昨年12月22日に20歳の誕生日を迎えた声優・楠木ともりが2019年12月29日、東京・EX THEATER ROPPONGIでバースデーイベント『Kusunoki Tomori coming-of-age「WRAPPED///LIVE廿」』を開催した。自身に影響を与えた楽曲のアコースティックカバーと、自身の作詞・作曲によるオリジナル曲で構成されたライブで、アンコールではこの日のために制作した新曲「バニラ」も披露。エモーショナルで表現力豊かな歌声を聴かせた他、ソロメジャーデビューの決定も発表。バースデーとソロメジャーデビューという、Wの喜びをファンと共有する一夜になった。【取材=榑林史章】

思い入れのあるJ-POPをアコースティックでカバー

楠木ともり(Sony Music Artists※画像の転載は禁止)

 声優・楠木ともりは、2016年に開催されたSony Music Artists主催アニメオーディション「第5回アニストテレス」で特別賞を受賞し、2017年に声優デビュー。『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』や『アサシンズプライド』など、人気アニメの主役、ヒロインを好演。数多くのキャラクターソングを担当して、歌唱力の高さが話題。また、アニメ化が決定している『ラブライブ!』シリーズの最新作では、μ’s、Aqoursに続くアイドルユニット=虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーの優木せつ菜を演じることでも注目される。そんな“次にクる”若手声優のバースデーライブには、会場を埋め尽くす多くの観客が押し寄せた。

 手拍子でステージに迎え入れられた楠木は、シックな色合いのロングのワンピースで登場。前半のカバーコーナーは、全曲大人っぽい雰囲気のアコースティックアレンジで披露された。選曲は、自身が影響を受けた思い入れのある曲、みんなと一緒に楽しめる曲、さらに家族との思い出や繋がりを感じさせる曲。楠木は、身振り手振りを交えながら情感をたっぷり込めてそれらを歌い、観客は着席して彼女の歌声に耳を傾けた。

 SMAPの「夜空ノムコウ」は、お姉さんに薦められて選曲したそう。今回改めてしっかりと聴いて原曲の良さを再確認し、「さすが姉だと思った」と、薦めてくれたお姉さんに感謝した彼女。Every Little Thingの「Time goes by」は、母親が歌っているのを聴いて好きになった曲だそう。世代もジャンルも違う楽曲ばかりで、彼女の音楽好きは、家庭環境があればこそなのだろうと実感させた。

 自前のアコースティックギターによる、弾き語りスタイルで披露した楽曲もあった。ギターの名前は“ルカくん”で、前回のライブで募集して決まったそう。「すごく甘い匂いと、良い音がするんです」と、愛機を嬉しそうに自慢した楠木。そのルカくんと共に歌ったのは、YUIの「Namidairo」だ。小学生の時に出会った曲で、「歌うことが楽しいと思わせてくれた曲です」と紹介。歌い終わると「あ〜緊張した〜!」と、ホッとした様子で笑顔をほころばせた。

 彼女が、ライブに足を運ぶほどファンであることを公言する、ハルカトミユキのカバー「夜明けの月」も披露した。歌詞には<太陽になれないそんな僕だけど
君の足下を照らす月になろう>というフレーズがあり、「自分の名前を大事にするきっかけになった曲」とのこと。インターネットラジオの『楠木ともりのともりるきゃんどる』という番組名も、ファンの心に明かりを灯したいという気持ちから付けられた。そんな彼女のルーツとも呼べる楽曲だけに、感情の込められ方もより一層で、力強くこぶしを握りしめて、真っ直ぐ前を見つめながら歌う姿が印象に残った。

自作のオリジナル曲で、音楽センスの高さを発揮

楠木ともり(Sony Music Artists※画像の転載は禁止)

 後半のオリジナル曲コーナーは、ポニーテールの髪型と、赤いチェックのスカート、肩を出したニットの可愛らしい衣装で登場した。彼女はこれまでに自身が作詞・作曲を手がけた楽曲を収録した『Acoustic CD [bottled-up]』、『■STROKE■』という2枚のCDを販売し、早くから音楽センスの高さを発揮してきた。このコーナーではその収録曲を、CD音源とは違ったバンドアレンジで披露して、また違った魅力を発揮した。

 2018年12月にリリースした『Acoustic CD [bottled-up]』からは、「眺めの空」と「クローバー」が演奏された。「クローバー」はCDではバラードだが、このステージではミディアムの少しジャズの雰囲気もあるサウンドにリアレンジ。胸の内側にくすぶる熱を、すべて吐き出すような歌声が印象的で、息を吸う音もこの曲を表現するための一部といった雰囲気。彼女の表現力の豊かさが感じられるパフォーマンスになった。「眺めの空」では、昨年10月に楠木ともり Official YouTube Channelで公開された同曲のリリックビデオがバックに映し出された。「作ってから時間が経ち、今歌えているのはすごくエモーショナルです」と彼女。淡い色調の絵に重ねて歌詞が映し出される映像も相まって、曲の持つ切なさが倍増して胸に響いてきた。

 昨年7月にリリースした『■STROKE■』から、「スケッチブック」「アカトキ」「ロマンロン」を披露。「スケッチブック」は力強いバンドサウンドをバックに、スタンドマイクをがっしり両手で掴んで歌う。イントロではグロッケンの演奏も披露して、観客は立ち上がって大きな拍手を贈った。昨年12月にリリックビデオが公開されて、ファンの間でも話題になっている「ロマンロン」は、観客がタオルを回して会場が一体となって盛り上がった。「やっと『ロマンロン』が、盛り上がる曲になりました」と彼女。と言うのも、以前にライブでやった時は「変拍子がノリづらくて“みんなゴメン”って思っていた」とのこと。ソリッドなバンドサウンドに乗せて激しく歌い、パワフルなロングトーンを響かせると、会場には大きな歓声が沸いた。そして本編ラストに歌った「アカトキ」は、シティポップ調のオシャレなサウンドと共に聴かせ、会場に手拍子が広がった。<アップデートしていこうよ>というフレーズが前向きで、観客はそれを一緒に歌う。楠木は客席にマイクを向けて「1階〜2階〜」「今度はみんなだけで〜」と観客をリードしながら盛り上げ、最後は観客と一緒にジャンプをした。

 このライブのタイトル『WRAPPED///LIVE廿』には様々な意味があり、「WRAPPED」は「包む→秘密を隠す」という意味で、「///」には3つの発表が隠されていた。1つはアンコールで歌った新曲「バニラ」を初披露したこと。同曲の歌詞の1番は家族や友だちに、そして2番はファンのみんなに捧げたと、MCで解説した彼女。歌詞に出てくる<声>という言葉は、応援してくれる人々の声という意味がありながら、声優である自分自身や歌うということも重ねられている、彼女らしい言葉のユーモアやレトリックを感じさせる。2つ目は、「バニラ demo ver.」を、オフィシャルモバイルサイト『SMA VOICE』の会員限定で10日間限定公開するということ(1月7日23時59分で終了)。そして3つ目は、ソロメジャーデビューの発表だった。

楠木ともり(Sony Music Artists※画像の転載は禁止)

 すでに数多くのキャラクターソングを歌い、歌声が高評価を得ていた彼女。自身で作詞作曲を手がけたオリジナル曲も、大人と少女の狭間で葛藤する等身大の彼女と、同世代が感じる閉塞感が独特な言語感覚で表現されていて、耳の早い音楽関係者の間では楽曲センスに注目が集まっていた。「演技だけじゃなく音楽でも、みんなに響くものを届けていきたい」と、展望を語った彼女。2020年、声優・アーティスト=楠木ともりの誕生は、きっと声優界・音楽界を揺るがすニュースになるだろう。

セットリスト

01.Happy Birthday to you(Official髭男dism)
02.夜空ノムコウ(SMAP)
03.Time goes by(Every Little Thing)
04.Prisoner Of Love(宇多田ヒカル)
05.ギブス(椎名林檎)
06.Namidairo(YUI)
07.いつの日も(阿部真央)
08.夜明けの月(ハルカトミユキ)
09.Snowdome(木村カエラ)
10.Pieces(L'Arc~en~Ciel)
11.スケッチブック(楠木ともり)
12.眺めの空(楠木ともり)
13.クローバー(楠木ともり)
14.ロマンロン(楠木ともり)
15.アカトキ(楠木ともり)

ENCORE

EN1.バニラ(楠木ともり)
EN2.僕の見る世界、君の見る世界(楠木ともり)

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