SIRUP「音楽は第三者の認識に訴えかける媒体」意識の源流に迫る
INTERVIEW

SIRUP「音楽は第三者の認識に訴えかける媒体」意識の源流に迫る


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:19年06月13日

読了時間:約16分

地に足つけて自然体で作るのが一番――。

SIRUP

――「Slow Dance feat.BIM」はBIMさんとのコラボレーションですね。交流は長いのでしょうか?

 『SIRUP EP』『SIRUP EP2』を出して、どんどん色んな共鳴をするアーティストと出会っていって、毎回そういう状態で曲を作っているんです。共鳴した人としか作っていないんです。BIMは『SIRUP EP2』を出す前後くらいに友達のつながりで、お互いにInstagramでダイレクトメールとかしてたんですけど、一回メシ行って「曲を作ろう」となった感じですね。僕もBIMのファンなので。彼も自分でトラックを作ったりするので、いわゆるラッパーというよりも音楽的にラップをしているイメージがあるというか。なおかつ自分と同じ感覚で作っている部分があるなと思っています。

――共鳴を大事にしたり、無意識の何かを音にしたり、SIRUPさんはそういった“見えない何か”をより大事に、音楽として出している方なのですね。

 音楽に全部出している人が好きかもしれないですね。フィーチャリングのTENDREとかもそうですけど、友達のバンドのリリースイベントに呼んでもらって3マンライブをやったときに初めて会ったんですけど、あまり多くを語らずに仲良くなった、みたいな。

――共鳴するものがあったのでしょうね。

 そうですね。それでコミュニケーションをとっていって「PLAY」を作ろうとなって。凄く自然に出来た曲ですね。

――音楽の聴き方も作り方も、自然に「いいもの」と感じたことを取りこぼさず、という点がスタンスとして共通していますね。

 自然に、というのは凄くそうです。地に足つけて自然体で作るのが一番です。

――その点は作品に出ていると感じます。無駄な小細工や狙った感がない、と言いますか。

 ないですね。やっぱり嘘をついたら…全員人間なので。友達に教えてもらったとある話なんですけど、あるピアニストが学生に授業していて「質問したい人」と言ったら生徒が「ベートーベンの何番についてどう思いますか?」と聞いたそうなんです。先生は、「刺激的な音というのは刺激的な音でしかなくて、それが曲の中に入っていても曲として統合されていなかったら『そこに刺激的な音があるだけ』であり、それは曲ではない」と言ったそうなんです。僕は言葉にできなかったけど、アルバムを作り終わったときに「このことだ」と思ったんです。それって物作りとか仕事とか、全ジャンルに当てはまる言葉だと思ったんです。

 小細工とかって、楽曲でも一つでもリリックが「これ、言いたかったんだろうな」「この単語使いたかったんだろうな」というのがあったらもう、引っかかって自然に聴けないですよね。結局、無意識に凸凹の「凸」ができるんですよ。それを無意識に聴いて、最初取っ付きで聴くと思うんですけど、それがその人の生活の中に入ったり、ずっと聴かれるかと言ったら、その「凸」が邪魔をしてそうはならないと思うんです。そいうのをできるだけ無くしていきたいという。だから韻とかも、あえて上手く綺麗に踏もうとは思っていないんです。全体の一部として考えるので、そこを綺麗にし過ぎると、「綺麗にし過ぎた感」が残るという…トータルで丸くなっていればいいと思うんです。

――確かにSIRUPさんの作品を通してそうなっていますね。「凸」があるとキャッチフレーズのようになってしまうんですよね。ベートーベンでいう「刺激」、ラップの「綺麗な韻や使いたい単語」など、変に尖った部分がある種コマーシャル的になってしまって全体像が崩れ、作品としては聴き続けられないというか。

 正にそうなんです。

――SIRUPさんの作品はワールドワイドな音像と感じます。日本語が入っていなければ一聴して邦楽と気付かないと言いますか。ミックスやマスタリングには立ち会うのでしょうか?

 ミックスはけっこう意識しています。基本的に立体感のあるように作りたいと。音数が少ないぶん、それぞれが役割を果さないと自分の理想のサウンドにならないので。

――それぞれのパートの仕事がよく聴こえるんですよね。

 メトロポリスというロンドンのスタジオのスチュアート・ホークスさんというエンジニアにマスタリングしてもらったので、今回は特にそれが出ているかもしれないです。

――今年はロック・フェス『SUMMER SONIC2019』に出演されますね。

 去年もフリーの会場で出演させて頂いたんですけど、今年はステージで出るといった感じですね。お客さんとしては、スティーヴィー・ワンダーが来たときに大阪で観ましたね。最高でした。号泣しましたよ…そのときに観に行ったメンバーで今年出させて頂くんです。いつも通り自然体でやろうと思っています。

――楽しみですね。自身初の全国ツアー「SIRUP『FEEL GOOD』TOUR 2019」についてですが、ソールドアウトに追加公演と大反響です。

 凄いなと思いました。こんな一気にという。CMの効果も凄いなと。

――HondaのCM曲にも起用された「Do Well」は、SIRUPさんにとってどんな存在でしょうか?

 『SIRUP EP』だったら「Synapse」が、そのときのSIRUPの技術的な技量とか、抽象的なSIRUPとしての表現・存在感を表すもので、それを更新したのが「Do Well」です。それで、それを更に更新したのが今作の「Pool」なんです。幻影というか、そういう曲です。「Synapse」も「Do Well」もそうだし、歌とラップが綺麗に両立しているもので、なおかつリリックも明確に言っていることはなくて、あくまで自分のなかで「こういうことを歌っている」という意識ははっきりあるんですけど、それは聴いてもらっている人が自分の思い通りに感じたらいいなと思っている状態の曲です。あまり説明できないですね。

――説明しない方がいいのでしょうね。

 そうですね。みんなが感じる通りに感じた方が絶対正解だと思うので。

――具体的に「こう」というイメージを固めるスタンスではないSIRUPさんの作品は、音との親和性がとても高いのでしょうね。

 音楽って言葉でも映像でも表せない、第三者の認識に訴えかける媒体というか、そういうものであって欲しいんです。だからあまり道標を出したくないなという気持ちはあります。それと同時に、言葉では言えないということもあります。

――そういったマインドがないと一聴して刺さるということはなかなかないと思うんです。改めて、SIRUP初のフルアルバム『FEEL GOOD』完成の心境はいかがでしょうか?

 作り終わった瞬間は、ギリギリだったので「なんとか間に合った!」というか…5曲くらい作れたらいいんじゃないと言っていたんですけど、結局普通に7曲できたという感じで。作り終わった後にいつも思うんですけど、次をやりたがってるんですよ。だからこれもふまえて今も曲を作っています。

(おわり)

作品情報

■SIRUP『FEEL GOOD』

収録曲
1. Pool
2. Do Well (Honda CM楽曲)
3. Why
4. Rain
5. Evergreen
6. Slow Dance feat.BIM
7. Synapse
8. CRAZY
9. PRAYER
10. SWIM
11. PLAY feat. TENDRE
12. LOOP

■SIRUP「FEEL GOOD」TOUR 2019

6月28日(金)大阪:梅田クラブクアトロ
6月30日(日)名古屋:JAMMIN'
7月5日(金) 福岡:FUKUOKA BEAT STATION
7月10日(水)札幌:KRAPS HALL
7月12日(金)仙台:LIVE HOUSE enn 2nd
7月18日(木)東京 : LIQUIDROOM

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