スカート「自分と作品との距離を考えていた」CDデビュー10年を振り返る
INTERVIEW

スカート「自分と作品との距離を考えていた」CDデビュー10年を振り返る


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年03月19日

読了時間:約9分

 澤部渡のソロプロジェクトであるスカートが3月18日、Double A Side Single『駆ける/標識の影・鉄塔の影』をリリース。CDデビュー10周年イヤーに突入したスカート。「駆ける」は『第96回箱根駅伝用オリジナルCM』年始特別バージョンテーマソングとして書き下ろされたナンバーで、2曲目の「標識の影・鉄塔の影」はテレビ東京ドラマ25『絶メシロード』のエンディング曲として作られた。インタビューでは「粛々としたドラマだった」と話すこの10年間を振り返ってもらい、今作の制作でこだわったところなど話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

自分と作品との距離をよく考えていた

澤部渡

――昨年のライブで澤部さんがやられているような音楽は「絶滅危惧種」だとお話していたのが印象的でした。

 世の中が僕らがやっているような音楽を必要としなくなって来ていると感じています。そういう意味で絶滅危惧種という言い方をしたんだと思います。それは街で流れている音楽とかを聴いていても感じてしまいますし、それは、ムードとか音楽に限らず、他のジャンルでもあると思っていて。

――その中で心に寄り添う、寄り添わないというお話もしていて、そこも大きく関係しているのかなと思いました。

 特に今は寄り添っている音楽の方が求められている気がします。

――澤部さんの音楽はもっと大きなところ、生活自体に寄り添っているような感覚があって、どこか洋楽的なニュアンスもあるんですが、邦楽と洋楽ではどちらの方が聴く頻度は多いですか。

 割と半々ぐらいで聴いている感じはあるんですけど、量で言ったら洋楽の方が多いかも知れないです。

――サウンド面では洋楽を参考にする事も?

 曲によって変わります。曲によってはカーネーションのようなドラムとか、この曲はエミット・ローズ(米・音楽家)のような感じが良いなとか。なので一概に洋楽からという感じでもないです。でも、必ずしもそれと同じ事をやりたいわけではなく、イメージだけなんですけど。

―― CDデビュー10周年イヤーに突入されましたが、この10年間を振り返るといかがでしたか。

 う〜ん、そんなに大きなドラマはなくて、粛々としたドラマはありましたけど。

――とはいえターニングポイントはありますよね?

 それはあります。アルバムで言ったら『エス・オー・エス』と『CALL』は特に大事なアルバムで、状況を変えたのは『ストーリー』です。

――状況が変わったというのは?

 単純に売れたんです(笑)。

――それは重要ですね。プロモーションの仕方を変えたんですか。

 いえ、何にもしないで3000枚ぐらい売れたので驚きましたね。ミュージックビデオすらもYouTubeにあげていなかったので。

――確か『エス・オー・エス』は初回ロット500枚でしたよね。そこに100枚ぐらいのレコード店からのオーダーが入っていて。

 そうなんです。その時は「スカートって誰だ?」という感じもあったので、100枚もお店からオーダーが入ったのは嬉しかったですよ。そこから500枚も割とすぐになくなりましたから。注文書を書いたり、商品の梱包まで何から何まで一人でやっていたので、その頃は自分と作品との距離みたいなものをよく考えていました。でも、『エス・オー・エス』と『ストーリー』は今でも自分で作って出荷してますけど(笑)。

――澤部さん家から発送されると。

 そうなんです。ジャケットも凝っていて、作業しやすいように長方形の紙を折りたたんで、そこにCDを入れているんです。それを自分でやると、業者に頼むより10円くらい安くなる。枚数が出るとそれもバカにならないので、経費もすごく考えてCDを作ってましたから。

――次のターニングポイントは?

 今の事務所であるカクバリズムに入ったことです。これも自分の中ではけっこう大きな出来事でした。『ひみつ』『サイダーの庭』とアルバムを作っていく中で、もう一人では出来ないなと思ったんです。曲を作っても自分の枠から出られない、それに悩んでいました。それでカクバリズムの角張さんに相談していたら「ウチからアナログ盤を出してみない?」と言ってくれて。それで『シリウス』をリリースして『CALL』に繋がったんです。

――そこで枠から飛び出す事が出来て?

 いえ、まだその時はきっかけを掴んだくらいですね。

――さて、メジャーデビューして3年目に突入しましたが、メジャーでの活動はイメージしていた通り?

 想像を超えていたところとイメージ通りだったところがあります。一番大きかったのはプロモーションだと思います。それがあると聴いている人の顔が見えて実感出来るのは、自分にとってすごく大きな事です。自宅で梱包していた時は「一体誰が聴いているんだ」と思いながらも作業していたわけで(笑)。地方にインストアイベントに行くと、ここにもこんなに僕の音楽を聴いてくれている人がいるんだとわかって、モチベーションに繋がりますから。

サビを一回しか登場させない

澤部渡

――さて、今作はDouble A Side Singleですが、初めてですよね。

 初めてです。自分のキャリアの中で両A面のシングルが出せるなんて想像してませんでした。

――今作を聴かせて頂いて、2曲ともすごくわびさびを感じられました。アレンジでも「駆ける」のピアノが入ってくるタイミングとかグッときました。

 ピアノの佐藤(優介)くんと話して、どこからピアノが入るのが効果的かというの話し合って。「やっぱりサビからでしょう」みたいなのはあったんですけど、バンドでリハーサルをしている時に2番での休符のことを佐藤くんが忘れて弾いていて、それがすごく良かった。そこから単音で何か出来ないかと相談して今の完成形に至りました。

 そういうアクシデントが時々反映される事があるんです。僕が作っていくのは大枠なので、細かいところは皆さんにお任せしています。どうしてもここはというところはリクエストする事もあります。

――それがその曲の核の部分だったり?

 それが、全然どうでも良いところだったりするんです(笑)。個人的なこだわりでそんなに重要ではないんですけど、それをやっているときが実は楽しかったりします。

――「駆ける」は『第96回箱根駅伝用オリジナルCM』のタイアップですが、どのようなオーダーがあったのでしょうか。

 駅伝を主軸とした男女のストーリーがあるとのことで、駅伝というよりもストーリーに寄り添って欲しいというお話でした。最初は映像の展開に合わせて、曲も展開して欲しいというリクエストがありました。それは結果的にはやらなかったんですけど、当初そこは悩みましたね。イントロは何秒で、とか考えながら作っていましたから。

――今までとは変わったことはありますか。

 すごく微細な部分なんですけど、サビを一回しか登場させないというのは、途中で決めました。この曲の構成はAメロ→サビ→2A→Cメロという感じで終わっていくんです。これは僕の中では新しいです。

――歌詞もめちゃくちゃコンパクトですよね。

 でも、しっかり3分半はあるんです。もともと尺も決まっていた中で、上手くできたんじゃないかなと思います。最初は尺を気にしないで作ったんですけど、迷いもなくスムーズに出来て。

――タイトルは最初に考えたんですか。

 めちゃくちゃ悩みに悩んで最後につけました。結局、紆余曲折して最初に思いついた「駆ける」になったんですけど。

――歌のレコーディングはどのような事を意識して歌いましたか。

 割と考え込むよりも、その曲に合わせて自然体でいつも歌っています。スカートはセルフプロデュースなんですけど、歌のディレクションはエンジニアの葛西(敏彦)さんにしてもらっています。自分で歌を客観視するのはすごく難しいんです。やっと最近自分で良いと思ったものと、客観的に聴いてもらって良いものの差異がなくなってきたんですけど。

――スタジオ録音でもライブ感というのは意識されていますか。ライブのような空気感を今作から感じたのですが。

 ライブと同じ編成でレコーディングしてますけど、けっこう別物として僕は捉えています。レコードありきで考えている部分はありますが、昨年の『トワイライト』のリリースを受けてのツアーにかなり手応えがあって、それが自然と出てきているのかもしれないです。

――「駆ける」の途中でドラムのカウントが入っていて、それがライブっぽいなと思いまして。

 あれは、ライブ感というよりは作曲の一部という感じなんです。シンバルをミュートする奏法の関係でリアルタイムでドラマーがカウントを入れるのは難しいと判断したので、レコーディングでは別録りしました。ライブではパーカッションの人にやってもらっています。

情景に寄り添った歌詞にしたい

『駆ける/標識の影・鉄塔の影』ジャケ写

――「標識の影・鉄塔の影」はテレビ東京ドラマ25『絶メシロード』のエンディング曲として流れていますが、すごく情景が見える歌詞です。

 ありがとうございます。抽象的なんですけど、情景に寄り添った歌詞にしたいと思いました。

――<遮音壁>という言葉ひとつで高速道路を走っているのが思い浮かびます。なかなかこの言葉を歌詞で使うのは難しいだろうなと感じました。

 確かにあまり使わないですよね。高速道路という事を考えていた時に遮音壁というのは、そこにある独特のカルチャーだと思って、この言葉が思いついた時は「やった!」と思いました。

――「標識の影・鉄塔の影」というタイトルにはどのような想いが込められているのでしょうか。

 やっぱり歌詞にある<標識の影や鉄塔の影踏み越え 急ぐ理由なんてあるかな>という部分がすごく気に入っているというのがあります。あと、中黒(・)が入ることで記号的にも見えて面白いなと思ったり。この曲の制作時には映像がまだなくて台本だけ読ませて頂いて作ったのですが、完成した映像を観て安心しました。

――この曲で大変だったところは?

 この曲もけっこうスケジュールがタイトでした。最初テレビサイズの1分の尺で作って欲しいとオファーを頂いて、そのヴァージョンを納品した後にフル尺を作るのが大変でした。歌詞がすごく難しくて、1分の尺で完成してしまっているので、2番以降が大変なんです。けっこう時間は掛かったと思います。

――ドラマ『絶メシロード』を観て、どんな印象を持ちましたか。

 『絶メシロード』は金曜の深夜に放送されていることもあって、録画ではなくリアルタイムで観たいドラマだと思いました。1週間の仕事を終えて観るのに気持ち良いドラマです。

――週末に澤部さんの曲と声がすごくレイドバックさせてくれますよね。さて、今作はどのようなシングルになったと感じていますか。

 両極端な曲が収まったシングルになったと思っていて、ボーナストラックとしてライブ版も入っているので、作品としてこの佇まいは気に入っています。表題の2曲にプラスしてライブテイクが入ることで方々に散らばった感じがあって、すごく好きなんです。ライブ音源は年代も演奏形態も異なるので、その時にしかない音になっています。

――全部で9曲入っているのでかなりお得ですよね。ジャケットも印象的ですが、どなたが描かれているのでしょうか。

 mitaniさんという若いクリエイターさんに描いて頂きました。アートディレクターの森(敬太)さんに紹介して頂いて、オファーさせて頂きました。音を聴いてもらって、そこからのイメージで仕上げてもらったんですけど、「駆ける」のイメージが強く出たジャケットになっています。

――最後に2020年のスカートの展望、チャレンジしたいことなど教えて下さい。

 10周年イヤーということで、旧譜の再録とか色々用意させて頂いています。僕はここまで大きなチャレンジはしてこなかったので、いつも通り粛々と活動していくと思います(笑)。でも、今年は10周年を掲げて活動していきますので、楽しみにしていて下さい。

(おわり)

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