歌手の島津亜矢が3月20日、シングル「凛」をリリースした。昨年末に出演した『第69回NHK紅白歌合戦』で中島みゆきの「時代」をカバーし、お茶の間を沸かせた島津。その歌唱力の高さにホームページに多くのアクセスが集中し、サーバーがダウンするほど話題を集めた。“話題の歌姫”となった彼女の2019年初の音源は、これからの新時代へのエールとも受け取れる一曲で、力強さと清らかさ溢れる新緑のような、生き生きとした歌を響かせる。演歌も時代とともに届け方が変わってきていると話す島津に話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=木村陽仁】
ダメなところを聞きに行っていた幼少期
――幼少期は沢山のコンテストに出場されて賞を獲っていたとお聞きしました。
たくさん出てましたね。私は熊本県出身なんですけど、熊本は「のど自慢大会」がすごく盛んな地域だったと思います。平日でもあちこちで催されていたので、片っ端から出ていました。
――気軽に参加できる大会もあるのでしょうか。
事前に申し込んで参加するのがほとんどです。当時は新聞やテレビで募集がかかったりしていて、祖父母が全部チェックして応募してくれていました。
――参加すれば優勝してしまう感じですよね。
いえいえ、そんなこともなくて、ダメな時ももちろんありましたよ。その時は本当に悔しくて、嫌な子どもだと思うんですけど、審査員の方に私のどこがダメだったのか聞きに行っていました(笑)。
――今もそのような感覚があるのでしょうか。
流石にプロとして歌わせて頂くようになってからはないですね。身が持たないので(笑)。失敗をして反省はしますけど、もう「これはこれでしょうがない、次に活かしていこう」と切り替えています。
――自分のダメなところを知りたいという姿勢が、今の島津さんを作り上げているんですね。さて、過去のインタビューなどを拝見させていただいて、節目毎に歌への考え方や捉え方が変わってきていると感じました。
当時はキャンペーンをさせて頂けるところも沢山あって、デビューしてからの十数年はキャンペーンで、ほとんど家にいることもなかったんです。ただ無我夢中にがむしゃらに突っ走ってきて、15周年の時は「もう15年も経ったんだ」という感じでした。おそらく20年を過ぎた辺りで心にゆとりが出来て来たんだと思います。歌に関してもゆとりが出てくると、見えてくる世界も変わってきます。それが変わったところだったのかなと思います。でも、今が歌手になって1番楽しい時期です。
――ポップスなど様々な歌を歌うようになって、見えた世界も変わったのではないかと思います。
小さな頃からずっと演歌が大好きで、演歌歌手としてデビューして生きてきたので、自分の中で「演歌歌手とはこうあるべきだ」と決めつけていた部分もあって、演歌じゃない曲を歌う事に悩んだりしていた時もありました。でも、いつからかその考えを取っ払った時に、根底は演歌歌手なので、勿論そこに誇りはあるんですけど、色んな歌に挑戦させて頂けるチャンスは滅多にないので、とっても有り難い幸せな事なんだと思えました。演歌ではない歌を歌わせて頂くことで触れられる世界、見える世界が広がるというのは、歌手としてとても幸せな事なんです。演歌歌手に変わりはないんですけど、頂いたものに関してはしっかり努力して、やっていきたいと思っています。
――そのなかでマキタスポーツさんが島津さんのことを「歌怪獣」と形容されていましたが、聞いた時どう思われましたか。
怪獣って強そうですし、とても良い表現をして下さって嬉しかったです。この前NHKさんでも歌怪獣と紹介して下さったんですよ。今までそういった名前はなかったので、本当にマキタさんには感謝しています。
――すごくキャッチーですよね。ポップスを歌うようになられたのは、どなたからの案だったのでしょうか。
以前からコンサートではポップスも歌わせて頂いていて、「こういうのやってみたいよね」という話から生まれたものです。もともとポップスも大好きで、小さいころは母の車から色んなジャンルの音楽が流れて来ていたんです。北島三郎さんから井上陽水さん、さだまさしさんなど色々流れてました。なので、演歌とかポップスとかの隔たりはなかったと思います。
――ポップスを歌うことも自然な流れだったんですね。演歌とポップスというジャンルに関しては島津さんの中でシームレスだと思うのですが、歌としては捉え方は変わりますよね?
それがあまり意識をした事がないんです。演歌はコブシも回しますし、唸りも出ます。でも、「ポップスだからコブシを回さないようにしよう」とは考えてはいなくて。曲によって勝手に切り替わっているんだと思います。
――ちなみにカバーされる時は、オリジナル曲のどういったところをフォーカスしていますか。
シンプルに曲を覚えるだけなんです。素直に耳に入ってくるままを聴くようにしています。
――オリジナル曲を歌うのと変わらないんですね。選曲はどのように決められているのでしょうか。
事務所のスタッフの方とかに決めてもらいます。そのなかで私も「こんな曲が良いな」とか言うんですけど、基本的にはみんなで決めています。自分で選ぶ曲はもちろん自分が好きな歌になるんですけど、それだと聴いて頂くお客様が満足して頂けるかわからないですから。色んな方の意見が集まって出来るのが良いのかなと思います。
――『SINGER』シリーズはオリジナルとはまた違った、楽曲の新たな魅力を引き出していると思っていて、例えば「ルージュの伝言」も島津さんが軽快なグルーヴに乗って歌うのもすごく新鮮でした。
ありがとうございます。曲のリズムに乗って自然と歌ったらこんな感じになったんです。
――大体ワンテイクでレコーディングは終わりますか。
いえいえ、何回か歌わせて頂きます。と言いますか、何回も歌わされるんです(笑)。でも「木蘭の涙」はピアノと同録(同時録音)だったので一発勝負でした。吉田弥生さんという方がピアノを弾いてくれているんですけど、私は吉田さんのピアノが大好きなので、一発勝負の緊張感ということよりも、この空間に一緒にいれることが心地良いんです。私の先輩方の時代は同録が多かったと思うんですけど、別々に録るのとはやっぱり違いますよね。カラオケを流してレコーディングするのと違い、その場でお腹に「ぐん」と響く音と一緒にレコーディングをするので、同録は良いなと思います。
――空気感がすごく伝わってくる1曲でした。さて、1曲目はチャカ・カーンの「THROUGH THE FIRE」で洋楽ですが、日本の楽曲とは歌う姿勢が変わるんじゃないかなと思いました。
私は英語の発音が得意ではないので洋楽は難しいんですよね。そうだ! この曲は自分でハモも入れたこともあり、歌の本数も多かったので大変でした。その大変だった事も忘れてしまうくらい大変で(笑)。
――きっと常に新しい事に目を向けていらっしゃるからですね(笑)。
過去のことはどんどん忘れていきます。(記憶できる)容量が決まってるので(笑)。