待ち望んでいた「時代劇」のオファーに、気持ちは“ヨッシャ!”
――藤野さんは、時代劇にはどんな印象をもたれていますか?
少し固いイメージがありますが、小学校の頃はよく『水戸黄門』を見ていました。曲が流れると一緒に口ずさみながら、行進していました(笑)。
――テンションが上がりますよね。
はい!本当に大好きでした。中学に上がってからは、黒澤明監督の映画『蜘蛛巣城』『七人の侍』などを見ました。
――中学校でそのチョイス? かなり渋いですね。
ちょうどその頃から映画『ソロモンの偽証』の撮影があり、「古風な顔立ちだね」と言われることが多くなりました(笑)。そのこともあり、時代劇に興味を持ち始めて見ていました。
――では、いつ話が来てもいいように、自分としての準備というか、そういう映画も参考にされていたと。
はい。今の映画の雰囲気も好きですが、昔の映画の、脚本の作り方やストーリーの面白さは昔ならではというものがあり、見ていてとても楽しいです。
――時代劇というのは近年、なかなかお目にかかるケースが少なくなってきているものではあります…また合わせて大人のラブストーリーというテーマもあり、藤野さんは撮影時に16歳だったということですが、いかがでしたでしょう?
ラブストーリーという点では、なかなかわからないこともあり、周りの方々に恋愛話をお聞きしました。監督ともたくさんお話をさせていただき、糸里を作り上げていきました。
――お話を聞いた時はどうでした?
お話をいただいた時は“ヨッシャ!”と思いました。とても嬉しかったです。時代劇に挑戦させていただくのは初めてでしたが、もともと色々な人から「涼子ちゃんの顔って、古風な顔だよね」「今時の顔じゃないよね」と言われていたこともあり、着物を身に付けたらどのような雰囲気になるのだろうと思いました(笑)。
――そうでしたか。一方でなかなか歴史的な話もあり、全般的に大人向けな話という印象もありましたが、浅田次郎さんの書かれた原作小説も読まれましたか?
初めに脚本を読み、次に原作を読みました。私は糸里を中心に読みましたが、映画ではもっと広い、ストーリー全体が網羅されて見えました。試写を見た時に、その時その時の糸里の成長だけでなく、本当にいろいろな女性の様々な人生が、この映画では描かれているなと感じました。時代劇は、男性が見ることが多いだろうなという印象がありますが、今回の作品は女性視点で描かれているストーリーということもあり、女性にもぜひ見ていただきたいです。
――ちょっと変な質問になるかもしれないですが、たとえば自分がこういった時代のこういう状況に陥ったとしたら、いかがでしょう? ご自身は信念を貫けるのかと…。
そこが私と糸里の、共通していない部分だあるいます…。もし私が糸里の立場だったら、自分の幸せをとってしまうだろうな、と。たとえば映画『ソロモンの偽証』で私が演じた“藤野涼子”も意志が強いまじめな生徒という役でしたが、今作の一部のシーンにもある、糸里が「啖呵を切る」ところと、藤野涼子が「裁判で検事をする」というところの、芯というか信念という部分は、似ていると思いました。
そういうところは自分の気持ちとして、感情を探るのが難しかった点です。ただ今回は、他の役から総合点を見つけることができ、そこはイメージがしやすかったところでもあります。しかし、もし自分がこの糸里の立場だったら、自分の幸せをとっていたかもしれません。
――太夫にはならなかったと?
いや、”なれなかった”と思います。
――その意味では、ストーリーの中でお気に入り、とたずねられると、やはり土方歳三を挙げるだろうと?
そうです。しかし、佐藤隆太さんが演じられた平山五郎さんも、何か一つの事に対して一心に進んでいくという姿勢が男らしいと思い、惹かれました。それはまた土方さんとは違う魅力だと思います。
――劇中の中でいろんなお稽古を何カ月前からやられていたとおうかがいましたが、一番難しかったのはどのようなお稽古でしたか?
稽古は三味線と鼓(つづみ)に所作、他に日本舞踊も習っていましたが、なかでも日本舞踊と所作はとくに難しく、“座り方”、“立ち方”、“扉の開け方”、“歩き方”と、一から教えていただきました。しかし、そういう細かい動きを意識しながらお芝居をするということが本当に難しく、ましてや京ことばで話さなければならず、頭がこんがらがっていました。
――方言というのは、大分意識されましたか? 藤野さんはもともと神奈川出身ということですが、あまり訛りは出ない感じですよね。
ほぼ訛りが出ない標準語だと思います。しかし、両親が青森県出身で、祖父母に話す時は方言を使っているのをきいているせいか、耳慣れていました。
――でも、たとえば関西方面だと大分響きが違う感じでもありますよね。
はい。『ひよっこ』の時は青森弁で、自分の祖父母が話す言葉でもあり、覚えやすかったです。しかし京都となると、全然違いました。
――京都だと、響きがすごくきれいな感じがしますね。
何か柔らかい感じがします。昔から方言に興味があり、魅力的だなと感じていました。そのような中で京ことばを話す役をいただいて、覚えたりイントネーションを正確に言ったりするのは大変でしたが、本当に貴重な体験をさせていただきました。