渡辺大、ワイン作りの祖に重なった師・津川雅彦氏の言葉 証し「ウスケボーイズ」
INTERVIEW

渡辺大、ワイン作りの祖に重なった師・津川雅彦氏の言葉 証し「ウスケボーイズ」


記者:桂 伸也

撮影:

掲載:18年11月02日

読了時間:約12分

ワイン作りの祖、麻井宇介にダブって見えた恩師・津川雅彦の言葉

――それも興味深いお話ですね(笑)。一方、ストーリー中の岡村を含め4人の仲間、一人は婿入りしながら会社を辞めてワイン作り、また一方で農家の畑をワイン作りに、とか、そんな中で岡村さん自身も会社を辞めてワイン作りと、ワイン作りへの情熱の程が感じられますが、実際にそこまで思い切ってそこに飛び込むという決意というのはすごいと思いました。

 確かに、そんな大博打というか。岡村は何も無いので、スパッと始めちゃったという感じですが…そういうところのリスクに対する決意の固め方はすごいなと思いました。岡村以外の彼らでいうと、実家が醸造をやっていたり、婿入りしていた先がブドウ畑をやっていたりと、いろんなバックグラウンドを使うというところはありますけどね。それでもなかなかできないことですし。

――たとえば渡辺さんも演技の道に走ろうと決められた時には、やっぱりそれまで歩んできた道からここにバッ! と思い切って行けただろうか? というところではいかがでしょう? ご自身が同じような状況で、同じ判断ができたと思われますか?

 いや~分からないですね。それはいつもせめぎあいながら、どうなのかなと思いながら、悩みながら今まで来ているというところもありますし。それが結局、年数を重ねて残っているだけなので、実はその悩みは尽きないのかな、と思っているんです。

――たとえば何らか“転機”と呼ばれるタイミングはあるように見えるけど、実はその前段、後段にもいろいろ悩み続けて、表立った話では見えない、ハッキリしないところがるという感じなのでしょうかね?

 そうですね。現状の自分を見て、僕は成功している、という状況にあるとは思っていません。結局当時から今までの間も未だににつながっていると思うし。この物語だって、たとえば今年なんかは何度も台風が来て大変だったはずなんです。そんな意味でもいろんなご苦労をされたと思います。

――確かに。今年はやけに台風が多かったです。ワイン作りも、そういったハプニングに悩まされる面も大きいですね。

 だから悩む、ということは終わりが無いというか。このストーリーではその時々によって、本当に自然とどう対処していくかということがあるので、岡本さんご自身も本当に悩みが尽きないだろうなと思っています。だから今では、僕はいつも台風が来るたびに“山梨の畑は大丈夫かな?”とか思うようになりました。

渡辺大

渡辺大

――またこのストーリーの中で一番大きな役割を果たすのが、日本ワイン作りの祖となる麻井宇介さんの存在ですね。ワイン作りを志す若者に、大きな後押しをしてくれるような人という存在を感じました。劇中でも橋爪(功)さんが演じる麻井さんが登場した段階で、登場人物の気持ちがバッと変わる印象を受けました。そんな経験は渡辺さんご自身の、これまでの人生の中でも、どこかのタイミングで同じような実感をしたことはありますか?

 そうですね。たとえば先日亡くなられた津川雅彦さんは、まさに。10年程の役者人生の中でも本当にお世話になりました。いろんなことを教わって、転機とかいろんなきっかけになるようなことも本当にたくさんいただいたし。

――たとえばこの映画では、麻井さんの“教科書は、破り捨てなさい”という言葉が非常に強く印象に残っていますが、津川さんにも同じように、印象的な言葉をいただいたこともありましたか?

 そうですね…“不幸になりなさい”という言葉を…。

――え?“不幸”ですか?

 「役者というのは、不幸になった奴のほうがうまいんだよ!」という感じで、それを背負って生きなさいって。そんな感じで“辛い思いをしたほうが、お前の良い糧になるんだよ!”という話をいっぱいしてもらいました。辛い思いを乗り越えたほうが、いい役者になるということこと。それほど毎年、毎回いいアドバイスをたくさんもらえるわけではないけど、数年の中で声を掛けていただいた中では、それがすごく胸の内に残っています。

――それはとても印象的な言葉ですね。では、これからも“不幸を背負って”…。

 まあ“不幸”というか(笑)、そういうものを背負って、糧にしていくということで。

――それはある意味“現状に甘んじない”というところにも、つながっていくんでしょうね。

 そうだと思います。やっぱりどこかで、役者ってずっと悩みながら生きていかなければいけないし、時にそういうことを感じるんじゃないかと。

――深い話ですね。現場の撮影は、ずっとロケだったと思いますが、苦労されたことなどは?

 いやまあ逆にというか…1カ月弱ほど山梨で、甲府にベースを置いてロケをいろいろやっていたんですけど、恵まれていたと思いますね、撮影環境も。今年はほんとに台風と酷暑が多かったし、あの状態で僕らも畑にいたら、大変なことになっていたと思うし。去年は比較的おだやかな気候だったので。そういう意味では恵まれているなという感じで。

――意外に土にまみれるのも良い感じで?

 いや、良かったですよ。僕は全然土に触るのは大好きだし、あの時は田んぼで田植えなんかもしていたし。その意味では農業とか、そういったものに触れる機会も多い年だったので、個人的にも良かったと思います。

――ちなみにワイン自体も、普段から結構たしなまれているほうですか?

 飲みますね。家とかでもワインを飲むことが多いですね。

――それは単純に飲むということで?

 昔は単純に飲むという感じでしたね。値段と雰囲気という点で、ちょっと安定したものを求めてというか。だから結構同じものを飲んだりすることが多かったですけど。でも今は新世界のワインというか、いろんな国のワインが出てきているので、そういうものをいろいろ見ながら飲むようにもなっています。

――ワイン好きの方は、これに関していろいろ知識が豊富な印象があります…実は私は酒が飲めないんですけど(笑)、なにかワインを好きになると、精神的にも豊かになるような雰囲気もあって、憧れてもいるんですよね。

 確かに、お話としては幅が広がりますよね。イタリア、フランス、スペインとなっちゃうと、もう数や品種とかを突き止めていくときりがない。でも日本のワインに関しては、今回映画に携わった機会もあって本当に愛着もあるし、そういった面でも自分に幅が広がった印象があります。たとえば日本のワインについて“意外とこういうところでワインを造っているんですよ”とか言うと、皆さん結構ビックリされたりもすることもあるし、そういうのを伝えていくのは楽しいです。

――なるほど、最初に”ワインに関して、知っていただきたい”というお話もありましたが、最後にそういう部分も含めて、本作の大きなアピールポイントなどを教えていただければと思います。

 一つは岡村という人間が、自然と向き合いながら最初は独りよがりのワインを造ろうとしているところから、麻井先生の教えで変わっていくというところ。これも見ていただきたい。それともう一つは、この映画を見てワインというものを知っていただき、ちょっとでも口にしてみようかな、と思っていただけるところまでが、一つのパッケージ的なものというか、目標だと思っているので、そういう思いを感じていただければ。

――一つのミッション、というような感じですよね。

 そうですね。ワインに親しむきっかけになれば。映画館を出て、ワインを飲むまでが一つだと思っているので。そういうところまでいけるようになってもらえればいいな、と思います。

(おわり)

渡辺大

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