを考案する重要な役割を、確かな演技力でまっとうしている。高校を卒業し演技に集中できる環境になり、6月18日(金)公開の森脇智延監督の映画『ショコラの魔法』でも、事件に関わる女子高生役を熱演。女優としてのキャリアを着実に重ねている桜田。「あくまで作品を成立させるために存在したい」と現在の演技への向き合い方を語った。【取材・撮影=鴇田崇】

マイコップも砥部焼

――よくあるような家族のドラマかと思いきや、陶芸のプロ同士がリスペクトしあっている熱いドラマがありました。

 わたしも最初に台本をいただいた時に同じように思いました。普通の家族というよりも、プロとしてのぶつかり合いができる家族なんですよね。それこそ世の中には同じ職業同士の夫婦の方もいると思いますが、お互いのプライドや家族のきずなも描く深いドラマになっています。今回、初めて砥部焼に触れたので、台本をいただいた段階でいろいろと調べて、萌ちゃんと同様、責任感を持って広めなければと思いました。

――役柄の設定だけれども、演じる上での責任として彼女の思いと重なりましたか?

 そうですね。砥部焼が仕上がっていく過程も全部頭に入れたり、実際にお話を聞いたり、愛媛でのロケ中も日常的に砥部焼に触れていました。自分が関わることで、きちんと正しく広めないといけないなと思いました。

――それはプレッシャーではなかったですか?

 お話を聞く前は砥部焼が何なのかもわからなかったんです。見たことはあるけれど、どういうものかはわからなかった。作品を通してすごく勉強になったし、楽しかったです。

高校生の娘・萌を演じる桜田ひより。『未来へのかたち』より

――改めて砥部焼の魅力について教えてください。

 愛媛に3週間ほどいたので、自分で窯元さんを見て回ったりもしました。食器はみなさんが日常的に使うなか、日本の伝統が代々カタチとして残っているものだなと思いました。ケンカしても割れないくらい丈夫だから、けんか茶碗と言われていて、何十年も使えるとうかがいました。耐熱性もあるそうです。いろいろ勉強になりました。

――すっかりファンになってしまった?

 そうですね(笑)。撮影がお休みの日などは砥部焼を買いに行って、東京に戻って来た時にお世話になっている方や、友だちに砥部焼をプレゼントしました。家にも砥部焼がたくさんあります。今、使っている自分のマイコップも砥部焼です(笑)。

桜田ひより

どうしてこの役が必要なのかを考える

――ところで仕事の話ですが、高校を卒業され、仕事により集中する環境になりました。

 高校を卒業して、より一層社会に出たと感じています。それまでは学生という枠に守られ、浮ついている部分があり、ちょっと甘えていたところもあったと思いますが、これからは社会人として、この仕事をやっていくという責任感を感じています。

――作品に出る際は、どういう向き合い方をしていますか?

 爪痕を残すというよりは、その作品に存在したいと思っています。役として目立つことも大事だと思うのですが、その目立ち方をはき違えると、作品全体を壊してしまうことにもなりかねないので、その作品においての自分の立ち位置を考えながら、毎回作品には臨むようにしています。

――存在するというのは、具体的にはどういうことでしょう?

 その作品に、どうしてこの役が必要なのかを考えるんです。たとえばドラえもんだと、ジャイアンはなんでいるんだろう?と考えた時に、のび太がドラえもんに頼るきっかけを作るのがジャイアンなんですよね。そういうところを考えたりしています。ジャイアンとして目立つというよりかは、作品を成立させるために、どんな役割を担うべきかを大事にしてお芝居をしています。

――今回の場合、ミュージカルを提案する重要な役割がありました。

 萌ちゃんがいなくて夫婦間の話だけだと、たぶん大人の話になりそうだと思いました。そうなると、話自体がもっと緊迫した感じになりそうですよね。でもそこに娘としての萌ちゃんがいることにより、若い世代の目線も入るし、お父さんとお母さんの雰囲気も和らぐ。なので、そのために萌ちゃんがいるんだと考える、そこから役作りが始まりました。

――それはどういうプロセスで役柄に反映していくのですか?

 あくまで参考にしている程度です。作品を作るのは脚本家さんや監督さんやプロデューサーさんなので、自分の意見は参考程度に頭の中で思っているだけです。なので、あるセリフがどうして出てくるのかわからない時は、自分の視野が狭くなっている時だと思い、全体を見るように努めます。

――別の作品ですが、『男はつらいよ』でも父親を激励する娘役を丁寧に演じられていましたよね。

 山田洋次監督からは、お母さんみたいな存在がいない家族なので、お父さんだけれど自分の息子を叱るようにしっかり者でいてください、と言われていました。わたしもそうだなと思い、お母さんの代わりに自分がしっかりしなきゃという思いが自然と出て来ました。そこがお父さんとの関係性ですよね。本当に困ればお父さんを頼るし、そうじゃない時はお尻を叩くような。そこが自然に描かれているなと思いました。

――今後は、どういう女優になりたいのですか?

 実は強いこだわりがあるわけではありません。ある意味、そこに囚われすぎると、自分のことを追い込んでしまうかなと思っているので、そこは深くは考えずに、今、いただいているお仕事を自分が一番リラックスした状態でできるようにしています。

桜田ひより

自分らしさ

――ちなみにリラックスするために、音楽が日常にあったりしますか?

 毎日、欠かさず聴いています。プレイリストがあるので、それを聴いています。ずっと好きなアーティストの方がいて、サブリナ・カーペンターさんという女性のアーティストがいるのですが、ずっと昔からファンです。彼女の曲は全て好きです。いつかお会い出来たらいいなと思っています(笑)。

――今は仕事も多様性の時代ですが、その中で自分らしさを考えたりはしますか?

 得意なことや、人より優れているものがないんです。それこそ5歳からこの仕事を始めて、習いごともせず、勉強も得意ではなく、運動ができるわけでもない。自分の武器にできているものが何なのか、正直、思い当たらないんです。でも裏を返せば何にも染まっていないので、この先の人生、何にでも染まっていけるなと。なので、そこは一種の良さとして受け止めたいなと思っています。

――今後の活躍にも期待しています。

 まだ得意なことが見つかっていないもどかしさというか、これをやってみたい、あれをやってみたいという欲もそこまでないので、それがいいか悪いかはわからないのですが、いただいたお仕事に対して全力で応えていく、そういう状態もいいかなと思っています(笑)。それが自分らしさかなと思いながら、日々を過ごしています。

桜田ひより

メイク:面下伸一(FACCIA)
スタイリスト:福田亜由美(crepe)

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鴇田 崇

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