スカート・澤部渡「人それぞれの感性が決めるもの」ポップスにこだわる理由
INTERVIEW

スカート・澤部渡「人それぞれの感性が決めるもの」ポップスにこだわる理由


記者:村上順一

撮影:

掲載:19年01月24日

読了時間:約12分

ポップというのはそれぞれの感性

――手に取れる物としては無くならないで欲しいですよね。さて、昨年はどのような1年でしたか。

 頼まれて作る制作が多くて、自分の制作があまり出来なかったんですけど、逆に頼まれて作る仕事をすればするほど、自分が何をやったら良いのかというのが見えた年でもあったので、すごく楽しい1年でした。

――今回も映画の主題歌ということで、頼まれての制作になったと思うのですが、通常の制作と違って大変なところはどこになりますか。

 僕の中では尺です。何分の尺で欲しいというリクエストがあるんですけど、そこが通常の制作とは違うところでもあります。

――今作「君がいるなら」は4分ちょっとありますが、澤部さんは3分ほどの曲が多くて、そこはこだわりでもあるんですよね。

 そうなんです。基本的にはあまり長くないほうが良いと僕は思っていて。4分を超えても、同じことを繰り返しているなと思わせないように、最初から最後まで聴かせたいと思っていました。長いと感じさせないように作るのが大変なんです。でも、それが今回上手く出来たなと思っています。

――曲作りについてもう少し詳しくお聞きしたいのですが、ギターで作ることが多いのでしょうか。

 ギターが多いですけど、ピアノで作ることもあって、そこはまちまちです。詞から出来ることもあります。基本的にはギターを弾いて、そこからメロディーが出て来るパターンが多いです。でも、コード進行にメロディーを当てたりするのは、ほとんどやったことないですね。最初に鳴らしたコードからメロディーが出てくる感じに近いです。

――その中でお聞きしたかったことがありまして、お好きなコードはありますか。

 沢山あるんですけど、オンコード(分数コード)とか好きですね。今はマイナーシックスの響きが気に入っています。今作でもカップリングの「花束にかえて」で使っています。

――澤部さんの今の趣向が盛り込まれた曲なんですね。さて、「君がいるなら」は映画『そらのレストラン』の主題歌ですが、作品のどこをフォーカスしようと思ったのでしょうか。

 今回は監督さんの方から、打ち合わせの段階でリクエストがありまして、この映画が終わってもそれぞれの生活が続くというものを、エンドロールでも見せたいというのがあったんです。そのテーマを最後まで持ちながら制作していきました。

――そのテーマに寄り添った歌詞になったわけですね。作詞はどういった環境で書くことが多いですか。

 普段から思いついた言葉をスマホにメモったりしています。今はそれを持って深夜にファミレスに行ったりして、朝までに一気に書き上げます。前は自宅で書いていたんですけど、最近は外に出ることが多いです。

――気分が変わりますよね。

 それもありますけど、単にキレイな机で作業したいということなんです。自宅の机は機材などもあって片付いていなくて(笑)。

――そうだったんですね。澤部さんが作詞をするにあたって気を付けていることはありますか。

 直接的にならないようにすることや、母音は気にしています。メロディの気持ち良さに合わせて、可能ならば母音を「あ」や「お」にしてみるという感じです。

――場合によっては言葉の意味よりも響きを重視することもありますか。

 意味的にはこっちの方がいいんだけど、母音が「い」じゃなあ…みたいことはあります。でも、逆パターンもあります。響きは良いんだけど、意味を重視したいとか。結局はどちらもあります(笑)。それもあって作詞はけっこう時間がかかりますね。

――「君がいるなら」に出てくる<眠れない夜にはしごをかけて 風もない春に寄り添う>とか、ファンタジックな感じもあって、色々想像させてくれます。

 こういうところは、漫画からの影響が強く出ている部分かもしれないです。その情景を上手く詞に落とせないかなと考えています。今回は映画があったので、そこを参照していたと思います。

――作詞していて、自分からこんな言葉が出てくるんだと驚く時もありますか。

 「君がいるなら」では、結構ありました。例えば<歩いてゆける>という確信的な言い回しは、今までの自分だったら敢えて使わなかった言葉だと思います。

――さて、「君がいるなら」は澤部さんの新しい扉を開いたとお聞きしたのですが、完成して今改めて聴くとご自身の中での印象は変わりましたか。

 作りたての頃は戸惑いもありました。自分だけの作品だったら、良い意味でこういう歌詞にはしなかったと思います。ライブでやっている時も、歌っているんだけど歌いきれていないなと感じた時期もあったんですけど、それがだんだんクリアになっていきました。

――自分の作品に対して、こうでなきゃいけないみたいなものってありますか。

 自分はこうじゃなければダメだというのは特にないと思います。強いて上げるなら尺は短い方が好きだということと、ポップであれば良いんです。

――その中で澤部さんのポップの定義というのはどんなものですか。

 僕の中では感覚的なものでしかないんですけど、ポップというのは人それぞれの感性が決めているものだと思います。ちょっと難しいんですけど、なぜ僕がロックをやらないのかというところにも繋がることで、僕の場合はロックアーティストのように主張したい事がないんです。それもあってポップスというところに落ち着いているんだと思っています。うーん、定義は難しいですね…。

――澤部さんは過去にロックバンドもやられていましたよね。それも関係されてます?

 そうなんです。その時の自分に嫌気がさしたというのもありまして…。

――そこから音大に入学されて、音楽をより深く勉強していったんですね。

 劣等生でしたけどね(笑)。結構自由にやらせてくれる学校だったので、色んなものをちょっとずつ摘まんでいて。

――伸び伸び勉強出来たんですよね?

 そうですね。でも、モノにならなかったという両親への申し訳なさもありますけど。

――でも、メジャーで音楽活動されて、親孝行出来ていると思いますよ。

 いやいや、僕は孫の顔を見せられたら親孝行だと思っています(笑)。普通に就職して親に仕送り送るといった、当たり前のことが全然出来ていないので。ミュージシャンは不安定な職業なので大変です。

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