大友良英氏「いだてん」音楽は規模感が違う、大河史上最大トラック 制作裏側
INTERVIEW

大友良英氏「いだてん」音楽は規模感が違う、大河史上最大トラック 制作裏側


記者:木村武雄

撮影:

掲載:19年01月05日

読了時間:約10分

テーマは「痛快」、きっかけはブラジルサンバ

――どのようなイメージで作られましたか?

 最初に打合わせしたのは2017年の夏。その段階ではまだどうなるかは分からなくて、話を聞いていくうちに、これは人がたくさん出てくるぞと。『あまちゃん』は狭い範囲でごちゃごちゃと色んな人が出てきていましたが、今回の大河ドラマはそれが世界規模。人がいっぱいごちゃごちゃは変わらないけど、規模感は違う。ですので、一つは、規模が大きなものを作ろうと。それが一番大きかったですね。

 最初の段階で、大河ドラマと朝ドラの違いは何だろうと考えていたんですが、その答えは「規模」ではないかと。朝ドラは物事が起きている、その内側で作っていたんですけど、ちょっと引いて地球儀を見る感覚で作ると大河っぽくなるなと勝手に感じました。ただ、それですと、別に僕が作らなくてもいい。では、僕っぽく作るにはどうすれば良いんだろうと考えた時に、ものすごく人を呼ぶんだけど、ちゃんと一人ひとりの顔が見えるようにしたいと思いまして。

 一概には言えませんが、ドラマの音楽は通常一人ひとりの顔が見えない音楽が多いと思います。それもそのはずでそういうふうに作っているから。でも今回はそうではなくて、よく見ると一人ひとりの個性的な顔が見えるような音楽にしたいと思いました。

 少なくとも物語の前半は、主人公がずっと走っているので、そういうずっと走っているような音楽にしようと思いました。大河のテーマ音楽は、華やかに始まって真ん中は良い雰囲気の滑らかな感じで泣けて、そして、最後に頭にあったメロディが再び出てきて終わるというパターン。でも今回はそれをなくしてずっと走っているような音楽。途中のゆったりシーンがない、ずっと華やかな感じですね。ずっと走っているとすごくたくさんの人の顔が見えてくる。1964年の東京オリンピックに向かってどんどん参加する人が増えていく、そういう音楽を作ろうと思いました。

――オープニングでは多彩な楽器が使われ、疾走感も出ています。

 音の数で言ったらすごい数だと思いますよ。歌を入れたトラックの数は最大で700トラック。演奏人数は百数十人でしたけど、演奏した方にも歌ってもらいましたから、それを延べで数えると300人近くになります。本当は1000人を目指していたけど、スタジオに入れないし、エンジニアの方が「マイクないですから」と(笑)。数を競うわけではないですけど、大河史上最大のトラックだと思います。

 N響だけでも80数人。とにかく色んな顔を入れたかった。クラシックだけでなく、ポップスの人も、一般の人も、アマチュアから玄人まで入れたかった。N響だけではできないし、ポップスの人だけでも、アマチュアだけでもできなない、そういうものにしたかった。最大限に声が入っているのは最後の方。地声で歌ってくださいと、その場にいる人に次々と呼び込んで歌ってもらいました。

――熊本県にある金栗四三氏の生家などにも足を運ばれたようですが、なにかインスピレーションはありましたか。

 最初に行ったのは金栗さんの生家。山奥で緑に溢れていてびっくりしました。今から100年前だから今
以上に緑が深かったと思うんですよ。なので、田園が広がるような田舎の長閑なイメージの音楽よりも、野生的な方が良いかなと。それが最初の印象。金栗さんがいたあたりや学校などを、資料を読んだ上で写真をみながら確認しました。でも、金栗さんの過ごした東京は何度も焼けているから痕跡がないんですよね。なのでそのたりは脳内イメージを最大限に膨らませました。

 それと、演出の井上剛さんが、「痛快なものにしたい」と言っておられた。それも反映しています。

 物語の舞台が五輪ですから、閉じた話ではないとも思っていました。これは僕の強みですが、世界中に行っているのでストックがたくさんあるんですよ。それを使いたいなと。その話があった後に、中南米を1カ月半旅していたので、その要素は凄く入っていますね。中南米の音楽の面白いところは、多くの人数でのアンサンブル。ブラジルは特に何百人規模。それを実際に見て痛快だった。

 ただ、ブラジルの今のサンバはアスリートっぽいんですよね。ものすごく筋肉質で、音量も大きくなって、(リズムが)速いという方向にもなっている。その方向だと今のオリンピックに近い。でも今回の大河は今のオリンピックじゃない。エリートだけの祭典ではなくて、もっと素朴にいろんな国(と地域)の人が集まっているような祭典だと思っているので、サンバでも今の形の、どんどんアスリート化していくサンバではなくて、50年代60年代のサンバ。当時のサンバはもっと面白い。ばらけていて、のんびりしていて、だけど人が多い。酔っぱらいのダメおやじもいれば、綺麗なお姉さんもいて。ああいう世界観を参考にしました。

 今回の大河も、五輪に出るアスリートの話だけではなくて、五代目古今亭志ん生(ビートたけし)さんも出てくる。アスリートの脇にいて並走して、飲んだくれて、博打に手を出して師匠の服を質に入れて怒られているような若い頃も描かれている。その両方が入っていないとだめだと思いました。だから南米に行ったときに、それが鮮やかに見えてきた。帰ってきて、比較的すぐにできたかな。

NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリマラソンムピック噺(ばなし)〜』(C)NHK

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