林部智史、“生”を実感できる場所 コンサートアーティストとしての信念
INTERVIEW

林部智史


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年07月29日

読了時間:約10分

 シンガーの林部智史が7月29日、2ndアルバム『II』(セカンド)をリリース。デビューアルバム『I』(ファースト)以来2年半ぶりとなる本作には、4thシングル「恋衣」、配信シングル「あの頃のままに」含む全13曲を収録。林部作のオリジナル曲に加え、池田綾子、川村結花、坂詰美紗子、追川礼章、山本加津彦、やまだ麻実と多彩な作家陣が楽曲を提供し、前作のスタイル通りコンサートで既に披露し育ててきた楽曲を収録。インタビューではコンサートで披露した後で音源制作に臨む理由や、自作曲に込められた思いなどを中心に、コロナ禍を経て変化した林部の想いを聞いた。【取材=村上順一】

CDで再び一つのコンサートにしたい

林部智史

――林部さんは新曲を先にコンサートで披露してから音源化するスタイルですが、その姿勢はいつから始まったんですか。

 自然とその流れになっていったと思うんですけど、これからの展望の中でデビュー1年目からコンサートをたくさん入れてくれていたんです。コンサートが続々と決まっていったんですけど、1ステージ2時間弱、15曲くらいと考えていました。当時はまだデビューシングルの「あいたい」しかリリースしていなかったので、持ち歌がカップリング含め2曲しかなかったんです。

――それで2時間を埋めなければいけない。

 その時もオリジナル曲は作っていたので、世には出していなかった曲たちとカバー曲を半々くらいのバランスでやっていました。僕の中ではカバーが強くなるのは違うと思っていて、オリジナルをしっかり聴かせたかったんです。カバーは自分の持ち味を出せるのでもちろんやっていきますけど、それはカバーアルバムのコンサートでやればいいかなと思って。

 そうすると自ずと世には出していない曲が多いコンサートになっていきました。春のツアーや秋のツアー、ディナーショーなどコンサートはあるので、それぞれ同じ曲を歌うわけにはいかないので、オリジナル曲をたくさん書き溜めていかなければというのがありました。それで僕の場合、普通のCDの作り方と逆転した制作方法になってしまって。

――一般的なメジャーの流れとは違いますよね。

 そうなんです。僕はコンサートアーティストとして、やっていきたいという基軸が生まれたんです。コンサートがあるから、そこに向けてオリジナルを準備していって、その曲たちがアルバムというタイミングで選ばれた曲たちが入るという形なんです。コンサートが先にあった、というのが一番大きな理由ですね。

――アルバムとしてのコンセプトはあったのでしょうか。

 アルバムとしてこういう作品にしたい、というのはそこまで強くない方だと思います。それはアルバムのタイトルにも表れていて、ナンバリングですし。僕の中では1曲1曲歌ってきたものを、CDで再び一つのコンサートにしたいと思っているだけなんです。一つのコンサートの形がCDになったという認識です。

――コンセプトがあるとしたコンサートなんですね。そうなると曲順もセットリストなんですね。

 まさにその通りで、僕はセットリストと言わせてもらっています。7月28日に無観客ライブ『おうちでコンサート』の配信があるんですけど、このアルバムの曲順で全曲歌わせていただきました。

――無観客で歌うというのは心境に変化はありましたか。

 国際フォーラム ホールCで、いつものコンサートと変わらない形、最高の環境の中で歌わせていただきました。お客さんがいないというのはやっぱり寂しいんですけど、不思議な感覚もあって、これがお客さんに届く、と思いながら歌っているので、無観客ということはそこまで影響はなかったです。いつもやらせていただいている会場ということもあり、歌っていて何度か感極まる瞬間がありました。今までは歌というよりもMCで話している最中にほろっとくる瞬間が多かったのですが、今回は歌っている時にその瞬間がきたのは、これまでとは違う感じでした。

――もしかしたら、無観客というのが歌に寄りそう密度がいつもより増していたのかもしれませんね。

 曲によって、第三者の自分が見ている、俯瞰している部分がより強くなったり、主観としての自分も強くなる部分もあって、その振り幅が大きなものになったんじゃないかなと思いました。

変えない美しさもある

――ジャケット写真が2種類ありますが、これはどのような撮り方をされているんですか。表情が微妙に違うのが目を引きました。

 これは自然光で撮影していただいたんですけど、光の当て方だけでこういった写真になっているんです。光の加減でこんなにも表情が変わるんだ、と自分でも面白いなと写真を見て思いました。

――今作を制作するにあたって、この曲が軸にあったから、こういう作品になったという曲はありますか。

 リード曲の「夢」です。このアルバムのベースとなっている曲かなと思います。もともとは12曲入りのアルバムになる予定でした。コロナ禍によりリリースが延期になってしまって、5月のリリース予定だった時も12曲でした。この曲はレコーディングはしてあった曲なんですけど、急遽入れることになり、リードになった曲でした。

――コロナ禍で生まれた曲だったんですか。

 この曲は1年ぐらい前に作った曲で、今のこの状況の中で言いたいことが、リンクする楽曲だなと感じました。このコロナ禍でたくさんの夢が破れて、すごく苦しい世の中だと思うんです。ステイホームを受け入れながら、できること、僕だったら無観客のコンサートだったり、新しい夢を見て行かなくていけない、見せていく活動をしなければいけないというのを考えると、この歌がピッタリだなと思ったからなんです。

 いろんなことを受け入れた中で、逃げたくもなるけど、その中で夢を見るのが人というものですし、その中で「生きていこう」というメッセージを込めているので、今回の状況にも通じるなと思いました。

――この曲の持つメッセージとリンクされたんですね。

 はい。リード曲なので、アルバムの曲順としても前半に持ってきたい、というのもあったんですけど、でも、先ほどもお話ししたようにコンサートを意識した曲順なので、一番コンサートで良い流れで聴いていただきたかったんです。そこまでにいかに盛り上げて繋げるか、というのがありました。

――歌詞は書いた当時とは変わってないんですか?

 変わっていないです。今の現状に合わせて、リンクするように書き換えることも出来たのですが、1年前の書いた気持ちを大事にしたかった、日記みたいなものなので、変えない美しさもあるんじゃないかなと思いました。

――「僕はここにいるII」は、ご自身のことを書いていると思いますが、この曲も受け取り方によっては、今の皆さんの気持ちにもリンクする、置き換えられる部分があると感じました。

 確かに、自分自身のことを歌っているんですけど、そういった捉え方もできると思います。アルバム『I』で「僕はここにいる」を収録しての今回なんですけど、その時の自分の歌に対する姿勢とか、ステージに立っている姿を想像しながら、この曲は書いているんです。気持ちはちょっとずつ変わっていく、成長していかなくちゃ嘘だと思うし、「僕はここにいる」を、いますごく気持ちを乗せて歌えるかといえば、難しいんです。

 いつか、「もっと客観的に歌えるようになったら」とファンの皆さんには説明させていただいていて。コンサートで「10年ぐらい歌わないかも」と言ってしまったこともあるくらい(笑)。

 「僕はここにいるII」は改めて自分自身と向き合って、僕がステージに立つ意味など考えながら書いた曲なので、同じタイトルではあるんですけど、その時の心情に合わせて書いているんです。アルバム『I』がリリースされてから、すぐにこの曲は出来たのでコンサートでは2年くらい前から歌ってきているんです。それもあって僕は今「僕はここにいるIII」に行きたいくらいの気持ちではあるんですけど(笑)。

――もう次のステップに進んでしまっているんですね。

 そうなんです。実はこの曲は今回CDに収録しなくてもいいんじゃないかな、と思っていたんです。2年前にこの『II』がリリースされていたら、リード曲になったかもしれないぐらいの1曲ではあるのですが。

――林部さんの心情を歌われていますが、人によっては全然違う捉え方もできる歌詞にもなっていると思いました。例えば<変わらないこと 変わりゆくことも 変わってしまう寂しさも>というのは、今のコロナ禍にも当てはまる感情とも思えました。

 聴く人によって捉え方が変わるというのはあります。それもあって、歌い続けていくべきなんでしょうね。いつの時代にも変わるものはあるし、失うものもある、それは全曲そういった根幹があるんです。本来、僕の思いだけではないので、「僕はここにいる」も「僕はここにいるII」も歌っていっても良い曲なんです。なので、客観的になれるまで時間をくださいって感じです。いずれ、「僕はここにいる」シリーズでコンサートを開いてみたいなという思いもあるんです。

歌い続ける理由とは

林部智史

――楽しみが増えますね! さて、今作で新しい試みはありましたか。

 今回のアルバムは半分くらいが提供曲で、『I』の時より増えているんです。作曲していると自分には作れない曲だし、作曲者の個性も乗ってくるので、こんなにも歌い方を変えないとしっくりこないのかと思ったり。でも、それがバラエティに富んだアルバムになったのかなというのは、すごく感じていて。

 特に池田綾子さんが作詞・作曲の「タカラモノ」という曲と、坂詰美紗子さんが作ってくれた「You」は曲としてのジャンルが極端に違うので、それを一つのアルバムにするというのは、なかなか面白いと感じました。でも、この2曲は少し、距離を空けないと歌えないなというのはありました。

――林部さんが作家さんの楽曲を選ぶ基準の中に、ご自身では作らないような曲を選ぶ感じですか。

 そうですね。自分に寄せなくてもいいと言いますか、自分が歌いそうな曲だったら自分で作曲できますから。なので、これは自分ではなかなか作れないな、というのを選びたいなと思っているところはあります。今作だと「恋衣」はやっぱり異質なんです。アルバムにこういった歌謡曲テイストの曲がポンと入っていると、目が覚めるような感じがあります。提供曲もカバーも、自作曲も自分の声で歌う意味がちゃんとあるんです。

――作家さんとのやりとりはどんな感じだったのでしょうか。

 お任せの方と僕も関わらせていただいた曲とあります。「You」は作詞を坂詰さんと共作させていただいているんですけど、この曲は最初、英語から始まっていました。それも面白かったんですけど、叙情歌も歌っている僕のキャラクターと、英語始まりの歌というのが、まだうまくマッチしていない気がして、アルバムに入れるのがまだ難しいかなと思いました。タイミングもあったと思うんですけど、ちょうど叙情歌をやっている時に、この曲をいただいたので、日本語で始まる方がいいかな、とやりとりさせていただいたり。そこから僕も書きますと、2番から歌詞を書かせていただきました。

 あと、やまだ麻実さんに書いていただいた「明日の色」も、元々詞はあったんですけど、最初の歌詞がみんなが辛い時に僕は歌うよという、内容の歌詞でした。サビも「大丈夫」という言葉が入っていたんですけど、そういう歌詞だったら僕が書くべきだと思ったんです。僕も歌詞や曲を書いている以上、自分以外の方が書いた言葉で、僕の気持ちを表すような歌を歌うわけにはいかない、と思ったんです。なので、僕が作詞をさせていただいたという経緯がありました。

――最後に今、林部さんが歌い続けていく理由を聞かせて下さい。

 当たり前にコンサートがあって、こんなにもお客さんの前で歌わないのは、デビューさせていただいてから初めてのことでした。僕から今、コンサートを取ってしまうとほぼ音楽活動は出来ないなと感じていて…。この自粛期間中に曲をたくさん作ろうと思っていたんですけど、あまり作れなかったんです。ステージに立たないとなかなか曲は作れない、皆さんにお聴かせする時が決まらないと、曲を作るモードにならなくて…。僕はステージ上が「生きている」な、と実感できるというのはずっと話してきたんですけど、まさにそれでした。なので結果、自粛期間中は張りのない生活になってしまっていました。

 でも、だらだらしたくはなかったので何とか曲を頑張って作る、この先にあるコンサートを想像しながら、作曲モードにさせたいなと思ったんです。CDだけをずっと出し続けるような活動だけだと、僕はきっとやめてしまうと思います。コンサートアーティストと、この5年間言い続けてきたので、僕のマインドはそっちにあるのは確かで、そこから抜け出せないし、抜け出さないですし、皆さんに生で聴いてもらえるコンサートがある、それが歌い続けていける理由です。

(おわり)

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