自分を彩るための音楽――、小手伸也 音楽にも似た演劇の世界
INTERVIEW

自分を彩るための音楽――、小手伸也 音楽にも似た演劇の世界


記者:桂 伸也

撮影:

掲載:19年04月05日

読了時間:約13分

今回の舞台への取り組みは「音楽的」、十分な準備を行いつつ、真っさらな気持ちで

小手伸也

小手伸也

――この舞台ではどのような役作りをお考えでしょうか?

 今回の役ですが、まず本当に役名がない。僕の役は“医師”というポジションなんですが、そのポジション名でキャラクターが作られているということは、つまり作家からすると、それ以上のものを求めていないのかと。つまりその人の人生がどうということではなく、そのポジションとして物語に機能すればいい、主役の人たちを翻弄して動かしていくために必要なガジェットとして存在すればいい、と思っているんです。

 その意味では“医師”には“医師”という役割しか与えられていない、それ以外の情報が与えられないんだろうな、と思っています。ただその割には、結構人間的だったりするところもあって、こうした役は多分、演じる人によってイメージが変わるんだろうなとも思っています。

 この物語で僕の役は、構造的に考えると主演の2人を上から翻弄する側にあるんですが、物語が終盤に向かうにつれて、実は逆に医師のほうが翻弄されていたりする、という逆転現象が見られたり。だからそんな風な人間として演じたほうがきっと面白くなる、そんな人間性の部分を僕ならではという観点から任されているんだろう、という気がしています。

――演じる役について、ベースのイメージは何か作られているものがあるのでしょうか?

 いや、今のところはあまり固めないようにしています。この作品には、孕(はら)んでいるテーマや歴史的な背景、モデルとなっている国という様々な情報の上に、きわめて政治的な内容も含まれているように見えます。でもそういった、情報が作者にとってどの程度の重要性を帯びているのか、そのイメージは意外と煙に巻かれて見えない感じもするんです。

 この脚本は、どの部分に自分がチューニングを合わせるかによって、受ける印象が全然違うんですね。こんな本って初めてでして。最初に読んだときにはメッチャ難解で頭が痛くなったけど、別のタイミング、例えば午前中のファミレスでこれをふと読んだときに“こんなシンプルな話はあるのか?”というくらい、全部納得がいっちゃったりとかして(笑)。認識が個人の体調とか時間帯に左右されるくらいに、いろんな側面があります。

 単純なほど奥が深いのか? 逆に奥が深いからこそ単純に見えるのか? どちらが先になるのかはわからないけど、そんな奥深さを秘めている以上、こっちが何を用意したところで、何の対応にもならないと思うし、むしろ今回のカンパニーの中で、実際に血肉を与えるほかの俳優たちと、一緒にリアルな会話をしていく中で、そのライブ感みたいなもので面白くできるんじゃないかと思っています。

――では、稽古の中でお互いを作り上げていく、という感じで?

 そうですね。多分音楽的だと思います。オーケストラが入ってくるからこそ普通に音楽、その一方で役者がセッションをしていくことも、ある意味音楽的な側面にゆだねられているような感じで。もしかしたら、だからこそこの本となったのかもしれない、みたいな印象を受けています。

――ちなみに、こういった作品は、小手さんとしては得意なほうなのでしょうか?

 いや~、まあ翻訳劇自体が初めてなので。多分、得意か苦手はこれからわかるのかな、と思っています。ただ本質をライブに置くという風にするのであれば、意外に僕はそういうのは嫌いじゃなくて、むしろ好きなほうです。例えば1時間ほどエチュードやってくれとか言われても平気で楽しめたり、台本がなくても大丈夫みたいな(笑)、キャラクターさえ作っちゃえば、みたいな役の印象もあるので、もしかしたら楽しめるかもしれないとも思っています。

 ただ逆に「それ、間違っているよ」と言われることもたくさんありそうなので(笑)、そういうところはコンダクター、あ、指揮のヤニックさんじゃなくて演出のウィルさんですね、とコミュニケーションをとりながら、自分の音色を確定していきたいと思っています。そのためには自分の音色を先に決めていくよりは、変えてくれと言われて対応できるほうが、多分いいと思いますし。

――では、基本的に稽古場にはある意味、真っさらな気持ちでいかれると?

 そうですね。映像でも舞台でも、僕は大体いつも準備には時間を掛けるようにしているんです。ものすごくいろんな可能性を考えて、考え抜いた上に実際の現場でいったん全部忘れるようにしているので。

――練習していろんなパターンを作っておいて、その上でどこにでも臨機応変に対応できるようにと?

 僕はいったん作ったものは引き出しに入れるけど、それを机の上に出したままにして現場に行くようなことはしないようにしています。「俺はこれしかやれない」みたいなものは、一番ニーズに応えられないことだと思いますし。

小手伸也

小手伸也

この記事の写真
小手伸也
小手伸也
小手伸也
小手伸也
小手伸也
小手伸也

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事