ポップしなないで「人生が“上々”だと伝えたい」集大成で見せたバンドの哲学
INTERVIEW

ポップしなないで

「人生が“上々”だと伝えたい」集大成で見せたバンドの哲学


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:20年11月13日

読了時間:約10分

 かめがいあやこ(Key/Vo)、かわむら(ds)の2人組“超セカイ系”ポップ・バンドのポップしなないでが11月11日、自身初となる1st フルアルバム『上々』をリリース。結成からここまでの集大成とも言える今作は、処女作「エレ樫」の再録バージョンや、「魔法使いのマキちゃん」、「夢見る熱帯夜」など既にライブで披露し音源として未収録だったナンバーも含めた全12曲を収録。インタビューではフルアルバム『上々』に込めた想いや、2人がこのコロナ禍でどんな事を考え気づいたのか、多岐に渡り話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

自分たちの哲学を持っていれば何も変わらない

『上々』ジャケ写

――お2人はステイホーム期間はどんなことを考えたりしていました?

かめがい 私はもちろんずっと家にいたんですけど、週に2回ぐらいスーパーに買い出しに行って、その他はずっとゲームをしたり、配信したりしてました。5月から朝の配信も始めたので配信を1日2回ぐらいやっていて、その中で人との繋がりを強く感じる事が出来ました。割と一人でいるのが好きなこともあって、こういう事態でもなければ繋がりとかそんなに深く考えることもなかったなと思って。

 私たちの曲を聴いてくれている人達がどんな方達なのか考えるようになったし、一人で音楽やっているのはつまらないし、聴いてもらってなんぼだなとか、今まで以上に私にとってバンドをやっている意味などを考えて。私がみんなと繋がる事が出来る手段は音楽やバンドなんだなと感じました。あと、自粛期間中はなぜか国会中継をよく観てました。その中で自分が無知だなと気づいて。一つも言っていることがわからなかったんです(笑)。

――(笑)。かわむらさんは?

かわむら 配信をしながらも普段出来ていなかったインプットの作業をしていました。インプットと言ったらカッコいいんですけど、なかなか出来ずに積んであったゲームをやっていただけで。このコロナ禍でやりたいけどやれなくなってしまったこととか当然あるんですけどね。でも、やれていたことが出来なくなった時に、いままでやってなかったけど実際はやれた事が沢山あることに気付きました。今まで見向きもしなかったインプットの方法やアウトプットの方法がこんなにも溢れていて、自由だったからこそ視野が狭くなっていたんだなと感じました。改めて選択肢の多さに気づいて、その分野で極めている人が沢山いて、世界とはこんなにも楽しいものなんだなと気づく事が出来ました。

――タイトルの『上々』にはどんな想いが込められているんですか。

かわむら 今までのミニアルバムは期間を短く切り取っていると言いますか、そこに色々表現しようとしたら、特徴的な言葉になってしまうんです。今回はフルアルバムということで、今後の自分たちを考えた時に、タイトルは僕らがやってきた曲調や精神性を胸を張って表す言葉を考えたなかで出てきた言葉でした。我々は、「人生が上々だ」ということを伝えたい、というのが一貫してあるので、結果このタイトルになりました。

かめがい 12曲という曲数をパッケージするのは初めてなので、達成感があったと思います。過去の曲も入ってますし、「一つの集大成が出来たぜ!」という。

――リード曲にもなっている「夢見る熱帯夜」は色んな楽器が入ってますね。

かわむら これまでも限定したり、制限していたわけではないんですけど、ピアノとボーカルとドラムというスタイルでライブもやってきて、かめがいさんとポップしなないでの今後の話をしていた時に、他の人の力を借りる、楽器を入れる事が我々の良さを殺さずに、フィジカルな部分を強化出来たり、音楽に広がりが出るんじゃないかなと。自分たちの哲学を持っていれば何も変わらないと思い、シンプルに必要な音を足しました。この「夢見る熱帯夜」を2人でやるのも良い感じになるとは思うんですけど、この音を入れたい、と自然とこのアレンジになった感じなんです。

かめがい すごく良いアレンジだなと思っていて、プラスの気持ちが働いてすごく歌いやすかったです。ベーシックとして2人で録ったものに、少し他の音を足したことも他の曲でやることはあったんですけど、その時は他の音をミュートしてレコーディングする事が多かったんです。でも、「夢見る熱帯夜」は他の音も聴きながら歌ったので、ギターやパーカッションの音が入った上での歌になったなと感じています。

――これまでとはまた違ったグルーヴを感じられましたが、アレンジのクレジットにあるミツビシテツロウさんが関わっていて。

かわむら 今回、ドラムとピアノ以外の音はミツビシ君と話しながら進めていきました。自分が持っているイメージ、狂騒的な中に芯が残るものにして欲しいとお願いして。そうしたらパーカッションにギター、ヒップホップ的なアプローチのサンプリングしたサウンドを入れてもらって。マストだったのはアコギとパーカッション、その次にエレキギターとサンプリング音という感じでした。

――このミツビシさんはどんな方なんですか。

かわむら 僕の友人であり、マニピュレーターやトラックメイクなど音に携わることをやっている、俗に言う音屋さんです。カタカナというバンドもやっているんですけど、彼の作る音が好きなので任せたいなと思い今回お願いしました。自分は音に関してはけっこう頑固なので、何か注文する時のことを考えて、ちゃんと自分がリスペクト出来る人に頼みたいというのが大前提としてありました。

――この「夢見る熱帯夜」はコロナ禍が影響されて歌詞が出来ている感もありますか。

かわむら 間違いなくあります。というのも、このアルバム自体がコロナ禍の中で制作していた、ということも関係しているんです。

かめがい この曲を作曲していた時期も3月末くらいで、大枠を考えていたので。

かわむら キーワードとして室内というのがあって、室内から何が出来るのかというのは考えていました。この曲がコロナ禍の気持ちをダイレクトに歌っているというわけではないんですけど、歌詞を作る上でコロナが我々に考えさせてくれた事というのは間違いなく入っていると思います。

――歌詞の<キスだってハグだって不謹慎じゃないの>がコロナ禍への皮肉にも取れる感じがしたんです。

かわむら 確かにそこはコロナ禍をいじってます。

かめがい そうだったんだ! 気づかなかった。

――ちなみに<ふらいみーとぅーざじゅぴたー!>を平仮名で表記したのには何か意図があるんですか。

かわむら これは歌詞を打っている時に英語で打つのがめんどくさくて、仮で平仮名で打っていたんです。でも、完成した時にこのままでいいやと思えて。というのも、かめがいさんがこの歌詞を見て歌った時に英語と平仮名だと捉え方や歌い方も変わると思って。本心なのか強がりなのかわからないなかで、良い意味で異質になっていたので、英語に書き直すことは無粋な事だと感じたんです。

かめがい 私も最終的に英語表記に変えられていたら「話が違うよ!」となっていたかも知れないです(笑)。それはこの平仮名の雰囲気に合わせた歌い方になっているので。きっと英語だったら今とは真逆な歌い方をしていたと思います。

逆のことをやろうと思った「ミラーボールはいらない」

――「2人のサマー」は情景が浮かびやすい曲ですが、どのような思いで作ったのでしょうか。

かわむら 2人の人間の恋愛感情みたいなものは、これまでも色んな曲でやってきたつもりなんですけど、パーソナルなものをしっかり表現したらどうなるんだろうなと。すごく素直で今までだったら言わなかったような、人が好きになるという気持ちを赤裸々に書いてみようというのがこの曲の始まりでした。

――かわむらさんがお好きな美少女ゲームからインスパイアされた部分も?

かわむら 全然ないですよ。美少女ゲームだと、この曲のような価値観、他に好きな人がいて、振り向いてくれるかどうかわからないけど、自分の気持ちを信じるという女子の気持ちというのは、少なくとも美少女ゲームでは好まれる価値観ではないと思います。それよりは女性に人気のあるサブカルと呼ばれるマンガなどに近いかなと思います。なぜそれが人気があるのかというと、リアルでみんなが経験したことあるようなものだったりするので、この曲もそういったパーソナルな感情を切り取った感覚はあります。

――間奏で聴ける<パパパ...>という擬音がとてもいいですね。

かわむら この曲は言いたいことや答えは出ていると思うんですけど、その中で迷いや言葉に出来ない気持ちもあると思うんです。ゆっくりと時間が流れている曲ではあるので、ここは言葉を詰め込むのではなく、コード進行やサウンドで、ゆっくりと流れる時間を表すいうアイデアでした。

――かめがいさんはこの部分をどのように歌おうと考えたました?

かめがい この曲の主人公である女の子がこの夏の出来事を思い出して、口ずさんでいる感じで歌いました。日常の中で鼻歌を歌っているような感覚があって、その中で感情がすごく動くみたいな。最初と最後では歌っている気持ちも違うんです。

――そして、あさぎーにょさんに楽曲提供した「ミラーボールはいらない」をセルフカバーされていますが、これは見解が広がったことでチャレンジしたということですか。おそらく今までのお2人だったらこういったセルフカバーにならなかったんじゃないかなと思いました。

かわむら まさしくそうだと思います。そもそもアルバムを作るにあたって、自分たちの1番いいところを出したいというのは当然あったのですが、その中でピアノとドラムでストイックに行くだけになるというのは違うと思っていたんですね。あさぎーにょさんに楽曲の提供をするにあたり、「ポップしなないでのサウンドにして欲しい」とリクエストがあったため、全力で僕ららしさを出したオケにあさぎーにょさんの歌が乗ったから面白いものになったと思っています。でも今回我々がセルフカバーをするにあたり、その逆をやろうと思ったんですね。しっかりとオケを作り込み、アルバムの最後に配置するというのは面白い試みだったと思います。でも、やってみるとしっかり我々のサウンドになったと思っていて。

かめがい 作業はすごく楽しかったです。最後にスタッフを交えて、ボーカルブースにみんなで入ってガヤを録音したんです。

かわむら 普段ならそんなことしないですから。そういった遊び心を入れたら面白いなと思えた曲でした。

――ポップしなないでの未来への布石になる1曲かなと思いました。

かわむら 我々も色んなことをしたいなと思っていて、今まであった部分を新たにどう見せるかだけではなく、これまでにやってこなかったことも見せられるアルバムにしたかったので、この曲はそのテーマの顕著な部分だと思います。いままで聴いてきてくれた方達にこそ、この曲から新しい我々とそこにある哲学を感じて欲しいと思っています。

難航した曲順

村上順一

ポップしなないで

――曲順も相当試行錯誤されたのでは?

かめがい かなり大変でした。何となくそれぞれが曲順を考えてから、スタッフも交えてあーでもない、こうでもないと話し合って。マスタリングの日まで悩んでました。

かわむら 自分たちの曲なので主観的になってしまうんですよ。スタッフの意見は外からの意見なので、正しさもあるんですけど、みんな感覚の世界で提案しているので、一生決まらないかと思いました。このサブスク時代、単曲主義というのもある中でこんなにも曲順を考えるんだなと感じました。1曲1曲に自信があるからどう並べてもたぶん大丈夫なんですけど、これが聴いてみると「こっちの方が良い」というのがあるんです。

――その中で「魔法使いのマキちゃん」を1曲目に持ってきたのは?

かわむら この曲が我々を一番バランスよく表している曲だと思って。この曲が1曲目に来てくれると自分たちも安心感があるし、まず、まだ我々を知らないみんなにも聴いてほしいなと思ったからです。

――定かではないんですけど、「魔法使いのマキちゃん」の歌詞に<12月もあるのは僕が僕だとわかるから>とありますが、今回12曲というのは実はリンクしていたりします?

かめがい すごい深読みだ!

かわむら 残念ながら全く関係ないんですけど、今度からそう言おうかな(笑)。

――さて、「エレ樫」は再録されていますね。

かわむら ポップしなないでとして、一番最初に作ったのがこの曲なので、思い入れはどうしてもあって、今でもファンの方から支持されている曲だと思うんです。それで僕らのファンになってくれる可能性のある方にも是非聴いてもらいたいと思いますし、我々の大事なところを担ってくれている気がしています。このフルアルバムで全てを伝えたい、全力を見せたいと思った時にこの曲が入ることに迷いはなくて。

――なぜ今回録り直したのでしょうか。

かめがい 当時の録音は、バンドを組んで3ヶ月ぐらいで録った音源で、音も今とは違うし、訳もわからずやっていた部分もあったので、ずっと「録り直したいよね」と話していて。そもそもマスター音源がもうないので、録り直すしかなかったんです。

かわむら 行き当たりばったりでしたし、今とは哲学がまた違うので。勢いとかその時の良さももちろんあったんですけど。

かめがい あと、歌は当時と比べたら自分でもすごく上手くなったなと感じてます。大人になった(笑)。

――当時の音源と比べてもらったら面白いですよね。最後にファンの方へメッセージをお願いします。

かわむら 歌詞をよくみると本当は言葉にしたくないような、目にしたくない残酷なこともしっかり言葉になっているアルバムではあるんですが、その上で前を向けるアルバムになったと思います。皆さん、多種多様な立場の中、色んなことに悩んでいると思うんですけど、このアルバムを聴いて気持ち良くなってもらえたらと思います。フルアルバムなので、一生ものにしてもらえたら嬉しいです。

かめがい こんな時代でしょんぼりしてしまうこともあると思うんですけど、このアルバムを聴いて、気持ちだけでも「上々」になって下さい!

(おわり)

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