INTERVIEW

夏帆

余計な力が抜けた。現場で悩むことすら楽しい――、自粛期間で変化


記者:鴇田 崇

写真:

掲載:20年09月19日

読了時間:約7分

 日本を代表する5組の監督と豪華キャストが“緊急事態”をテーマに自由な発想で挑戦したオムニバス映画『緊急事態宣言』がAmazon Prime Videoにて独占配信中だ。各監督それぞれ特色があり、その一方で実験的でもあり、あの状況だからこそ作れた作品群がズラリと並ぶ。

 その中の一編『ボトルメール』は、三木聡監督による不思議な物語。コロナ禍を背景に、不倫で干された女優がワラをもすがる思いでオーディションを受けるというストーリーで、主演を夏帆が務める。ふせえり、松浦祐也、長野克弘、麻生久美子という三木作品常連が名を連ねる三木ワールド全開の世界観に、夏帆自身も念願だったという三木組に初参加した。「もう少し現場にいたかった」と述懐する彼女に話を聞いた。【取材・撮影=鴇田崇】

『ボトルメール』で不倫で干された女優を演じた夏帆

『ボトルメール』で不倫で干された女優を演じた夏帆

刺激的な3日間だった

――本作はコロナ禍を受けた内容でしたが、オファーはいつくらいにあったのでしょうか?

 お話をいただいたのは、自粛期間明けの6月上旬くらいだったと思います。コロナ禍の影響ではなく、もともとお休みをいただいていたので、いろいろな撮影が止まり、スケジュールがずれ込んでいるという話も聞いて、漠然と年内は現場に入ることはないだろうと思っていた時でした。なのでまさかこんなに早く現場に行けるなんてと驚いたのを覚えています。

――急ですが、今しか撮れなかった題材ですよね。

 「緊急事態宣言」と言っているように、今しか撮れない、今だから撮れるものを撮るということでしたが、今回個人的に一番うれしかったのは、三木組ということでした。三木さんの作品にいつか参加できたらと思っていたので。

――あこがれの三木組に参加されて、勉強になったことはありますか?

 撮影が3日間だけだったので、もう少し現場にいたかったというのが正直なところですね。三木組の独特なテンポ感やセリフのトーンを掴みきる前に終わってしまったのが、悔しかったです。ですが、どんなふうに三木さんの世界観が作られていくのかを、実際に肌で感じることができて、刺激的な3日間でした。なによりとても楽しかったです。

同じ職業のキャラクターを演じること

――ご出演は「ボトルメール」編でした。台本の最初の印象は?

 これは難しいぞ、でした(笑)。本の時点で世界観が完成されていて、これを体現するにはどうしたら良いのだろうと、三木さんの過去作をたくさん観直しました。とても面白い本だったので、演じるのが楽しみではありましたが、自粛明けの久しぶりの現場で、なかなかハードな作品を選んでしまったと、ずっとドギマギしていました(笑)。

――不倫で干された女優役ということで、生活感あふれた様子や歩き方も特徴的なような気がしました。

 それはたぶん、草履を履いていたからではないでしょうか(笑)。雨の中のシーンでは草履を履いているとすごく走りにくかったので、そう見えていたのかもしれないです。実はもともと雨設定ではなくて、梅雨の時期でたまたま降ってしまったんですよね。それで走りにくくなって、結果的にそうなったのだと思います。

『ボトルメール』で不倫で干された女優を演じた夏帆

――女優という同じ職業のキャラクターを演じることは、難しいものでしょうか?

 違う業種の人を演じるよりは、自分が知っているだけに演じやすいのかも知れません。まったく知らない職業の場合、まずそこを勉強しないといけないんですよね。女優の仕事は内情まで良く知っているので、比較的すんなり演じられるのかなって思います。

――近すぎて難しいということは?

 その役の設定にもよりますかね。女優だから、ではなくて、その役によるという感じですね。

――女優という意味では、主人公がエチュードするシーンで女優の顔に切り替わりますよね。あのシーンは引き込まれるものがありましたが、演じていていかがでしたか?

 セリフはあるので、実際にはエチュードではないのですが、がらんとしたスタジオのなかでどんなふうに動いていくのか、しかも、ふせさん演じるプロデューサーを納得させなければならない。とても難しいシーンでした。あのシーンでは特にソーシャル・ディスタンスも考慮していて、もっと近づいて台詞を言いたいのにそれが出来なかったりと、そういった制限もあったので、全体として大変だった記憶があります。

――その苦労や工夫を感じさせることなく、迫真のシーンでしたね。

 なので長野さんやふせさんには何度もお付き合いいただいて、どういう風に動いていくか探りながら撮影していました。近寄りたいけれど、近寄れない、そういう苦労がありました。

自粛期間で向き合い方に変化

――自粛期間空けの撮影というところで、何か思うところはありましたか?

 毎日検温をしたり、現場でマスクを着用したり、人との距離感が今まで以上に繊細になったり、これまでの現場との変化を身に染みて感じました。でもそれ以上に心情的な変化もあって。個人的な話になってしまうのですが、自粛期間中にお芝居から完全に距離を置けて、自分の中で今までとは仕事との向き合い方が変わっている実感があったんです。以前は、必要以上に苦しい思いをしながらお芝居をすることが多かったのですが、余計な力が抜けたといいますか、現場で悩むことすら楽しいなと感じたんです。

――喜びを実感しますよね。

 現場に行けることがこのうえなくうれしかったんです。次の日の朝が早くて起きられるかなとかちゃんと台詞を覚えられるかなとか、変な心配もありましたけど、実際に始まると現場ってやっぱり楽しいなって思いました。単純に三木組に参加できて舞い上がっていただけかもしれませんが(笑)。

夏帆

夏帆

――ステイホーム中は、どういう想いで過ごされていましたか?

 次の作品の準備もしなくていいですし、こんなにも何にもない長期間の休みは久しぶりでした。この先仕事がどうなっていくのかという不安もありましたが、仕事と距離を置けたことが、個人的にはとても良かったです。忙しさを口実にやっていなかったことを、例えば、語学の勉強をしたりだとか、読みたかった本を読んだりだとか、自分自身のために時間が使えたので、今まで溜まっていたものが、一気にリセットされた気がしました。

ずっとディスコソングが流れている家だった

――音楽で気分を上げたりもしたのでしょうか?

 以前は撮影現場に向かう移動の途中、毎日ように聴いていましたね。作品によっては、同じ曲を繰り返し聴いていたりすることもあります。その時々によって音楽との距離感は違うのですが、音楽の力を借りて、役やシーンのイメージを想像していくこともあります。

――邦楽と洋楽では、どっちをよく聴くとかありますか?

 どちらも好きです。もともと親がすごく音楽が好きで、家ではずっとディスコソングが流れていたので(笑)。その流れで自分も80、90年代のダンスミュージックを聞いたり、10代の頃はインディーズバンドも好きでした。最近はあまり聴いていないですが、波があるので、また音楽を聴きたいブームが来るのかなと思います。

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――あの期間中は、リモートでの映像作品も何作か登場しましたが、それに刺激を受けたりは?

 わたしもリモートで、とは思わず(笑)、早く撮影現場に行きたいなって思いました。でも役者自身が発信していくことに、とても刺激を受けましたね。リモートという形ではないにしても、この先、待っているだけではなくて、自発的に動いていくことも大事なんだと、あらためて考えた時期でもありました。

――状況は変わりましたが、今後やりたいことは何でしょうか?

 役者という仕事は、求められないとできない仕事なので、この先もみなさんに良い作品を届けられるように、もっともっと勉強しなければならないと思いました。今年はもともと、仕事から離れたところで、もう少しいろんなことを勉強したいと思っていましたが、その思いがより一層強くなりました。自分の時間がたくさんできたぶん、様々なものに触れて、そこで学んだことを、次の作品に活かしていきたいと思います。

(おわり)

緊急事態宣言
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(C)2020 Transformer, Inc.

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