浜田麻里「次の人に繋がるものをしっかり残したい」デビュー35周年の矜持

今でも『麻里ちゃんはヘビーメタル。』

――オリジナルアルバムは23枚。全部に思い入れがあると思いますが、大変だった作品はありますか？

　制作作業はいつも大変ですが、気持ち的に大変だったことはほとんどなくて（笑）。オリジナルアルバムのカウントからは外れますが、アカペラの多重録音で、ひとりで籠って作った1枚は根気が要りました。1989年のバラードベスト『Sincerely』の1曲目「In the Precious Age (Re-recording)」もそうですが、バックに流れるサウンドも声で作っていて、それこそ50〜100もの声を積み重ねています。自分としても印象的ですね。

――レコーディング手法などは、どうやって？

　もともと私はスタジオシンガーでしたので、アカペラの多重録音のお仕事もいくつかあって、基本はその経験が活きています。その上で、海外のアーティストのレコーディングの方法など、ミュージシャンやエンジニアと、常にさまざまな情報交換をしていました。例えば、「エンヤさんの歌の録音はこんな手法だと思う」と、いうような情報交換です。他にもコクトーツインズなどのように、何語でもない架空の言葉で歌って聴く人に感動を与えるのも、極論ですけど、そういうところまでいけたら面白いなと思っていました。その気持ちは、今もあります。

――何かのきっかけになった作品を挙げると？

　あえて挙げるなら、7thアルバム『IN THE PRECIOUS AGE』ですね。今回のベスト盤には、このアルバムからの曲は収録されていないのですが…関わるスタッフが全てアメリカ人になったので、その作品が転機になったと言えます。

　ただ、“ヘヴィメタル・クイーン”と呼ばれていた自分に対する誇りは、そのポップな時代でも持っていましたので、アルバム収録曲としてそれを匂わせる曲をやっていました。そういう一貫したものは、35年を通してあったと思います。

――1983年のデビューのときにコピーライターの糸井重里さんが、『麻里ちゃんはヘビーメタル。』というキャッチコピーをつけました。当時は、このコピーをどう思っていましたか？

　私は直接面識があったわけではなかったのですが、当時の担当者が糸井さんと仲良しだったので、付けていただくことになりました。とても有名で人気が高まっていたコピーライターさんだったので、純粋にうれしかったです。確かに「ジャンルを限定されるのはどうなのだろう？」と思いましたけど、私が新しいタイプのシンガーとして世に出たいと思っていたのは事実でしたので、シンボリックだなと思いました。ですので、不満はまったくありませんでした。ただ、「麻里ちゃん」という言葉から、アイドル的な売り方が想像されて、最初にあのコピーを見たときは、正直ビックリしましたけど（笑）。

――さすが糸井さんといったところでしょうか。

　ヘヴィメタルではなく、“ヘビー”メタルですからね。それに『麻里ちゃんはヘビーメタル。』と、「。」が付くんです。その後にモーニング娘。さんであるとか、「。」を付けるのが流行ったことを考えると、糸井さんのセンスは十何年も先を行っていたことがわります。

――今は、麻里ちゃんとお呼びするのは恐縮しますが、結果として現在も『麻里ちゃんはヘビーメタル。』であることに変わりがないのは、すごいことだと思います。

　そのまま何も変わらず生きてきています。当時のロックシンガーは不良性をともない、女性であっても“いかつい”のが当たり前でしたが、私のように女性ロッカーがいかつくなく世に出るのは、今では普通になりました。私のころは、そういった売り方が新しかったので、偏見を持たれてしまうことが多々あって大変なこともありました。

――色眼鏡で見られてしまったわけですね。

　先輩方にしてみれば、ミニスカートの可愛い系の衣裳でハードロックを歌うことが、あり得ないことだったと思います。「あなたはヘヴィメタルと言っておきながら、何でそんな可愛い格好をしてるの？」と。ラジオや雑誌でも、こてんぱんに言われました。

――でも、どんなに言われても、「もう辞めてしまおう」という気持ちにはならなかったわけですね。

　今にいたってもまだこういうハードな音楽をやっているところにも表れていると思いますが、やはり負けん気が強かったんです。壁があればあるほど頑張るタイプと言うか、苦しさを何とかして乗り越えてやろうと思ってしまう性格です。それがあったから、やってこられたと思います。