東儀秀樹そのものを幅広く感じてもらえる作品に
――今作には雅楽の「蘭陵王 (ROCK)」と「納曽利急 (BALLAD)」が収録されていますけど、どのような想いで収録されたのでしょうか。
新しい時代が来ると皆さん色々と見つめなおすじゃないですか? 僕もそう思って、令和第1弾のアルバムは東儀秀樹そのものを幅広く感じてもらえる作品にしたいと思ったんです。今の東儀秀樹はもちろんなんだけど、東儀秀樹が何者かというと、かなりフレキシブルに色んな音楽を歩んできていて、その核には古典があるんだということを匂わせたい。古典が嫌になって他の事をやっているわけではなく、何もかもを大切にしているんです。だから、今作には古典の王道としている曲も混ぜたいと思いました。
――本当に幅広すぎます。
「アルバムのテーマは何ですか」と聞かれたら、QUEENから雅楽と色々あって答えられない。ジャズやプログレも一律に好きなものなので、それらを伝えられると思って、今回はこのようなラインナップになりました。
――しかも、「蘭陵王」はロックアレンジで雅楽とロックの見事な融合を見せています。
これがまたロックに合うんですよ。しかも、古典に傾倒している人ならこのアレンジで聴いても「蘭陵王」だとわかるメロディがしっかりと残っているんです。ジャンルを飛び越えるワクワク感とか楽しさが凝縮された一曲になりました。
――このアレンジを聴いた時にゲームのラスボスと戦っているような、勇ましいイメージがありました。
ラスボスって何のことか知らないけど、それぞれの思いで結びつけて感じてもらうことでいいんです。この曲は顔が良すぎて、周りから軽視されるという将軍が、戦場では厳めしい仮面を被って戦いに臨むという故事が元にされた曲なんです。勝利を治めるまでの過程をドラマチックに描いたと思ったんです。
――その光景がすごく伝わってきました。もう一曲の「納曽利急」はどのような曲なのでしょうか。
これは、皇居に勤めていた時から何度も演奏してきた曲なんです。演奏しているときにムードのあるフレンチポップみたいな伴奏を付けたらそのままいける、不思議なメロディだなと思いました。これが1000年前からあるメロディだなんてすごいなと感じていて。それを最近思いだしたんです。
「蘭陵王」と「納曽利急」は古典でも繋いで演奏される事が多いので、僕も2曲を続けて収録しています。これは雅楽が好きな人がみたら、「この2曲を登場させたか」とマニアックに楽しんでもらえると思います。どんなに飾っても古典の雅楽の様式は残せるというのもわかってもらえるところなんじゃないかな。
――この背景を知るとより楽しめますね。最後は「夕なぎ」で締めくくりますが、ラストを飾るのに相応しい曲ですね。
僕も大好きでデビューの時に作って、必ず演奏していた曲なんです。篳篥の良さを存分に表現出来るし、僕の心も表現しやすいんです。音楽を通してみんな優しくなれたら良いのになと。さっきも話しましたけどデビューする時と新時代を迎える高揚感が重なって、この「夕なぎ」が僕の力だったなと思い出して、今の僕で再録音しようと思ったんです。
――すごく穏やかな気持ちになれる曲だなと思いました。
それもあって、最後の曲にしたというのもあります。
――前回の時もお聞きしたのですが、令和という新時代に突入したということで、未来への展望や目標は生まれたりしていませんか。
やっぱり展望というのはないです。今もこの立場を目指してやってきたわけではないですし、ただ目の前に現れたものに全力でやってきただけなんです。やりたい事をやって、違うなと思ったら無理はしない。そうやっていくうちに自分の道が出来てきただけなので、次の目的を作らない方が僕らしく生きられると思うんです。人は目的を作ってしまうと右から左から来たものに対して、目を向ける余裕が無くなると思うんです。
――目標がないというのはすごいです。
僕は道、目標がないから言われたらすぐに振り返る事が出来るんです。ダメだったら帰れば良くて、行き始めたのだから行き切らなければとは思っていない。引き返したってその往復の道程も何かの糧になっているわけで。それが他の事に役立つかもしれないというぐらいの感覚にしておけば、死ぬまで楽しく、ワクワクを探し求めて行けるんじゃないかなと思います。
僕は99歳まで生きようと思っているので、あと約40年どんな自分に出会えるのかというワクワク感の方が強いです。明日になったら宇宙飛行士になる方向をまたさがし始めているかもしれません(笑)。
(おわり)
ライブ情報
横浜音祭りPresents 東儀秀樹『ヒチリキ・ラプソディ』スペシャル・イベント
9月28日(土) 13時~ 横浜・ランドマークプラザ1F サカタのタネ ガーデンスクエア