Kitri、音楽会で魅せた更なる可能性への礎
『キトリの音楽会#3“木鳥と羊毛”』
『キトリの音楽会#3“木鳥と羊毛”』(撮影=Masatsugu ide)
ピアノ連弾ボーカルユニットのKitriが15日、東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASUREでワンマンライブツアー『キトリの音楽会#3“木鳥と羊毛”』の東京公演を行った。昨年行う予定だったツアーの振替公演で1月16日の大阪を皮切りに、2月21日の金沢まで4公演を行うというもの。この日、4月21日に2ndアルバム「Kitrist II」をリリースする事を発表した。ライブはアコースティックデュオ羊毛とおはなより羊毛(Gt)を迎え、1stアルバム『Kitrist』の楽曲を中心に「異邦人」、「二人セゾン」、「パルテノン銀座通り」などカバー曲、2月24日に2ndアルバムより先行配信される新曲「未知階段」などアンコール含め全16曲を届けた。その東京公演の模様を以下にレポートする。
「2人では挑戦できないようなライブにしたい」
2019年にメジャーデビューし、昨年1stアルバム「Kitrist」をリリースしたKitri。コロナ禍でアルバムのツアーは延期。コンスタントに新曲、カバーアルバムも配信リリースし、配信ライブなどで姿、演奏は観れていたものの、当初予定していたこのアルバムのためのライブはなかなか実現出来ていなかった。アルバムリリースから約1年、遂に生でこの作品を体感できる日がやってきた。Kitrist(ファン)もこの1年間相当聴き込んできたのではないだろうか。
Kitriは感染症対策を徹底しながら観客数制限のもとライブツアーを開催しており、この日も約一年振りのライブを待ちわびたファンがSHIBUYA PLEASURE PLEASUREに来場。開演定刻になるとMonaとHinaの2人が赤い衣装に身を包み、ステージにゆっくりと登場。グランドピアノにスタンバイし、フランスの作曲家サン=サーンスの「水族館」で幕は開けた。流暢なピアノ演奏で我々をもてなす。早くも現実と非現実の世界を行き来するかのような音空間を展開。
そして、1stアルバム『Kitrist』に収録された「鏡」へと紡がれた。重厚な3拍子のリズム、クラシカルなKitriらしさあふれる1曲。厳かな雰囲気の中に、姉妹ならではの息のあったピアノ連弾による演奏は、音だけでなく視覚的にも楽しませてくれる。
「2人では挑戦できないようなライブにしたい」
MonaのMCからもわかるように、この日のライブの注目ポイントは羊毛が参加したことによるサウンドのバリエーションの変化と豊かさだった。もちろん2人のみでの演奏でもHinaがさまざまな楽器をマルチに演奏し彩りを加えてきたが、羊毛によるガットギターやマンドリンという弦楽器が加わることで、より鮮やかに楽曲を聴かせてくれる。Kitriの2人も羊毛の音色に舌鼓といった様子。
羊毛が参加しての「Akari」。オリジナル音源では大橋トリオが担当していたマンドリンを演奏し、心地よい空間を終始作り出していた。そのサウンドに加え、Hinaは小媒体のインタビューで、新しい楽器を準備していると話していたことをふと思いだした。その一つに同曲ではアコースティックベースを使用し、楽曲の根幹として重要な低音を担当。続いての“裏Kitri”を堪能できるプログレッシブな1曲「矛盾律」では以前からも披露していたコンサーティーナ、さらにカホンやカスタネットなどジャンルが異なる楽器を駆使して表現。その効果も絶大でMonaが奏でるシックなピアノ演奏に、よりカラフルに彩っていく。
ショパンの「子犬のワルツ」のような軽快さを彷彿とさせる「雨上がり」から、カバー曲として久保田早紀(現・久米小百合)の「異邦人」を披露した。この選曲がまた秀逸で、Kitriのカラーに見事にマッチしていた。ノスタルジックな楽曲に2人のトランスペアレントな歌声が美しく響き渡っていた。
そして、その歌声は欅坂46のカバー「二人セゾン」でもより輝きを増していた。憂いを帯びながらも高原に心地よい風が吹くかのような、よりメロディを際立たせるアレンジと演奏で観客を魅了した。続いてはHinaがライアーという小降りな竪琴を使用し、その澄んだ美しい音色が加わりライブならではの一面を見せてくれた「バルカローレ」。複合拍子で展開される同曲は羊毛の奏でるマンドリンとのコンビネーションでまた音源とは違う景色を見せてくれた。これまで音源として聴いていたものが、ライブという場所で楽曲が進化していく様を感じられる楽しさがあった。
新曲「未知階段」を披露
MCでは4月21日にセカンドアルバム「Kitrist II」をリリースすることを発表すると、大きな拍手が会場を包み込んだ。春への楽しみが増えたところで、2月24日に先行配信される新曲「未知階段」を披露した。これまでのKitriでは珍しいフォルテ、力強さを感じられる一曲で、未知なる未来への階段を恐れずに登っていくような情景を思い起こさせ、この楽曲から彼女たちの未来への気概を感じさせてくれた。そして、ニューアルバムへの期待感が高まったのは言うまでもないだろう。
そして、「聴く度に初心を思い出す」と、アルバムのライナーノーツでコメントしていたKitri初期の頃から存在し、音楽を続けていくことへの不安や迷いが綴られた「別世界」から、本編ラストは躍動感のあるピアノに<強くなれ涙目 前を向いて>と背中を押してくれる言葉と、肯定感のある上昇志向の強いメロディが活力を与えてくれる「さよなら、涙目」で締め括り、2人はステージを後にした。
アンコールの手拍子に導かれるように再びステージにKitriの2人と羊毛が登場。届けられたのは、フォークロック・バンドたまのカバーで羊毛の透き通るようなギターとMonaの歌から始まった「パルテノン銀座通り」を披露。これまでも様々なカバーを行いKitriの音楽として昇華してきた2人。この曲でもオリジナルの良さ、本質をしっかりと見極め残しつつも、違う一面を反映した一曲に仕上げ、カバーの意義や面白さを感じさせてくれた瞬間だった。
そして、Kitriのデビュー曲で2人のメジャーへの決意が込められた「羅針鳥」は、羊毛のマンドリンが加わることにより、また一つ違った次元へとブラッシュアップされていた。マンドリンの煌びやかな音色がアクセントとなり、華やかに鳥が羽ばたいていくような感覚を与え、同曲の持つ可能性をさらに感じさせた。
最後に届けたのは「Lento」。音楽用語でゆったりとという意味を持つ同曲。コロナ禍での不安を拭い去るように、優しく、優雅で温かく包み込んでくれるような感覚を与えてくれた。全てが有機的で、人の温もりが伝わってくるよう。このライブのエピローグのような役割を果たしてくれていた。
あっという間の約90分間。もっとこの空間に身を委ねたい、と思った人も多いのではないだろうか。ライブが終了した後、帰路に向かう観客の表情がそれを物語っていたように思えた。まだまだ可能性を秘めたKitriの音楽は、今の不安が多い世界には必要で、彼女たちが2021年でどんな飛躍を見せるのか、期待感しかなかった。【取材=村上順一】
セットリスト
『キトリの音楽会#3“木鳥と羊毛”』
2月15日@東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
01.水族館
02.鏡
03.Akari
04.矛盾律
05.青空カケル
06.雨上がり
07.異邦人
08.二人セゾン
09.バルカローレ
10.春
11.未知階段
12.別世界
13.さよなら、涙目
ENCORE
EN1.パルテノン銀座通り
EN2.羅針鳥
EN3.Lento












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