「ジェミニマン」

 コンサート、映画、舞台など、大人も楽しめる日本の良質なエンターテインメントをおススメする新感覚情報番組『japanぐる〜ヴ』(BS朝日、毎週土曜深夜1時〜2時)。10月26日の放送では、映画評論家の添野知生と松崎健夫が『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』と『ジェミニマン』を紹介。

戦車T-34の本物の存在感とCGによる大迫力

「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」

 戦争ものの映画を得意とする添野は、持参したT-34という戦車のプラモデルを見せながら、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』を紹介した。内容は、ナチス・ドイツの捕虜になったソ連の戦車長・ニコライが、T-34という戦車に乗って脱走劇を繰り広げるというもの。ロシアで興行収入40億円超、800万人超の動員を記録した。

 ロシアでは戦車バトルを題材した映画が流行っているそうで、例えば『T-34 ナチスが怖れた最強戦車』や『タンク・ソルジャー 重戦車KV-1』など。その最新作となるのが『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』で、これらの映画は本物の戦車が多数登場しているところが見どころとなる。

「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」

 「ロシアには今でも走行可能で、映画撮影で借りることが出来る実物のT-34がごろごろ残っている。ブラッド・ピットが主演した『フューリー』(2014)には、ナチス・ドイツのティーガーIという戦車が出て来ていたが、これは世界に一台しか動くものがなく、貴重なものだったため遠慮がちにしか動かなかったのが残念だった。でもT-34はたくさん残っているので、ガンガン使えるというわけ」

 これまでの戦車映画では、他の戦車を改造して使うことが映画界では50年近く行われて来たそうで、改造された戦車を戦車映画ファンの間では“ニセトラ”と呼ぶとのこと。この映画には、T-55を上手く改造したドイツのパンターというニセトラが登場する他、当時の蒸気機関車や偵察機なども出て来る。

 また戦車映画の表現として新しいと添野が絶賛したのが、弾が当たった時の戦車内の描写。

 「T-34は構造上弾が当たってもそれるように出来ているけど、当たった瞬間、戦車の中はすごい衝撃と音が響いて、車内で大けがをしてしまうほど。考えてみればそりゃそうだよねということだけれど、それが表現されていたのが新しい」

『ジェミニマン』は3D+ in HFRで新感覚の映像体験

「ジェミニマン」

 松崎はウィル・スミスの主演で話題の映画『ジェミニマン』を紹介。ウィル・スミスが演じる伝説的スナイパーのヘンリーは、引退をかけた最後の仕事で逆に狙われる。その相手とは、なんと自分のクローンで、自分自身と壮絶な戦いを繰り広げるというもの。松崎は、アン・リー監督作品の根底に通じているテーマ性と、同作で導入された3Dプラス・イン・ハイ・フレーム・レートという方式を取り上げて『ジェミニマン』の魅力を解説した。

 「アン・リー監督は、“自分のアイデンティティとは何なのか?”ということをデビュー作から描いている。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』や『ハルク』『ウェディング・バンケット』もそう。作品ごとにテーマは家族や恋人など違いがあり、『ハルク』はアメコミのヒーローだけど、根底には自分の本質がどこにあるのかを説いている」

 この映画では、3Dプラス・イン・ハイ・フレーム・レートという手法が使われている。映画は通常1秒間に24コマで撮影するが、この映画は1秒間120コマで撮影され、それによって動きが非常に滑らかになるとのこと。松崎はメリットとデメリットを挙げ、「この手法はアクションに向いている」と解説した。

 「僕らが見た試写では60コマに落としたものだったけど、それだけでもすごく滑らかで驚いた。スマホの画面を見る主観のショットは、自分がスマホを見ている気分になったし、バイクでチェイスするシーンはすごい臨場感。たとえば『ワイルド・スピード』シリーズなど、カーチェイスの臨場感がもっとすごくなるんじゃないかな。ただ、コマ数を多くするとその分、明るくしないといけないから通常より多くの照明が必要になる。夜間の撮影や陰影を強調したい作品には向いていない。『ブレードランナー』のような作品だとちょっと違うかな」

 国内でこの120フレームに対応している映画館は、埼玉、大阪、福岡の3か所だけ。そこに行けない場合は、少なくとも60フレームで上映している映画館で見てほしいとのこと。「こんな映像があるのか!という体験が出来ます」と松崎。

 実物の存在感とCGを組み合わせた迫力の映像が見どころの『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』と、3D+ in HFRという新技術による臨場感で魅せる『ジェミニマン』。日々技術革新が進む映像世界の最先端をいち早く体験してほしい。【文=榑林史章】

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