THE BACK HORN「生きていることへの執着」菅波栄純が語るバンドの精神性
INTERVIEW

THE BACK HORN「生きていることへの執着」菅波栄純が語るバンドの精神性


記者:榑林史章

撮影:

掲載:19年09月14日

読了時間:約15分

曲を作るためにしか生きていない

――楽曲提供をしたことも、この曲には影響していると聞きました。菅波さんは、JUNNAさん、みゆはんさんに楽曲提供していて、2人ともTHE BACK HORNの音楽性とは全く違うアーティストですが、THE BACK HORNの曲制作と楽曲提供はどのように違いますか?

 THE BACK HORNは、メンバーが演奏して将司が歌うことを想像して書いているけど、同時に個人としての表現と言うか、大げさに言えば、俺個人の芸術性もそこには含まれています。例えば「心臓が止まるまでは」という曲は、自分からそれをベリベリと引き剥がしている感じがあって。

 楽曲提供にも少し似たところがあって、JUNNAちゃんやみゆはんが歌っているところを想像して、俺が2人から聴きたい言葉は何かな? って想像する作り方です。そこに俺の作家性と言うか、アートフォームを徹底して入れたいとか追求したいみたいな気持ちがTHE BACK HORNにはすごくあるとしたら、楽曲提供ではそれほど多くないかもしれない。ただ、楽曲提供にしかないのは、今はたまたまJUNNAちゃんとみゆはんという女性2人だからというのもあるけど、今までのTHE BACK HORNにはなかった質感…ラブコメ風とかラブソングというもののオリジネイターになりたいという野望があります。この感じって、今までなかったなという刺激的なものと言うか。

――まだ誰もやっていない切り口でのラブソングみたいな。

 切り口とか作風ですね。それをやりたい欲があります。楽曲提供の時は、相手の全情報を入れてから取りかかるタイプなので、JUNNAちゃんなら、JUNNAちゃんが今までリリースした全曲を聴いて、そこにはまだなかったけど、JUNNAちゃんのこういうところを聴きたかったんだよなと、ファンの人が思ってくれるようなところを目指したくて。それはみゆはんの時もそうで。

――楽曲提供という部分で、意識する人や尊敬する人はいますか。

 前山田健一さんは、楽曲提供界における俺にとって神のような存在です。俺はアニメ『ガヴリールドロップアウト』のOPテーマで、前山田さんが作った「ガヴリールドロップキック」という曲が大好きなんです。俺の中では、あの存在感が圧倒的で。4人のキャラクターが歌っているキャラクターソングなんですけど、イントロで4人がしゃべっていて、そこから始まるワクワク感とかザワザワ感が、聴いていて訳が分からないけど楽しいみたいな。こういう感覚は、アニソンでしか味わえないと思っていて。

――そういうザワザワやワクワクのような、菅波さんのオリジナルのものを作りたいと。

 そう。極端に言えば、全部セリフでもいいんじゃないかと思っていて。その人に言ってほしい言葉しかないみたいな。状況説明も何も無く、かぎ括弧でくくれる言葉だけでいいみたいな。その中で、最後まで聴くうちにストーリー的な変化もあってという。

 例えばJUNNAちゃんに提供した「世界を蹴飛ばせ!」は、まずは直球のJロックという感じの曲を、JUNNAちゃんの声で聴きたかったんです。それまでのJUNNAちゃんの曲は、バラードとかヘヴィな曲が多くて、あとは歌謡曲的な四つ打ちとか。それらもすごく格好いいんだけど、もっと等身大の学園ものみたいな青春の曲が聴きたかったし、俺も青春っぽい曲を書くのが得意だからと思って挑戦して。

――JUNNAちゃんのアルバム『17才が美しいなんて、誰が言った。』の中で、「世界を蹴飛ばせ!」は独特な立ち位置でしたよね。

 ファンの方もすごく喜んでくれました。みゆはんの『闇鍋』に収録された「人間関係満腹中枢」なんかは、逆にすごくぶっ飛んでいて。

――<お米人間>なんてものも出てきて、「なんじゃこりゃ」と思いました。

 (笑)。出てきたものは完全にエンタメなんだけど、制作過程にはわりとストイックな野望があったりするんです。提供は提供で、歴史を塗り替えてやるくらいの感覚です。

――THE BACK HORNの曲を書く菅波さんと楽曲提供の菅波さんは、同一人物かっていうくらいの差がありますけど。

 でも、「心臓が止まるまでは」みたいにダークな曲を書くのと、みゆはんに提供した「エチュード」みたいに初恋のような青春の曲を書くのは、エネルギーとしてはあまり変わらないんです。

――世紀末サバイバルものもあれば、青春ラブコメもあるのは、まさしく少年漫画誌のようですね。

 俺、ラブコメも好きなんで。そこで気持ちがキュンキュンした感じを、聴いた人にも感じてもらえるように作るし。THE BACK HORNで作る時は、それこそ「世界をぶっ壊してやる!」みたいにテンションがアガった時の感覚を、味わわせるくらいの気持ちで作ってる。たぶん俺の脳内って、漫画でできてるんです(笑)。

 今のところ楽曲提供では、ラブコメっぽい曲、青春系の曲、電波ソング的な曲をやらせてもらっていますけど、それはたまたまTHE BACK HORNとは系統が違うものだっただけで、もしかすると今後は楽曲提供でTHE BACK HORNみたいな超ダークな曲を作るかもしれないし。

――提供相手にそういう要素があればってことですよね。

 そう。そういうものを歌ってもらいたいと思えば作るし。逆にTHE BACK HORNでも、青春っぽい曲やラブコメっぽい曲もないわけではないので。まあでも、正直曲を作ることでしか生きがいを感じられない人間なので、今は曲を作るためにしか生きていないっていうくらいです。とにかく一曲入魂でやっていくことしか能がないので。

――でも自分の何かを犠牲にしなければ手に入れられないものも、きっとあると思うので。

 正直、それは絶対あると思います。やっぱり良いとこ取りだけでは、やっていけないところもありますよね。道を歩いている時も曲のことを考えていて、頭でラブコメとか世界が壊れるところとかを想像しながら歩いているわけだから、傍から見れば単なる不審者です。そう考えると、そうとう犠牲を払ってるなって。これが職業になっていて、本当に良かったと思います(笑)。

(おわり)

作品情報

先行配信曲
「心臓が止まるまでは」
配信中

12th Album
『カルペ・ディエム』
10月23日発売
【初回限定盤 A】 [CD+BD]VIZL-1615 / ¥6,500(税抜)
【初回限定盤 B】[CD+DVD] VIZL-1616 / ¥5,500(税抜)
【通常盤】[CD]VICL-65224 / ¥2,800(税抜)

《収録曲》
1. 心臓が止まるまでは
2. 金輪際
3. 鎖
4. フューチャーワールド
5. ソーダ水の泡沫
6. ペトリコール
7. デスティニー
8. 太陽の花
9. I believe
10. 果てなき冒険者
11. アンコールを君と

《初回限定盤A・B共通 特典映像収録内容》
20th Anniversary
「ALL TIME BESTワンマンツアー」〜KYO-MEI祭り〜
ファイナル 日本武道館公演 2019.2.8(全21曲)

《初回限定盤A特典Blu-ray のみの収録内容》
武道館ライブ当日のバックステージ、20周年メンバーインタビュー

公演情報

▽THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」カルペ・ディエム~今を掴め~

11月18日 東京・渋谷WWW Xを皮切りに、2020年2月15日 東京・新木場STUDIO COASTまで、全国22公演を開催。

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