姉のMonaと妹のHinaによるピアノ連弾ボーカルユニットのKitri(キトリ)が4月21日、2ndアルバム『Kitrist II』をリリース。Kitriは2016年、ライブで京都を訪れていた大橋トリオの手に自主制作盤が渡り、その音源を聴いた大橋が絶賛。2019年1月にファーストEP『Primo』でメジャーデビュー。2020年1月にリリースされた1st アルバム『Kitrist』より約1年3カ月振りに届けられた今作は昨年3作連続配信リリースした「Lily」「人間プログラム」「赤い月」の3曲に加え、今年開催されたライブ『キトリの音楽会#3“木鳥と羊毛”』で初披露された「未知階段」など全11曲を収録した。インタビューでは新しい挑戦も詰まった今作の制作背景に迫った。【取材=村上順一】
自分を信じて後悔がないように生きていきたい
――今年は有観客でのライブも出来て、良いスタートが切れましたね。
Mona 去年開催されるはずだったライブが2度延期になって、中止になるかもと思いながら過ごしていて、ようやく開催できたツアーでした。お客さんに見てもらえるだけでなんて素晴らしい事なんだと思いました。ライブは私たちが出来ることを探して音楽を届けていくという決心がついた時間でした。
Hina 音楽が出来ることの有り難さ、当たり前じゃないということを実感しました。皆さんにお会いできたことが何より嬉しかったです。これからは今回、いけなかった場所にも届けて行けるように、いろんな方法を使って歌を届けて行きたいです。
――ライブといえばどんどん楽器が増えていっているので、搬入も大変そうですね。
Mona どれだけコンパクトに出来るかというのも課題です(笑)。新しいことに挑戦したいという気持ちが強いので増えていってしまうんです。今回ギターに羊毛さんをお迎えしたんですけど、これまでのライブよりも安心感がありました。
――3人のMCも面白かったです。さて、アルバムは思ったような活動が出来なかったこの1年間の想いも入っていますよね。
Mona 自宅にいる時間も長くなり、出来ることは音楽を作ることだったので、歌詞にも自然と前に向かって進んでいこうというものが多くなりました。
――とはいえ、前半の曲はちょっと重い感じもありますが、曲順はどのように考えていましたか。
Mona 最初は「小さな決心」という曲を1曲目にしていました。でも、優しく温かく始まるのではなくて、ダークな部分を持つ曲からスタートした方が良いなと思いました。進むにつれてだんだん光が射すような構成にしたいと思いました。
――「小さな決心」はどんな流れで制作されたんですか。
Mona この曲は『“隠れビッチ”やってました。』というドラマのタイアップの時に、作り始めた曲でした。途中まで作っていたんですけど、「さよなら、涙目」という曲がタイアップに決まって、また詞やメロディを作り始めたんです。
Hina この曲は2人で歌詞を書いたんですけど、同時ではなくて先にMonaが1番を書いてから、私がその続きを書くという初めてのスタイルでした。違う視点から書けたら面白いんじゃないかと思いました。アンサーソングではなくアンサーリリックと呼んでいます(笑)。1番の歌詞を見た時にどこか苦しんでいるような情景が思い浮かびました。その中で新しい扉を開きたいというのも私には見えたので、2番ではその苦しさから解放してあげたいという気持ちになりました。
――この曲は拍子が6/8なのですが、お2人は好きな拍子はありますか。
Hina 私は3/4拍子のワルツのリズムが好きです。
Mona 私は7/8拍子が好きです。どこで切れるのかわからないようなものがいいなと思っていて。私たちの曲では「目醒」という曲の冒頭がその拍子なんです。
――さて、1曲目の「未知階段」は吉田まほさん(アートディレクター、デザイナー)のアニメ作品からインスパイアされて書かれた曲なんですよね。
Mona はい。この曲のきっかけとなった作品は2012年に公開された吉田まほさんのショートアニメーション『就活狂想曲』なんです。その公開からちょっと経ってから私がたまたま動画を見つけて、すごく興味深い作品だと感じHinaと共有しました。それで色んなことに影響されて生きていく様を描いた曲を作りたいと思いました。2〜3年前に書き始めたんですけど、もともとはリード曲のつもりで書いた曲でした。
でもすごくマイナスのことを歌っている曲ということもあって、アルバムに入れるとしても、どういった立ち位置になるのかと考え、ずっと温めていました。歌詞の最後に出てくる<だから今日を信じてみるよ>というフレーズは曲が出来て1年ぐらい経ってから出てきた言葉で、この言葉があれば納得した上で皆さんに聴いていただけるなと思いました。
――この言葉が出てきたきっかけは?
Mona この言葉が出てきた経緯に、生きていくには自分を信じて後悔がないように生きていきたいと思ったら自然と出てきました。Hinaにも何度も聞いてもらって決めた歌詞でした。
Hina この曲はピアノのレコーディングに苦労しました。低音部と高音部がチグハグになるようなアレンジになっていて、私たちにはすごく新しくて、納得した演奏が出来るまでに時間が掛かりました。大橋トリオさんがレコーディングの時、直々にリズムの取り方を教えて下さったんです。実際に弾いてくださったり、手拍子でリズムを教えていただいてとても勉強になりました。
――Kitriの音楽からは色が見える感じもあるのですが、もしかしてお2人は音が色で見えたりするという共感覚を持っていたりしますか。
Mona 共感覚は持っていないんですけど、昔クラシックの曲を弾く時に楽譜の音符を色で分けていた時がありました。この音符はこの色だなみたいなとグラデーションさせてイメージを掴んでいくんです。なので音と色を結びつけるというのは昔からやっていました。
Hina 私もその感覚はないんですけど、音も色もグラデーションしていくものだと思うので、色でイメージしていることはよくあります。
Mona 「羅針鳥」の時に面白いことがあって、2人でその曲の色を発表しあったことがありました。私はオレンジだと思ったんですけど、 Hinaは青色だと話していて。
――全然違う系統でしたね(笑)。ちなみに「未知階段」を色に例えるとしたら?
Hina 私は赤です。赤といっても暗めの赤でバーガンディというイメージがあります。
Mona 私は深緑かな...。
Kitriのポップソングとは?
――さて、「NEW ME」という曲聴かせていただいて、私はこの歌詞を見た時にMonaさんが書かれたのでは? と思ったんですけど、Hinaさんが作詞されたということで良い意味で裏切られました。
Mona 曲が先にできたんですけどスタッフさんもこの曲は私が書いた方がいいと最初話していました。でもHinaに書いてもらったら「こんな歌詞も書けるんだ」という発見がありました。最初の頃はHina自身も自分の書く歌詞に自信がなかったと思うんです。でも今回この曲では5パターンも歌詞を持ってきてくれて。
Hina いつもだったら情景を歌詞にしていくのが好きなんですけど、今回は感情を露わにする、主人公が言いたいことを歌詞に書いてみたいと思いました。その作業はすごく新鮮で面白かったです。でも、けっこう迷ってしまって主人公像と言ってもいろんな性格にできるわけで、どんな性格がこの曲に当てはまるのかなと考えていたら5パターンも出来てしまいまして。でも殻を破れた歌詞ができたなと思っています。
――この曲を聴いてHinaさんは映画とか思い浮かんだイメージはあったんですか。
Hina ありました。この曲を聴いた時映画の『レオン』を思い出したんです。自分に打ち勝っていく姿が曲とリンクしました。
――「NEW ME」というタイトルもいいですね。
Mona タイトルは考えました。Kitriのダンスソングを作りたいという気持ちもあったので、最初は仮で「ダンス」とか「ユニーク」というアイデアもあったんですけど。歌詞が完成したら「NEW ME」という言葉が浮かんできて、これに決めました。
――タイトルといえば「青い春」は青春とは言わずに敢えてこの言葉に?
Mona 未熟さとか儚さとかいろんなものをこめて「青い春」というタイトルにさせていただきました。私たちがKitriとして音楽活動をしていく中で「これが私たちのど真ん中です!」と言えるような曲、Kitriなりのポップソングで皆さんに共感してもらえるような曲を作った事がなかったかもしれないと思いました。なので、改めてポップスを突き詰めて作った曲なんです。
――ご自身の中でポップスとして気に入っている曲はありますか。
Mona 私はスピッツさんが好きで、「ロビンソン」は誰しもが情景を共感できますし、メロディも普遍的で草野(マサムネ)さんにしか書けないような歌詞というのは、私の中で理想にあります。一見、草野さんのキレイな歌声があるので、爽やかな感じがあるのですが、歌詞は深みがあって、実は爽やかなだけではないというのも魅力的なんです。私たちも皆さんからウィスパーボイスを褒めていただけることがあるんですけど、それだけではない部分もお届けしたいと思っています。
Mona 聴く人によっては卒業ソングになったり、大人になってからの出会いや別れの曲になれば嬉しいです。この曲は最初サビのメロディが今とは違って切なくしっとりと終わるような感じでした。スタッフさんと相談していく中で明るくてパーンと弾けるようなメロディに挑戦したいなと思いました。出会いや別れを意識して「さよなら」という言葉で終わっていたんですけど、もしかしたらさよならと言いたくはなかった、そういったケースもあるのではと思い直したんです。そこから一歩進んだ歌詞になりました。
あと、今回、この「青い春」は真っ直ぐ届けたいと思い、いつもとは歌い方も変えてみました。ウィスパーボイスは私たちの武器だと思っていたんですけど、今までの歌い方ではこの曲に合わなかったんです。何度もトライして真っ直ぐに歌うという方法を見つけ出して、やっと楽器にも馴染むようになりました。歌い方を変えたことによってこの曲はリード曲に出来るなと思いました。
――今作は最後の言葉に未来への希望が詰まっているものが多いですね。
Mona 曲の多くは3分から4分ぐらいで終わってしまうものが多いと思うんですけど、常にその先、続きを感じてもらえる音楽にしたいなと思って作っていました。
思い出の写真
――たまのカバー「パルテノン銀座通り」ですが、この曲との出会いはどんなものだったのでしょうか。
Mona スタッフさんに教えてもらった曲なんです。いつも私たちがリアルタイムで聴いてこなかった曲を教えて下さるんです。オリジナルはサラッと聴くと陽気な楽曲に聴こえるんですけど、不思議な歌詞と切ないメロディが気になり、この曲を私たちが演奏したらどうなるのかなと思いカバーしました。
最初はピアノのみでアレンジしていたんですけど、羊毛さんがギターでライブに参加してくださることになって、この曲を羊毛さんとやったら面白いかも、と思いました。そうしたらレコーディングにも参加してくださることになったんです。それで私たちが作ったデモをお送りしたら羊毛さんが「1番はピアノではなくギターのみで歌ってみるのはいかがですか」とアイデアを出してくださって。私たちはピアノ連弾ユニットと謳っているので、当たり前のようにピアノから始まるものだと、自分でも思い込んでいたところがあったんですけど、新しいアイデアをいただいて、いつもとは違う私たちをお見せできたらと思います。
――そして、アルバムのラストを締めくくるのは「君のアルバム」なのですが、何でも幼少期のお写真をお二人で見ながら作詞されたとのことで。
Hina 両親が写真を撮るのが好きで現像したものがアルバムにあるんです。インスタントカメラで撮ったものとか、何冊もあります。
――今も印象に残っているお写真はありました?
Mona 懐かしさを感じながら見ていました。季節は秋で落ち葉の上に立っている写真で私はすごく笑顔なんですけど、Hinaが斜め後ろで頬を膨らませて怒った表情をしてる写真があって、それは印象的でした。
Hina ちょうど私が3歳くらいの時でカナダに住んでいた時の写真なんです。たぶん、英語だらけの世界で情緒不安定な時代でした(笑)。当時はすごいご機嫌な時かいじけているかのどちらかで、落差がすごかったみたいです。
Mona 大体その時代のHinaは人形を持っていて、笑っているか怒っているかのどちらかでした(笑)。
Hina 私は歌詞にもあるんですけど<幼い頃の情景/揺れるブランコ>です。大きな木に白いブランコを吊るしてあって、それに乗っている写真が印象的でした。それもカナダで撮った写真なんですけど、近所のお家の人の敷地にあったブランコに乗せてもらっていて。この時はご機嫌でした。
――良い思い出もあって良かったです(笑)。この曲を最後に持ってきた意図は?
Mona ここまで色んなアレンジの曲があって、最後は私たち2人に焦点が当たる曲にしたいというのがありました。その中でどこか映画のエンディングのような曲でもあるなと思い、ここまでアルバムを聴いていただいて、振り返れるような曲になっていると感じたので、アルバムの締めくくりにさせていただきました。
――それで敢えて他の楽器は入れず連弾、原点に戻ったアレンジだったんですね。最後にここからどんな姿を皆さんに見せて行きたいですか。
Mona 止まらないKitriをお見せしたいです。去年は考える時間も沢山あって、悩んだときもありました。でも今やるべき事は音楽を作ったり表現することだと思っていて、常に音楽を作り続けて行きたいと思います。新しい楽器編制の曲だったり、新しいKitriをお届け出来たらと思っています。
Hina こうやってアルバムを出すことで新しいことに挑戦し進化していくことが改めてわかりました。もっと深く広く音楽を届けていきたいという気持ちでいっぱいです。
Mona 6月にバンド編制でBillboard Liveで『Kitri Billboard Live 2021SS「Kitri & The Bremenz Live」』を行います。いつもアレンジしてくださっている神谷洵平さんも参加してくださるので、皆さんにカッコいい姿を見せられたらなと思います。
(おわり)