Kitri「自由に生まれてくる発想を大事に」EP「Bitter」で見せた新たな一面
INTERVIEW

Kitri

「自由に生まれてくる発想を大事に」EP「Bitter」で見せた新たな一面


記者:村上順一

撮影:

掲載:22年03月21日

読了時間:約12分

 姉のMonaと妹のHinaによるピアノ連弾ボーカルユニットのKitri(キトリ)が3月11日、配信EP『Bitter』をリリースした。 自由な発想のもと制作された4曲を収録したEPは、「Kitriの楽曲に表と裏があるとしたら、今回は、普段は秘密にしているような裏側の世界をのぞいてもらえるような、そんな作品になりました」とリリース時のコメントでも語っていたように、これまでのKitriとはまた違った世界観を提示。インタビューでは、「踊る踊る夜」MVに自身で挑戦した経緯や、『Bitter』の制作背景に迫った。【取材=村上順一】

ダークな世界観にどこか毒がある『Bitter』

配信EP『Bitter』ジャケ写

――今回の作品を制作するまでに、どんな話し合いがあったんですか。

Mona チーム含めてこれまでいろんな曲を作らせてもらって、例えば何かの主題歌などお題があって作らせていただいたりテーマがあったんですけど、今回はあえてKitriの自由に生まれてくる発想というのを大事にした曲を作っていこうとなりました。最初EPにする予定はなくて、それぞれ自由な発想の中で曲を作っていって、全部違う世界観だけどEPにしたら面白いんじゃないかとなりました。

――Hinaさんは今作が完成してみてどんな気持ちですか。

Hina すごく満足度の高い作品ができました。Monaがデモの段階で曲を聴かせてくれたときに、すごく格好いい曲がたくさんできたと感じ、歌詞を書く作業も今まで以上に自分がやりたいことを取り入れたりして、楽しみながら作ることが出来ました。

――EPのタイトルは『Bitter』ですが、これはチームで考えられたタイトルなんですか。

Mona チームで考えました。いつも曲を聴いた時に希望を持たせたい、最後に希望を入れたいというのがあるんですけど、今回はそれだけではなくダークな世界観にどこか毒があるので、それを表すのに適している言葉は『Bitter』だなと思いました。

――EPはメジャーになって3枚目ですが、お2人にとってEPとはどのような存在の形態なんですか。

Mona シングルともアルバムとも違って、自分たちのカラーを強く表現できるものなのかなと思います。アルバムだと曲数が増えるので多様性が生まれますし、逆にシングルだと1曲がKitriになってしまうんですけど、EPだとそのEP全体のカラーが強く滲み出てくると感じています。

――EP1曲目の「踊る踊る夜」歌詞には画家の名前が沢山出てきて、それもユニークですね。

Hina 最初は全然違う歌詞を書いていて、冒頭の<真夜中 ひとりきりのアトリエ>というのは最初からあったんですけど、書いていく中でだんだん画家の苦しみといったイメージが見えてきました。それで歌詞を一度Monaにみせたところ、「もう少しリズムに乗った遊び心のあるものにブラッシュアップしてみるのはどう?」というリクエストを受けました。それで単語を並べて韻を踏んでみようと思いました。私が絵画にちょっとはまっていたので、画家の名前を並べてみたら面白いかなと思いました。

――特にインスピレーションを与えてくれた絵画はあったのでしょうか。

Hina インスピレーションを受けたものは、ヒエロニムス・ボスという画家がいるのですが、そのボスの「快楽の園」という絵がありまして、歌詞をブラッシュアップする時にその絵がパッと思い浮かんで。その絵を見ながら書きました。

――楽曲のポイントは?

Mona Kitriのピアノはストーリー性だったり、展開をすごく大きく変えたりするのが持ち味でもあると思っています。でも、ダンスミュージックを聴いてると、割と同じフレーズをループさせて、そこに歌を乗せているんですよね。それで仮タイトルは「ループ」と名付けて、短いフレーズを繰り返すイメージで発展させていく曲にしたいと思いました。

――SNSで拝見したんですけど、この曲のアレンジを担当している神谷洵平さんが、この曲のデモを聴いてスティーリー・ダンみたいだった、とおっしゃっていたのが印象的でした。

Mona 神谷さんはいろんな音楽が常に頭に鳴っていて、イメージも豊富な方なので、ご自分の中でこういう方向にしようとあったみたいです。レコーディングするまでに神谷さんとデモのやりとりをしていたんですけど、神谷さん自身がピアノを入れてくださったりして、勉強させていただきました。

――歌詞に<時計の針は午前2時>とありますが、お二人は午前2時はどんな時間ですか。

Mona 私は曲を制作してることが多いですね。その時間に起きてる時は基本的に制作をしていて、基本的に寝ていたい時間なんですけど、すごく集中できる時間なんです。

Hina 0時ぐらいには寝たいとは思っています(笑)。

――午前2時というのもそうなのですが、収録曲には「時間」というテーマがあるのでは? と感じたのですが、意識されていました?

Mona意識はしていませんでした。曲の中で両者が描きたい描写を入れようと思ったときに、時間というものが自然とお互いに取り入れていたのかなと思います。

自分たちでアニメーションにしたら、すごく面白いものができるんじゃないか

――「踊る踊る夜」のMV(ミュージックビデオ)は、お2人がアニメーションを担当されたとか。

Mona「踊る踊る夜」のMVを作りたい、という気持ちは私たちもスタッフの皆さんもありましたが、この世界観を言葉で共有するというのはすごく難しいとなんとなく思っていました。 当初は誰かにMV制作をお願いしようかという話が出たときに私が、「今回Kitriがやってみたいです」と言ってしまいまして。

――突発的に。

Mona 自分でもビックリしたんですけど、この世界観を頭の中にあるものは、自分たちでアニメーションにしたら、すごく面白いものができるんじゃないかという漠然としたイメージがありました。アニメーションの動かし方も、何もかもわからなかったんですけど、まず絵コンテを描いて、絵の動かし方をHinaが研究して、2人で技術を高め合って形にしました。

――Hinaさん、自分たちでやると聞いた時、どう思いました?

Hina たぶん何にも考えずに作ってみたいと言ってしまったんだろうなって(笑)。でも、そのアイデアを聞いて「私も参加したい!」と思ったので、すごく楽しかったです。

――アニメーションとしての見せ方として、何か参考にされた作品はあったんですか。

Mona ヤン・シュヴァンクマイエル(チェコスロバキア・プラハ生まれの芸術家、アニメーション作家・映像作家、映画監督)がすごく好きで、そこを目指したわけではないのですが、印象的でスルーできない感じは、私たちの作品でも取り入れたいとは意識はしていました。

――ちょっとクレイアニメっぽい趣きもありますよね。

Mona アナログで絵を実際に動かしてる部分と、デジタル技術を使っている部分を織り交ぜていて、独特のアニメーションになったと思います。

新たな発見があった「実りの唄」

――「実りの唄」は架空の民謡をイメージされたとのことですが、この着想はどこから生まれたのでしょうか。

Mona 世界各国の音楽や動画を見たり聴いたりしていたんですけど、その中で大地のみが広がるようなところで、パーカッションのリズムだけに乗って、何人かの女性がアカペラで歌う映像があって、そこから関連するものを観ていきました。その中で自分たちの音階だったり、風土を感じる音楽をやっている方がたくさんいらっしゃることを知ったときに、Kitriも民謡を作ってみたいと思いました。もちろん民謡って作ろうと思って作るものじゃないと思うのですが、その土地の空気だったり、大地だったり、何か自然とリンクしてるような音楽を作ってみたいと思ったんです。

――Kitriは海外に住んでいたこともあるし、いろいろな土地の感覚があるじゃないですか。それがどうを作用しているのかというのもすごく興味深かったです。

Mona 過去に作った「矛盾律」という曲があったんですけど、あの曲も知らない国をイメージしたところもありました。今回も架空の地域ではないですけど、Kitriから自然に湧き出たもの、日本らしさもあり、どこかの国のようなメロディーもあり、そんな音楽にできたらと思いました。

――Hinaさんはレコーディングで印象的だったことはありましたか。

Hina もともとデモでは私がサビで高い方を歌って、Monaが低い方を歌っていました。本番のレコーディングをするときに、やっぱり入れ替えてみようとなって、入れ替えてみたら、どっちの声かわからないくらいすごく裏声が似ていて。サビでまた入れ替わるのですが、その入れ替わりがすごくナチュラルでスムーズで、どちらが歌っているのかわからないような感じになるのがすごく印象的で気に入っています。

――新たな発見があったんですね。コーラスもすごいフィーチャーされていて。

Mona アカペラで歌う女性を見て、コーラスでこれだけ心を掴むのはすごい、というところから私たちもコーラス部分を聴かせたいと思いました。ピアノだったり楽器アレンジが入ることで、最初に想像してたよりもはるかにスケールの大きい曲になってすごくいい曲になったと思います。

――何十人かで歌っているかのように聴こえますが、ゲストを入れたり?

Mona 私たちだけでいくつも重ねていきました。クイーンの「Bohemian Rhapsody」もそういったことをされていたので、私たちも自分たちでできることはやりたい思いました。自分たちの声を何度も録って重ねるからこそできるものもあるんじゃないかなと。機械では表現しきれない細かなニュアンスとか、その時に欲しい歌声というのは、自分たちだからこそできたと思います。

勇気を出したリーディングパート

――3曲目の「左耳にメロディー」は作詞はMonaさんとHinaさん、お2人で書かれていて。

Hina この曲はまずベースとなる歌詞を私が書いて、途中で行き詰ったときに、Monaが途中から一緒に考えてくれました。

――この曲はリーディング、朗読のようなスタイルのパートも印象的でした。

Mona いつもは歌メロを中心として作っていくんですけど、ピアノと伴奏のリズムから作っていたので、あとでメロディーを乗せるというスタイルで、なかなかAメロのところがはまらなくて、いいのないかなと迷っていたときに、リーディングで録音してみたら、こっちの方が新しいかも! と手応えがあって。Hinaもスタッフさんも「いいね!」と言ってくださったので、勇気を出した部分もあります。

――Hinaさんの作詞ですが、「左耳にメロディー」というタイトルはHinaさんが?

Hina タイトルは最後まで考えたのですが、私はなかなか思い浮かばなくて...。Monaがつけてくれました。

Mona 片耳からメロディが聴こえてくる、というところがこの曲のテーマかなと思って。

――歌詞の<Tempo=100 イントロダクション リズミカル ウィスパーボイス>とは、具体的にイメージした曲とかあったのでしょうか。

Hina カタカナで響きのいい言葉を入れたいなと考えていたので、何か具体的な曲を想像したというわけではないんです。歌詞はすごく迷って、Monaが「電車の中での数分間の出来事として書いてみたら?」と、アドバイスをくれて。加えてMonaが<あの歌ですか?>というフレーズも考えてくれました。

Mona 知らない2人が音楽を通して始まるストーリーと言いますか、それがすごくKitriらしい歌詞になったと思います。

自分たちをプロデュースする能力、スキルを高めていきたい

――「悲しみの秒針」はまさに”悲しみ”というワードが合う楽曲ですね。心が揺さぶられるような楽曲で。

Mona 割とオーソドックックスなテーマで、みなさん一度は歌で悲しみを表現した曲を聴いたことがあると思うんですけど、生きていれば悲しい歌にどこか影響を受けている部分はあるんじゃないかと思いました。その想いから今回悲しみをテーマとして捉えた曲を作りたいと思いました。

――この曲を最後にした経緯は?

Mona この順番しかないなと思いました。私たちの中ではスタッフの方も交えてなんですけど、「踊る踊る夜」から始まりにこの「悲しみの秒針」に落ち着きたいと自然と思って。EPの音楽性の幅を楽しんでいただけるのかなと。

――どんなことをイメージして歌われたのですか。

Mona 何か衝撃を受けたときの悲しみ、忘れられない光景を見てしまった時の絶望感を歌で表現してみました。衝撃的なものとは自分としては感じたくない感情なんですけど、日常ではなく非日常、ピアノで例えたら低音部をガーンと鳴らしたような瞬間を歌で描きたいなと思いました。

Hina これまでのKitriの曲にも悲しみという感情自体はありました。でも、これまでと違うのは自分とあなた以外の第三者の目線みたいなものが入っていて、それがすごく珍しいと思いました。自分もアンニュイさを入れながら歌いたいと思ったのを覚えています。

――今回、制作する中で特に苦労された曲は?

Mona 「左耳にメロディー」です。2ndアルバム『Kitrist II』に種録された「NEW ME」と同じ手法で、礒部さんのトラックありきで作り始めた曲でした。こうやり取りの中で、こう来たか。じゃあどう返したらいい? という感じで試行錯誤をした曲でなんです。Kitriにないエッセンスが取り入れることができたので、難しさはありましたが、面白い曲にはなったと思います。

――『Bitter』の中でマニアックな聴きどころはありますか。

Mona 「左耳にメロディー」はオンラインでミックスダウンを行いました。エンジニアの方と礒部さんとKitriでオンライン上でやりとりさせてもらって、場面ごとにいろんなエフェクトを入れてもらっています。曲の中にゆったりとしているところでは全然違うリバーブを掛けてもらっているんですけど、いい環境で聴いていただくと、音の体験ととして楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。

――良いヘッドフォンやイヤホンで聴いたら、より楽曲を楽しめそうですね。さて、これから2人がチャレンジしたいことは?

Hina 私はこのEPを作ってからすごく自由な発想、自分がこれをやりたいって思ったことをどんどんやっていきたいなとより感じました。人にまだまだ歌詞の作り方だったりとか、世界観とかも言いたいこともたくさんあるので、ひとつひとつ自分からアイディアを出して作っていけたらなと思っています。

Mona 自分たちで自分たちをプロデュースする能力、スキルを高めていきたいなと思っています。今までいろんな方に力を貸してもらいながら作品を作り上げてきました。それはこれからも変わらないんですけど、もっと自分たちの出す音に対して、アレンジやミックスダウンまで、もっとこだわりを持って細部まで作り上げられるユニットになりたいと思っています。もしかしたら一生かかるかもしれないですけど、自分たちの目標とするレベルまで引き上げられるような作品作りができたらと思っています。

(おわり)

<ツアー情報>

Kitri Live Tour 2022 SS キトリの音楽会#5“tea for two”

Kitri Live Tour 2022 SS キトリの音楽会#5“tea for two”
日程・会場
5月20日(金)福岡公演
OPEN18:00/START19:00
会場:ROOMS

5月27日(金)東京公演
OPEN18:00/START19:00
会場:ARK HILLS CAFE

5月29日(日)仙台公演
1st OPEN14:15/START15:00
2nd OPEN17:45/START18:30
会場:retro Back Page

6月3日(金)岡山公演
OPEN18:00/START19:00
会場:蔭凉寺

6月5日(日)下関公演
OPEN14:00/START15:00
会場:川棚の杜コルトーホール

6月10日(金)金沢公演
OPEN17:45/START18:30
会場:shirasagi/白鷺美術

6月17日(金)名古屋公演
OPEN18:00/START19:00
会場:伏見ライオンシアター

6月25日(土)京都公演
OPEN17:00/START17:30
会場:紫明会館

<ライブ詳細>
https://columbia.jp/kitri/ongakukai5.html

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