シンガーの林部智史が11月19日に、東京・国際フォーラムCで全国ツアー『林部智史 ~意志の上にも三年・秋~CONCERT TOUR 2018』の東京公演をおこなった。10月3日にリリースされたカバーアルバム『カタリベ1』を引っさげて9月17日の埼玉・三郷市文化会館を皮切りに、11月29日の追加公演、東京オペラシティ コンサートホールまで全国11公演をおこなうというもの。『カタリベ1』からの楽曲を中心に、デビュー曲「あいたい」やアンコールでは未発表曲「東京」を披露し、訪れた観客を魅了した。【取材=村上順一】

3年目に入ってようやく基盤ができてきた

林部智史

 この日は夕方になると小雨が降っていた。少し足早に会場へ向かうファンの姿がみえる。会場に着くと、すでに多くの人で満たされていた。各々がそれぞれの時間を過ごすなか、定刻通りにコンサートの幕は開けた。オープニングを飾ったのは松本英子の「Squall」。紗幕の向こう側にはライトに照らされた林部の姿が確認できる。ピアノやバイオリンによるオーガニックな音色とともに、シルキーで透明感のある歌声がホール特有のリッチなリバーブに包まれ、我々の耳に優しく届く。

 続いて、林部が相当歌い込み、得意としているナンバーの高橋真理子(※高橋真梨子の「高」は、はしごだか表記)の「ごめんね・・・」を披露。情念を込めたその歌声は、楽曲の持つ世界観を存分に再現し、続いて、美しいメロディと歌声に魅了された2018年第一弾シングルの「恋衣」へと紡がれた。情緒あふれる旋律にはノスタルジックな気持ちを呼び起こさせる。

 MCでは饒舌なトークで歌っているときとはまた違う一面を見せ、観客を楽しませる林部。MCに続いて、オリジナルとはまた違った魅力を与えてくれた小田和正の「たしかなこと」を伸びやかに表現。そして、アマチュア時代にオーデションで必ず歌っていたという中島みゆきの「糸」を立て続けに届けた。そして、感情を揺さぶりかける歌を聴かせたデビュー曲「あいたい」は多くの人の心を捉えて離さなかった。

 様々なことを経験し、3年目に入ってようやく基盤ができてきたと語る林部。そして、カバーアルバムについて「自分では作れない世界観というものも歌っていきたい」と、シンガーとしての展望を話してくれた。そして、続いて楽曲制作の話へ。最近は詞先でも曲先でもなく、タイトルを先に決めて曲作りをおこなうということを明かし、「もしかしたら、実はこの曲もタイトルが先なんじゃないかな?」と、松任谷由実の「Hello, my friend」を歌唱。ユーミンの持つ独特な世界観を表情豊かに歌い上げていく。林部の歌声は情景を鮮明に映す力が強いと感じさせた1曲だった。

 そして、一気に空気感を変えたのはオリジナルナンバーの「やさしいさよなら」。ラテンのリズムは観客のクラップを誘発する。会場全体が熱い一体感に包まれる心地よいグルーヴに乗って、林部も軽快なステップと情熱的な歌で会場を盛り上げていった。さらに槇原敬之の「僕が一番欲しかったもの」、そして、「一緒に歌いましょう」とオリジナル新曲である「始まりの詩」を届け、林部はステージを一旦後にした。

夢を叶えた場所、これからも叶えていく街「東京」

林部智史

 サポートメンバーによる演奏をBGMに贅沢な時間を堪能しながらも林部の登場を待ちわびる。ほどなくして、衣装をチェンジした林部が再びステージに。後半戦の口火を切ったのは秦 基博の「ひまわりの約束」。ステージ前方の紗幕には窓から陽が差す部屋の映像が投影され、その奥でエモーショナルな歌を響かせる林部の姿。

 MCでは現在読んでいる本の話で盛り上がった。自己啓発本にハマっているという林部は、その中から面白かったコミュニケーションのとり方を説明し会場の笑いを誘った。ユーモアあふれるMCに続いて、「晴れた日に、空を見上げて」を作曲した山本加津彦氏による楽曲で、当時の自分の歌い方を思い出させてくれるという「人生で一番幸せな日」を披露。壮大なラブソングということもあり、胸の奥に熱いものが注ぎ込まれるような感覚があった。

 阿部真央の「側にいて」や玉置浩二の「行かないで」など、このセクションでは“泣き歌の貴公子”の魅力を余すことなく発揮した曲たちが並び、オフマイクによるロングトーンが圧巻だったオリジナルの「僕はここにいる II」では、至高の歌声をホールに響かせ、観客の心を震わせた。

 本編ラストは、小媒体のインタビューで、『カタリベ1』に収録されているなかで唯一、等身大では歌えなかったという、松田聖子の「瑠璃色の地球」を歌唱。ステージ後方のスクリーンには満天の星空が投影。林部はこの曲のスケール感を体に感じながらも、丁寧に言葉とメロディを紡ぎ、林部の声に包まれているかのような優しい空間が広がった。林部は客席に背中を見せ、盛大な拍手が響きわたるなか、ゆっくりとステージの奥へと姿を消した。

 その拍手はアンコールを求める手拍子に変化。その気持ちに応えるべく、林部がステージに登場。このアンコールでは本編のMCでも話した、タイトルから制作したという未発表曲「東京」を披露することに。林部にとっての東京という街は「夢を叶えた場所、これからも叶えていく街だと感じています」と思いを綴った。サポートギターの関淳二郎(Gt)と林部自身によるピアノの弾き語りスタイルで「東京」を初披露。聴く人それぞれの東京を頭の中に思い描きながら、『林部智史 ~意志の上にも三年・秋~CONCERT TOUR 2018』は大団円を迎えた。

 曲や歌の持つ力を再認識でき、時が経つのを忘れさせてくれたコンサートだった。誰もが知っている名曲を林部智史というフィルターを通して、新しい魅力を発見出来た人も多いのではないだろうか。2019年はどのような歌の表情を見せてくれるのかに期待が高まる。

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