THE BACK HORN「生きていることへの執着」菅波栄純が語るバンドの精神性
INTERVIEW

THE BACK HORN「生きていることへの執着」菅波栄純が語るバンドの精神性


記者:榑林史章

撮影:

掲載:19年09月14日

読了時間:約15分

 THE BACK HORNが10月23日、アルバム『カルペ・ディエム』をリリースする。フルアルバムは前作『運命開花』以来約4年ぶり。今作に先駆け今年6月に先行配信した「心臓が止まるまでは」は、THE BACK HORNの持つダークかつストイックな精神性と、溢れんばかりのエネルギーが込められた楽曲。菅波栄純(Gt)は「(バンドの)根底には少年漫画の終末感もある」と言い、これまでにJUNNAやみゆはんに楽曲提供もおこなっていることも、現在の作曲に影響を与えていると話す。今回はメンバーを代表して菅波にアルバムの進捗状況から「心臓が止まるまでは」の制作、THE BACK HORNの活動と楽曲提供との相関性などについて話を聞いた。【取材=榑林史章】

荒廃や退廃はTHE BACK HORNのトレードマーク

――10月23日には、配信中の「心臓が止まるまでは」を含めたアルバム『カルペ・ディエム』をリリースされますね。

 すごいですよ、本当に。アルバムから先行でこの曲が出ていることからも分かる通り、4人の創造性を極限まで引き出していて。本当にヤバイです!

――方向性としては、この曲のような?

 いえ、それだけに限ったものばかりではないです。いろんな曲があるけど、どれも「心臓が止まるまでは」と同じくらい高い熱量ですね。本当に楽しみに待っていて欲しいです。

――「心臓が止まるまでは」は、とても熱量が高くて「何じゃこりゃ!」と思いました。執着、怒りなどマイナスの感情もありながら、最終的には「それでも生きていく」というプラスの感情も生まれているように感じました。

 まさにそういう曲が作りたかったんです。感情って一般的には喜怒哀楽に分けられるけど、俺は「4つだけじゃ少ないんじゃないか?」と思っていて。実際に4つどころじゃないじゃないですか。それなのに大抵は、1曲4分にひとつの感情で曲を作っているものがほとんどで。それは勝手に作る側がルール化してしまっていたのかもしれなくて。怒りの曲、喜びの曲、悲しみの曲と、一つひとつの感情で分けたほうが、聴き手も分かりやすいだろうと、勝手に思い込んでいたところもあったと思うんです。

 でも、“そうじゃないんじゃないか説”が、自分の中に生まれてきて。ネガティブな感情も決して悪ではなく、それがバネになって前進することもあるわけで。悔しいとか、あいつみたいになりたくないとか、その場だけであったとしてもそれが前に進める理由になる時もある。それをポジティブな曲かネガティブな曲かって、どっちかに分ける必要はないんじゃないかと。

――表裏一体ということですよね。

 そうそう。どちらも同じエネルギーだから、そのエネルギーを全部込めたら、ものすごいエネルギーの曲になるんじゃないかと。

――それで全部ぶち込んだら、こういうとんでもない曲が生まれた。

 はい。初期から聴いてくれている人にも好評で、「久しぶりにこういう感じの曲を聴いた」って言ってくれて。そもそも世の中にこういう曲はないから、「初期バクホン以来だ」って。説明がつかない感情が入り乱れた感じだと。

――この曲を作るきっかけは?

 10月23日にフルアルバムをリリースすることが発表されて、フルアルバムを出すのは久しぶりで。

――前回の『情景泥棒』(2018年3月)はミニアルバムだったから、フルアルバムは2015年以来となりますね。

 もうそんなになるんですよね。だから、すごく気合いが入っていて。アルバムのために、今までの自分のハードルを全部越えた曲を作りたいという気持ちがあって。それに最近は、楽曲提供も少しやらせていただくようになって、それによってTHE BACK HORNという現場でしか出せないものがあることに、改めて気づくことができたんです。山田将司の口から出るなら許されるけど、他の人が言うのは許されないみたいな、言葉やメロディがいっぱいあると思って。

――さすがにこの曲をJUNNAちゃんには歌わせられないですよね。

 JUNNAちゃんにはJUNNAちゃんが歌うことでもっとも説得力が出る座組があるわけで。THE BACK HORNが20年以上やってきた中で、ネガティブなことも前向きなことも歌ってきた、俺らにしか言えないセリフがあって。それを曲にしたいと思って。

――THE BACK HORNの20年を圧縮してポタポタとこぼれ落ちてきた純度100%の絞り汁みたいな。

 まさしくそういうものです。歌詞の面では、特にそういう面が強いです。例えば3rdアルバムのタイトル『イキルサイノウ』という言葉が歌詞にも出てきていて、そういうところからも、俺らの20年を感じてもらえると思うし。

――ファンは、そういうのを見つけるとうれしいですよね。

 俺も、好きなバンドでそういう要素があるのが好きだから。伏線みたいな。「キター!」ってなるし。でも、この歌詞は頭から書いて行って、<生きるための言葉を刻もう>というフレーズなんかは、自分に向けた宣言で、書き始めたら自然と<イキルサイノウなどないけどさ>とか、出てきたんです。

――アレンジは、シンセや打ち込みも使っていて。前作でもそういう要素はたくさんありましたが、個人的には随所に出てくる「ブォ~」と鳴っている重低音のホーンみたいな音が格好いいなと。

 あれ、格好いいですよね(笑)! 俺もすごく気に入ってます。前のミニアルバムの曲「Running Away」では、イントロにマリンバの音を使って、それがすごく象徴的になったんです。それまでは、曲のテーマはだいたいギターでやってきたけど、音色とメロディを変えることで曲のキャラ立ちが何倍にも膨れあがるんだと気づいて。それでこの楽曲も、何かこの曲を象徴する音が欲しいと思って、それがあの「ブォ~」なんです。

――アニメ『聖☆おにいさん』とかに出てくる、ヨハネの黙示録の終末のラッパみたいだなって思いました。

 ああ、確かにそういう感じがありますね。終末感があって、その例えはいいですね(笑)。思えばTHE BACK HORNの結成は1998年の世紀末で、終末感というのは自分たちに染みついていて、メジャーアルバムは、それこそ『北斗の拳』や『AKIRA』の世界観だし。

 特に俺は『AKIRA』が好きだから、それをイメージして作っていて。荒廃した未来で生きているみたいな背景があると、余計に生きてる感じが強まるなって、曲を書きながら自然と学んでいったところもありますね。それからは荒廃した感じや退廃的な音使いは、THE BACK HORNのトレードマークの一つになりました。だから、そういう要素は終末のラッパ以外にも今まで以上にたくさん入れ込んでいます。根底にあるものは変わらないけど、20年かけて作曲の腕も音質も8Kになったみたいな(笑)。

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