清塚信也「前提を持つと聴こえ方が変わってくる」クラシックをみずみずしく聴く方法
INTERVIEW

清塚信也「前提を持つと聴こえ方が変わってくる」クラシックをみずみずしく聴く方法


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年12月12日

読了時間:約16分

劇伴作家が必要なのは音楽スキルよりも前に洞察力

清塚信也(撮影=冨田味我)

――今作にはボーナストラックとして3曲収録されていますが、「Etude No.1 “Dessin”」は練習曲という意味ですよね?

 そうです。この曲はレコーディングスタジオでその場で作りました。ピアノって聴くのもいいけど、習い事などで弾かれる方も多いと思います。ピアノを弾く方たちが練習にもなって、曲のレパートリーとしても加えられる曲というのがあまりないなと思いました。エチュードはショパンやリストも作っているんですけど、難し過ぎるんです。曲は格好良くて憧れるんですけどね。それ以前には「チェルニー」や「ハノン」もありましたけど、つまんないんですよ(笑)。レパートリーとしては微妙で、現代人にあったエチュードがないなと感じていたので、提供できたらなと思って作りました。

――私のような素人がピアノを始めるのにも最適でしょうか。一聴すると難しそうにも聴こえますが…。

 基本的なテクニックしか使っていないのに、最終的には難しそうなことをやっているように聴こえるように作ってあるので、取っ掛かりとしても良いと思います。やっぱりこの曲弾けるようになりたいなと思えないと、練習ってはかどらないと思うので。

――「Etude No.1 “Dessin”」タイトルにDessin(デッサン)と入っていますが、この意図は?

 今、「ムンク展」が日本で開催されてて、そのテーマ曲に選んで頂けまして、それで付けたんですけど、余計なことをしない、肉付けをしないというのをコンセプトに作った曲でもあるので、Dessinという言葉がぴったりだなと。

――ちなみに練習用の楽譜はあったりするのでしょうか。

 これも声が上がれば楽譜も制作したいなと思っています。

――これは皆さん欲しがると思います。さて、松任谷由実さんの「春よ、来い」も収録されていますが、この曲に関しては清塚さんはどのようなイメージで弾こうと思いましたか。『ファンタジー・オン・アイス2018』で羽生結弦選手とともに完成させたことでも話題になりましたが。

 ユーミンさんの歌からは敢えて外れて行こうかなと思いました。歌から枝分かれしてアレンジされた別の一曲という感じです。ピアノ曲として消化したいと思いました。あと、羽生結弦選手がアレンジの相談に乗ってくれました。かなり具体的にこうしたいというのを話してくれました。羽生選手の演技とリンクさせなければいけなかったので、そこを擦り合わせていったという感じです。

――では、時間を掛けてアレンジしていった感じですか。

 やり取り自体は多かったのですが、羽生選手のオーダーが的確だったので作業はスムーズでした。

――こういったインタビューでお話しを聞いていると、音楽家じゃない方からの要望というのは、意図を組むのが難しいというお話も聞きます。

 まだ撮影されていない、もしくは台本もない時から曲を作ることもあるので、そういうのは結構多いですよ。特に劇伴系での仕事でプロデューサーやディレクターの方の要望は難しい時もあります。そこで、劇伴作家が必要なのは音楽スキルよりも前に洞察力なんです。プロデューサー達がどんなものを求めているのかというのを、コミュニケーションを取りながら探っていくわけです。

――最後にリスナーの方にメッセージをお願いします。

 インタビューやコンサート、テレビ含めストーリーを感じて頂けたほうが、音楽というのは、よりみずみずしくなると思います。そういった前提を持った上でこのアルバムを何度も楽しんで頂きたいなと思っています。是非、来年から始まるコンサートにも足を運んで頂けたら嬉しいです。

(おわり)

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