「ミュージシャン・番匠谷紗衣」が誕生するまで、今と繋がる感情
――「今の番匠谷紗衣」になるまでに何があったのかをもう少し遡らせてください。音楽の経緯ですが、なぜギターを弾いたり、歌を歌ったり、作曲をするようになったのでしょうか?
小さい頃から歌ってばかりいました。幼稚園児の頃も、親族の結婚式ではないのに歌ったり(笑)。カラオケも週一とかで行っていました。小学校5年生くらいから歌を習って。でも中学生のときに学校が嫌い過ぎて引きこもって、部屋で一人歌っていました。だけど、いつしか、誰かに聴いてもらいたいと思うようになっていて。道端でアカペラを歌うのはキツいし(笑)、それでおばあちゃんの家にあったギターを練習し始めました。
――ギターは独学で?
そうです。はじめは独学だったんですけど、一回ギターの先生に習って一曲は弾けるようになったくらいで、「よし、これで自分はできる!」と思って、そこからまた独学で練習していきました。ある程度経ってから、中学生でしたが、路上で歌い始めました。
――引きこんでいたのに…凄いですね、殻の打ち破り方が。
でも初めは恥ずかしくて…自分で歌うって決めて行くのに「行きたくない!」って玄関で一時間くらい泣いて。それでも行って、人が居ない所を探したり…訳がわからないですよね(笑)。
――大阪のどのあたりで歌っていたのですか?
地元の駅からひとつだけ隣で。おじいちゃんおばあちゃんの知り合いとかが見て「孫、歌ってたけど…」とか言われたらかわいそうじゃないですか(笑)。だから一駅隣に行ったんです。
――その経験は大きかったですか?
メチャメチャでかかったですよ! あのときの勇気は今まで出した勇気の中で一番大きな勇気でした。
――そこから大阪市内へ向かった?
そうですね。それで、ライブハウスじゃなくて無料で受けられるボーカルコンテストに応募して、そこに出られることになったんです。そのときの映像を誰かがYouTubeに上げてくれたんです。その映像を観たTV局の方が声をかけて下さいました。それがきっかけで「歌を聴いて元気をもらいました」とか、Twitterやブログにコメントを下さって。それで「自分の歌でなにかできることがあるかもしれない」と。
そのときまでは、自分が生きている価値がわからなくて…人のためになることをしたいとずっと思っていたけど、中学生だから働くこともできないし。歌で「元気をもらいました」と言ってもらえたのが凄く嬉しくて、「今はこれしかない、頑張ろう」と思って、ライブハウスで歌い始めました。
――そのときは自分の歌を?
ライブハウスで歌う1回目に曲を作ろうと思って。その曲も自然に出てきて。友達が凄く悩んでいるときに何も言ってあげられなかったんです。思っていることはあるのに上手く励ましてあげられなくて、それがもどかしくてどうしたらいいんだろうと思っていて。そうやってずっと考えていたら、寝る前に「ああ!」って思って急に曲が書けたんです。歌詞とメロディが同時に出来て、それが「君へ」という曲です。
それを直接、その子に「作ったよ」と言うのは恥ずかしくてできなかったんですけど、ちょっと経ってからYouTubeに上がっているのをその子が聴いたらしく「聴いたよ。励まされた」みたいなことを言ってくれて、そのときの気持ちが忘れられなくて。自分は、話して伝えるよりも曲にして伝えた方が向いているのかもしれない、とそのとき思いました。そのときの気持ちは今でも変わっていないです。
――今の自分の行動の原動力になっているのは、そのときの体験が大きい?
大きいです。そのときの感情を忘れたくないなと思いながらやっているところはあります。一人の人に向けて、言葉では言えないことを曲に出来たときの嬉しさみたいなもの。曲の方が自分の言いたいことが言えたというのは自分でもびっくりしたなと。
――そのときの感情と、『未完全でも』を聴いてもらったときの感覚は似ている?
そうなんですよ! 一緒だなと思います。自分のことを書いている曲もあるけど、一人の人を思い浮かべて書いたり。みんなに届けようではなくて、一人ひとり聴いてくださった方が自分と重ね合わせたり、自分の中にいる誰かを思って聴いて下さったりして「私はこう思った」と言ってくださったりしたら「そういう風に届いたんだ」とか、一回一回びっくりしたり、新鮮で嬉しくて。14歳のときに1曲目を書いたと気持ちと全然変わってないです。
――自分が思っていたのと違う反応が返ってくることもありますよね?
めっちゃあります。
――それは自分の新しい発見にもなる?
なります。「そうやってこの曲は届いたんだ」というのはありますね。
――それは次の曲作りに活かされますか?
はい。これは自分の中で答えが出ていなくて、これで良いのかなと思っていたけど、それがその人にとっては同じ気持ちだから伝わったんだとかだったら、次から「こういうかたちも正解なんだ」と思って書きます。
――「出るまでが不安」というお話でしたが、そういうことを知ったことによって不安ではなくなっている部分もある?
そうですね。曲を誰かが聴いてくださって「こう思った」ということを言ってくださることによって、自分の中でその曲が完成されていく感じがあります。