シンガーのWakanaが20日、1st EP『アキノサクラEP』をリリース。Kalafinaの活動を経て今年2月に「時を越える夜に」でソロデビュー。前作でも作詞を務め、今作では2曲の作詞を担当して、新たな表情を見せている。「歌に対するこだわりを持てるようになったのはソロになってから」と話す彼女。今作に込められた歌に対するこだわりや、12月に開催するライブに向けた意気込みなどを聞いた。【取材=榑林史章】
切なさや寂しさはマイナスではない
――『アキノサクラEP』ですが、楽曲はどういう基準で選びましたか? 単純に好きかどうか、歌ってみたいと思うかどうかで?
歌ってみたらどうなるんだろうという、ワクワク感を大事にしました。例えば1曲目の「eve」は、本当にどうなるんだろうという気持ちが大きかったです。作曲・編曲の夢見クジラさんは個性的なメロディを作ってくださる方で、歌うと言うより楽器の曲だなと思いました。それでディレクションの立山秋航さんを交えて話をして、ストリングス、フルート、クラリネットのみなさんの演奏を見学させていただいた上でレコーディングしました。
――「eve」というタイトルは?
単純に「アキノサクラ」という表題曲の前の曲という意味もありますけど、この作品が次に繋がるものだという考えもあって、前夜だなと。そういう意味で「eve」と付けました。これについては、ちゃんと発表出来る時がくるので楽しみにしていてください。
――ある種の伏線の意味もあると。
はい。それに今作は、世界観がとても盛りだくさんなものになったので「eve」という曲があることで、その膨らみを豊かなものにしてくれているんじゃないかと思っています。
――「eve」は、ハミングと言うかスキャットで歌っていて、歌詞が<Ah…>だけですね。
最初は<Ah…>で、サビは<Uh…>なんですけど。声も楽器としてとらえる曲だなと思って。まるで映画のような世界観だと思って、ここではあえて言葉はいらない、<Ah…>と<Uh…>で十分じゃないかと。意味のある言葉がない分、いろんなことを想像してもらえたらうれしいです。
――表題曲の「アキノサクラ」は、どんなイメージでしょう?
枯葉が桜の花びらのように舞い散る様子が、「アキノサクラ」と表現されています。今は別々に歩んでいる相手との思い出を歌っていて、でも、前向きな曲だと思っています。うじうじと悩んでいるわけではなくて、あの時のことをこの季節になると思い出すし、春が来るたびにそれぞれの出会いや別れを思い出す。それを秋の枯葉と重ねました。最初に曲を聴いて、<咲いて咲いて>というメロディがすごくキャッチーで好きだったので、絶対歌いたいと思った1曲です。
――MVやジャケット写真は、色や光の感じが淡くて、まさしく秋の夕暮れ時といった雰囲気ですね。
ジャケット写真やアーティスト写真と、MVの撮影は別の日だったんですけど、両方とも空がテーマです。太陽が沈んでいく瞬間や、ノスタルジックな雰囲気を表現したいと思いました。
例えば表参道や原宿などは、人がいっぱいいてイルミネーションがたくさん輝いてきらびやかだけど、そこに一人でポツンといるとすごく寂しい気がするじゃないですか。人がこんなにたくさんいるのに、寂しくなれるのが都会なんだなと思って。つまり寂しいのは自分の心であって、物では計れないもの。だから、それを絵的に表現するにはビルだなと思って、アートディレクターの方にそういう提案をさせていただきました。
――先ほど「寂しくなれる」と言いましたが、寂しくなりたいという願望がある?
そういう時ってありませんか? 私にはあります。都会に行くことで、もや~っとした気持ちになって、歌詞が書きやすくなったりするんです。
――Wakanaさんは、切なさや寂しさという感情も楽しめる人なんですね。
そうなんですかね。私は、わざと寂しさを感じて、家に帰った時にホッとするのも好きです。やっぱり家のふとんが好きだなと、再確認出来るし。そもそも切なさや寂しさを、マイナスなものだとは思っていないので。切なさでキュッとなるのも、感情を豊かにするものの一つだし、人生の肥しじゃないけど。
――いろんな感情を楽しめるから、それが作詞や歌の表現に活かされるんでしょうね。最後の<泣いて泣いて>の繰り返しのところは、急にエモさが増していて。こういう細かいニュアンスの変化も、多彩な感情を日頃から感じていればこそ表現できるものだと思います。
そう思ってもらえたら嬉しいです。<咲いて咲いて>や<抱いて抱いて>など、他はけっこう平坦に、あまり変化がないように歌っています。<泣いて泣いて>のところは、音と共に、そこだけあえて感情を込めたいと思いました。全部に同じような気持ちを込めていては、みんなが聴いた時に疲れてしまうんじゃないかと思ったので。