『ジョン・ウィック:パラベラム』

 コンサート、映画、舞台など、大人も楽しめる日本の良質なエンターテインメントをおススメする新感覚情報番組『japanぐる〜ヴ』(BS朝日、毎週土曜深夜1時〜2時)。9月28日放送の映画コーナーでは、映画評論家の松崎健夫氏がキアヌ・リーブスが主演・製作総指揮を務めた『ジョン・ウィック:パラベラム』、添野知生が、奇跡の手描きアニメ『エセルとアーネスト ふたりの物語』を紹介した。

キアヌ・リーブスの生身のアクションが進化

『ジョン・ウィック:パラベラム』

 『ジョン・ウィック:パラベラム』は、キアヌ・リーブスの主演の話題作。愛犬を殺され、愛車と我が家を奪われた元殺し屋のジョンが、マフィアに復讐する物語。2014年に『ジョン・ウィック』、2017年に『ジョン・ウィック:チャプター2』が公開され、シリーズ3作目となる今作では、世界中の暗殺者がジョン・ウィックの首を狙う。松崎氏は、パワーアップしたアクションシーンに着目した。

 「最近はカット割りでスピード感があるように見せる手法を取る映画があるが、ワンカットでキアヌ本人がこんなにも速く動けるということを見せているのが、『ジョン・ウィック』シリーズの魅力。今作は、キアヌが全部自身でやっていると分かるように、全身が映る完全に引いた映像で見せている。『蛇拳』や『酔拳』のころの香港映画のような見せ方で、実際にすべてキアヌ自身でやっているのがすごい」

 キアヌ・リーブスの身体能力の高さは、本当に驚くばかり。松崎氏も「さすが『マトリックス』をやっただけのことはある」と感嘆。さらに、立ち食い寿司屋を経営する日本人の暗殺者=ゼロを演じるマーク・ダカスコスにも注目した。

 「もともと真田広之さんが演じるとアナウンスされていたけど、降板されてしまったので、マーク・ダカスコスにお鉢が回ってきた。それを聞いて最初は残念だと思ったけど、実際に見るとマーク・ダカスコスもすごい。年齢は重ねているけど、まったく衰えてないし、実際にカンフーの達人でもあるので、相手にとって不足はない。もしかしたらジョン・ウィックも勝てないんじゃないかと思うくらい」

 生身のキアヌ・リーブスが、極限のアクションシーンを繰り広げる、アクション映画の決定版。はたしてジョン・ウィックは、次々と襲いかかる刺客をどう排除していくのか。難敵ゼロとの対決シーンは見どころだ。

レイモンド・ブリッグズの名著がアニメ映画化

「エセルとアーネスト」

 添野知生氏が紹介したのは、アニメ映画『エセルとアーネスト ふたりの物語』。『スノーマン』や『風が吹くとき』などで知られる、現在85歳になるイギリス人絵本作家=レイモンド・ブリッグズの絵本『エセルとアーネスト』をアニメ映画化したもの。同作は、1999年に英国ブックアワード最優秀イラストブックオブザイヤー賞を受賞。ブリッグズ自身は、2017年にエリザベス女王から大英帝国勲章を授与されている。

 1928年のロンドン、牛乳配達人のアーネストが働き者のメイドのエセルと恋に落ち、結婚し息子が誕生。さらに第二次世界大戦の苦難を乗り越え、戦後の経済発展を経て、ふたりがこの世を去る1971年までの人生を描いた。レイモンド・ブリッグズ自身の両親のことが描かれた作品で、どんな時代にもあるありふれた日々の暮らしを描いているにも関わらず、「衝撃を受けた」と添野氏は話す。

 「第二次世界大戦など大きな出来事も出てくるが、決してドラマチックに盛り上げるようなことはなく、物語は淡々と進んで行く。それなのに、“すごいものを見た”という、他では味わったことのない充実感が押し寄せてきた。人の一生とは、こんなにも充実して尊いものなのか。こんなに平凡な世界の片隅に生きた普通の人たちの物語が、長編アニメーションの題材になることも驚きでした」。

 また、エンディング曲として、ブリッグズの大ファンだというポール・マッカートニーが、新曲を書き下ろしているのもポイント。添野氏によれば、ポール自身がこの映画を自分のことと重ね、自分の母親のことを思い出しながら曲を書いたとのこと。

 「エンディング曲の歌詞に<まばたきする一瞬の間に、多くの歌が歌われ、多くの人生が過ぎていく>という一節が出てきます。まさしく、誰もがその中の一人なんだと思える。そこに、この映画の衝撃の秘密があります」。

 涙なくしては見られなさそうな作品。懐かしい電化製品や60年代の若者文化も細かく描かれ、20世紀の生活史という見方もできるとのこと。10月4日公開の『ジョン・ウィック:パラベラム』、9月28日公開の『エセルとアーネスト ふたりの物語』。アクション映画にハートウォームなアニメ映画と、この秋は映画三昧できそうだ。【文=榑林史章】

Photos

記事タグ