「ひとよ」

 コンサート、映画、舞台など、大人も楽しめる日本の良質なエンターテインメントをおススメする新感覚情報番組『japanぐる〜ヴ』(BS朝日、毎週土曜深夜1時〜2時)。11月2日の放送では、映画評論家の添野知生と松崎健夫が、公開中の映画『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』と、11月8日公開の映画『ひとよ』を紹介。

ホラーだけど人間を描いた『IT』最新作

『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』

 『IT』は、『キャリー』や『シャイニング』などのホラー小説で知られる、スティーヴン・キングが1986年に発表した代表作の一つ。アメリカのメイン州デリーに27年周期で現れる、ピエロの見た目をしたペニーワイズと呼ばれる魔物が子どもを襲う事件に、ビルたち7人が立ち向かう物語。1990年にテレビシリーズで実写化され、2017年には『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』としてリメイクされ、主人公たちが子ども時代の原作の半分が描かれた。『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』はその続編として、前作の27年後を舞台に大人になった主人公たちが、再びペニーワイズと対決する内容。

 松崎は、「スティーブン・キングの作品が他のホラー小説と違うのは、人間を描いていること」と、解説。「7人の登場人物それぞれをしっかりと描いているからこそ、ホラーだけれど人間ドラマになっている」と、前作以上に登場人物のバックボーンが描かれていることに着目した。

 添野は、7人の一人=ベバリーを演じた、ジェシカ・チャスティンの演技を賞賛した。「ベバリーの子ども時代を演じた子役=ソフィア・リリスの演技の癖を意識的にコピーしている。それによって大人になっているけれど同じ人だと分かる。これは大人の俳優だからこそのプロの演技だと思った」。

『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』

 また添野は、前作から27年後で子どもたちが40歳になっていることにも意味があると話す。「人生の折り返し地点で迷ったり不安になったり、自分の価値を疑ってしまったりする、“ミドルエイジ・クライシス”と呼ばれる不安障害を、どう乗り越えるかも根底のテーマにある」と、ホラーとは違った視点での楽しみ方を提唱した。

 「ホラーは怖いからと思って敬遠せずどんどん観に行って欲しい」(添野)。

役者のプロ意識が光る『ひとよ』

「ひとよ」

 もう一本は、11月8日公開の映画『ひとよ』。監督の白石和彌は、2019年だけでも、映画『麻雀放浪記2020』や『凪待ち』、ドラマ「フルーツ宅配便」を手がけるなど、今一番忙しい監督のひとり。また、劇団KAKUTAを主催・作・演出を手がける劇作家の桑原裕子の舞台が原作となっている。

 『ひとよ』は、父親から虐待を受けていた子どもを守るために夫を殺した母親が子どもたちの前に現れ、15年前に崩壊した家族の絆を取り戻していく物語。松崎は、「役者全員がすごい。役者を見るための映画です」と、同作を評価した。

 「特にすごいのは母親役の田中裕子」と、松崎。「白髪は田中本人の地毛で、クランクインの数ヶ月前から他の仕事をキャンセルして白髪を伸ばして臨んだ。今の日本の映画界では、1つの作品でそこまでの役作りをするのは難しい」と、田中裕子のプロ意識とそこから生まれるリアリティに敬服した様子。

 また長男を演じた鈴木亮平は、偶然にも『IT』のジェシカ・チャスティンと同じ役作りをしたことを明かす。「子ども時代の長男を演じた子役の演技を見たいと、他の撮影の合間にわざわざ見学しに行った」とのこと。子役の演技を観察することで、キャラクターに統一感を持たせているのだ。奇しくも今回の2本は、役者の役作りが海を越えて共通だという点も見逃せない。

 『ひとよ』には他に、次男役を佐藤健、長女役を松岡茉優が演じる。今まで演じたことのない役にチャレンジした、2人の役者としての成長も見どころだ。【文=榑林史章】

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