1月27日、アイドルグループ・嵐が2020年末をもって活動休止することを発表した。2月を迎えた現在でも、活動休止発表に対し「まだ信じられない」「実感が湧かない」といったファンの声が多い一方で、「前向きに受け入れられている」といった声も意外と多いのが印象的だ。

 おそらくその理由は、メンバー自身の口から前向きな理由による休止であることがはっきりと語られた点、そして活動休止までの間に、約二年の猶予期間を設けた点が挙げられる。

 27日夜におこなわれた記者会見中、記者から「無責任という指摘もある」と厳しい質問を受けた櫻井翔が、「無責任かというご指摘に関しましては、我々からの誠意は2年近くかけて感謝の思いを伝えていく期間を設定した。これは我々の誠意です」と毅然とした態度で回答した一幕があった。この時の櫻井の言葉からもわかるように、常にファンを第一に考え、その思いを受け止め、そしてファンに恩返しをしてから休業に入りたいという、メンバーの強く優しい想いを感じる判断だった。

 また、活動休止の理由がリーダー大野智の「違う世界が見てみたい」という気持ちがきっかけだったことに関して、二宮和也が「もしリーダーが悪者に見えるのであれば、それは我々の力不足です」と言い切った点も印象的だった。「仲が悪くなったわけではないのか」といった内容の質問に対する相葉雅紀の「ウソでも(ケンカ)しておけばよかったな~」というおどけた回答からもまた、意思疎通のすれ違いなどではなく、お互いの気持ちを尊重し合ったがゆえの、仲がいいグループだからこそ導き出した決断であることが伝わってくる。

 何より、「5人で続ける」「でも個人の人生を曲げてまで続けることではない」という、メンバー内に共通する想いを全て汲み取るような結論を導き出した点が、とても嵐らしく、そして大人として正しい決断だったように思える。

 何より印象深かったのが、メンバー全員が「5人でなければ嵐じゃない」といった意味合いの言葉を口にしていた点だ。会見中にもメンバーに関して櫻井の口から「中学の頃に出会って、23、4年一緒にいる大切な仲間です」と語られたが、5人で過ごした年月こそが、彼らにとってもっとも大切なものだったのだろう。

 記者の「大野さんにとって嵐とは何ですか」との質問に対し、大野は「言葉が難しいんですよね、これ。宝物の何物でもないというか」「永遠に輝き続けるもの」と答えていたが、彼らの関係性は、きっとメンバーの誰にも名前がつけられないものなのだろう。敢えて別の名前で呼ぶのであれば、それは“青春”そのもの、なのかもしれない。

 嵐の人気曲といえば『Love so sweet』のような甘いラブソングを思い浮かべる人も多いだろうが、ファンの間で根強い人気を誇る楽曲の中には、「友情」「青春」を描いた楽曲も多い。『素晴らしき世界』『Still…』『ワイルド アット ハート』『PIKA★★NCHI DOUBLE』『僕が僕のすべて』……挙げればきりがないが、これらの楽曲の最大の魅力は、青春の儚さと美しさを描き出した、朴訥で素朴な歌詞だ。

 国民的人気を誇るスーパーアイドルの姿からは想像がつかないほどに素朴な歌詞の楽曲も多いが、そんな楽曲たちから強い説得力を感じるのは、嵐自身が紛れもなく今まで20年以上もの間、青春を体現し続けてきたからだろう。

 今回の決断の根本にあるのも、大切なメンバーの意思を互いに尊重し合いたい、いつまでも嵐と言う“青春”を生きていたいという、5人の切実な想いなのではないだろうか。

 青春は永遠の存在ではなく、いつか終わりが来るものだ。“永遠”というものを、ファンやリスナーが、生身の人間である嵐に託すのは難しいのかもしれない。実際、松本潤は嵐の現状や未来を考えた上で、「自分たちがいい形の状態でグループを閉めるということを実際考えたこともあった」とも語っている。

 青春は一瞬で終わってしまう。しかし、嵐の楽曲を聴いていると、いつだってまた青春を始めてもいい、とも思えてくるのが不思議だ。

 『ワイルド アット ハート』の歌詞にこのようなフレーズがある

 <背負い込み過ぎたら捨ててゆこうぜ/明日は明日の風にまかせ/何が起こるか誰にも分からない/今を生きるだけさLet’s Go>

 どんなにかけがえのない青春であったとしても、続けるためには一度ピリオドを打つことも大事なことなのだろう。背負い込みすぎたものは捨てながら、明日の風に身を任せて生きていくことも時には必要だ。嵐はそんな優しいメッセージを、メンバー自身が身をもって示してくれたのだ。

 今度は彼らから受け取った優しいメッセージを、私たちリスナーが5人に返す番だ。活動休止まで残り約二年間、そしてその先にいつか訪れるであろう復活の日まで。今を全力で生きる覚悟を決めた嵐の5人の活躍から、目が離せない。【五十嵐 文章】

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