桑田佳祐が7日、Blue Note Tokyoから配信ライブ『静かな春の戯れ ~Live in Blue Note Tokyo~』をおこなった。本公演はライブハウスという原点に帰った一夜限りのプレミアライブでアンコールを含む全24曲を披露。桑田の珠玉の楽曲から初歌唱曲にカバー曲と、ありとあらゆる曲目が鮮やかな色彩のアレンジで演奏された。どんな状況下であっても最前線で最新のスタイルを魅せる桑田のBlue Note Tokyo配信ライブ公演のもようを以下にレポートする。【取材=平吉賢治】

桑田がさらに照らす新たな光

(撮影=岡田貴之)

 本公演は桑田のソロとして初の配信ライブという新たなスタイル。桑田がフロントマンを務めるサザンオールスターズは、2020年には積極的に、精力的に、配信ライブ公演をおこなった。

 2020年6月25日に横浜アリーナでおこわれた大規模無観客配信ライブ『サザンオールスターズ特別ライブ2020「Keep Smilin’〜皆さん、ありがとうございます!!~」』では、コロナ禍で数多くの公演が延期や中止となっている中、あらゆる人々への感謝の気持ちを込めて実施し、新しいライブエンターテインメントの可能性を示した。

 さらに同年12月31日には、『サザンオールスターズ ほぼほぼ年越しライブ 2020 「Keep Smilin’ 〜皆さん、お疲れ様でした!! 嵐を呼ぶマンピー!!〜」supported by SOMPOグループ』を開催。コロナ禍によって生じた様々な制限の中、サザンは果敢な姿を、斬新な景色を、音楽家と音楽ファンにとっての希望の轍を深く刻み込んだ。

(撮影=岡田貴之)

 2020年のサザンの2度の配信ライブを観て感じられたことは、困難な状況下でも照らす希望の光、どんなシチュエーションでも魅せる粋な姿、そして、全方面に向けられる感謝の想いとエンタメの秘めたる可能性の大きさだった。

 桑田はデビューから時代背景に寄り添った様々な音楽を発信し続け、時代を経ても色褪せない普遍的な音楽を発し続ける。音楽家としての確固たる核がある中で、様々な“人間”の姿と魂のかたちを音楽で表現し、あらゆる方法でアウトプットし続けている。

 そんな桑田の今回のライブも「Blue Note Tokyoから配信でお届け」という新たなスタイルだ。桑田の胸いっぱいの愛と情熱はありとあらゆる場所から発せられ、我々の心をいつだって奮わせてくれる。

森羅万象の音楽的パフォーマンス

(撮影=岡田貴之)

 「ソバカスのある少女」から始まった公演は、画面越しにBlue Note Tokyoのムーディーな空気感がいっぱいに伝わってくる。続く「孤独の太陽」と、アコースティックアレンジで進み出したライブは「若い広場」に入るとバンドのアンサンブルが一気に広がる。

 桑田は「Blue Note Tokyoで、このステージに上がれるというのは本当に私にとって憧れでして」と、清々しい表情で語る。そして、本公演を「少し大人っぽい感じ」とも言葉にする。それはここまでの3曲の披露で十分に伝わってくるテイストであり、怒涛のように押し寄せるチャットのコメントでは、序盤からライブに対する好評の声が続々と上がっていた。桑田は「素敵な春を迎えられますように、祈りを込めて、切に願いながら――」と、本公演のタイトルにかかるメッセージを伝え、ライブを進める。

 着座しながらのパフォーマンスは威風堂々と、大人の雰囲気はたっぷりと、懐の深さが滲み出るように、ありとあらゆるテイストのアレンジで各楽曲が披露された。清涼感とグルーヴ感がたまらない「こんな僕で良かったら」、ジャジーかつ情熱的な「愛のささくれ~Nobody loves me」、しっとりと聴かせてくれた「簪 / かんざし」、生命力漲るような頼もしい低音の打拍が印象的な「SO WHAT ?」と、森羅万象の音楽色を惜しみなく広げた。

 桑田は「医療に従事されている方々をはじめ、本当にみなさまご苦労様でございます」と、視聴者に温かい言葉をかけてくれる。ライブハウスからの配信というシチュエーションにピッタリとはまる温度感、空気感、桑田の語りかける声のトーンが心地良く我々に伝わってくる。続いて「かもめ」「灰色の瞳」と、カバーコーナーへ突入。Blue Note Tokyoでのこの日限りの貴重なカバーアレンジと言えるだろう。

 この日の公演場所がBlue Note Tokyoということで、「あの曲はどのタイミングでやってくれるんだろう?」と、待ち望んでいた視聴者は少なくないのではないだろうか。あらゆるアレンジで魅せ、カバーも披露し、そして、このタイミングで放たれた「東京」は本公演のハイライトのひとつと言えよう。青く燃えるような楽曲の世界観がエモーショナルにBlue Note Tokyoから飛散した。

 そして、桑田は「改めて今年も、アスリートをはじめ、みなさまに我々のエールが届くように、本日みなさまの前で初めて歌わさせて頂きます!」と言葉を添え、「SMILE~晴れ渡る空のように~」初歌唱という貴重なテイクを披露。希望に満ちた歌詞が包み込むように、我々の心の奥底の情念を奮い立たせてくれた。

 本公演は、ホールやアリーナなどの大会場でのパフォーマンスとは異なるテイストで、大人なムードと優しさ、桑田からのポジティブなメッセージが伝わってくる。温かく、楽しく、心を豊かにさせてくれる、人間味溢れるバイブスを放っていた。エネルギッシュな演奏、桑田の魂のシャウトが胸に刺さる「スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)」では、桑田と各メンバーとのコール&レスポンス、スタッフが合わさるコーラスなど、逆にこういった状況下ではないとまず観られないであろう新鮮なアプローチも。そしてロックンロールな「真夜中のダンディー」で本編は華麗に着地。可視化されているチャットのコメントがサウンド化して聴こえるような幸せな錯覚すらおぼえる。

(撮影=岡田貴之)

 そしてアンコールはドクター・ジョンや沢田研二のカバー曲を含む5曲を披露。ラストは「明日晴れるかな」という、現在の困難な状況下に直面している人々の心を大いに奮わせるナンバーで締めくくった。「素晴らしい春をお迎えください」と、桑田は最後にメッセージを寄せて公演は幕を閉じた。

一夜限りの最新の文化的な時間

 本公演のセットリストは「これはやってほしい」と思われる、期待に応えてくれる曲から、「この曲がくるとは思わなかった」という、良い意味で意表を突いてくる曲、レアな初歌唱曲、そしてカバー曲の披露と、非常に鮮やかなセレクトだった。

 そして、桑田が生み出す楽曲の奥深さがありとあらゆるアレンジのライブ演奏で掛け算され、色彩豊かに表現されていた。様々な音楽性の良質な成分が網羅され、桑田の歌声と演奏、そして百戦錬磨のミュージシャンの方々、一丸となったスタッフの方々、関係者全員によって、一夜限りの最新の文化的な時間を創り上げていた。

 さらに、音声に画質、画角やカメラワークなどに着目すると、現場では観られない角度での桑田やミュージシャンの表情、手元、所作、それらが鮮明に、ベストなタイム感で表現されており、その魅力は生ライブとは別軸の格別さがあるのではないかと感じられ、「配信ライブという最新の表現」と感じられた。そこからは、桑田と演奏メンバーの音楽力、スタッフの方々、関係者のチーム力と一体感を感じずにはいられなかった。

 2020年に桑田は、サザンオールスターズで無観客ライブを誰よりも早く大規模アリーナ会場でおこなうという果敢な姿を見せてくれた。そしてこの日は、ライブハウスからソロとして初の配信ライブという、また別のアプローチでエンタメの新たな在り方を提示した。

 桑田は「どんな状況下であっても最前線で最新のスタイルを」という姿勢を、時代に寄り添った姿を、音楽というパワフルな文化を常に発信する。この一夜で桑田がくれた“静かな春の戯れ”は我々に、素晴らしい春をもたらしてくれるだろう。

 このライブは3月14日(日)23:59まで見逃し配信中(現在も視聴チケット購入可)。

セットリスト

『静かな春の戯れ ~Live in Blue Note Tokyo~』
2021年3月7日@Blue Note Tokyo(配信ライブ)

01.ソバカスのある少女/ティン・パン・アレー
02.孤独の太陽
03.若い広場
04.DEAR MY FRIEND
05.こんな僕で良かったら
06.愛のささくれ~Nobody loves me
07.簪 / かんざし
08. SO WHAT ?
09.東京ジプシー・ローズ
10.グッバイ・ワルツ
11.月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)
12.かもめ/浅川マキ
13.灰色の瞳/加藤登紀子&長谷川きよし
14.東京
15.SMILE~晴れ渡る空のように~
16.明日へのマーチ
17.大河の一滴
18.スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)
19.真夜中のダンディー

ENCORE

EN1〜2.Iko Iko/ドクター・ジョン〜ヨシ子さん
EN3〜4.君をのせて/沢田研二〜悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)
EN5.明日晴れるかな

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