INTERVIEW

渡辺大

役の生き様を大切にしたい。
『日本独立』吉田満役


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:20年12月17日

読了時間:約8分

 俳優・渡辺大が、18日公開の映画『日本独立』(伊藤俊也監督)に出演する。終戦を迎えた日本を舞台に、憲法改正を巡りGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)と渡り合った吉田茂と白洲次郎、そして彼らを取り巻く男たちの姿を描く。渡辺は、戦艦大和に乗船し敗戦後は小説家としても活動した吉田満を演じる。メインストーリーに絡む重要な役どころだ。時代劇や近代劇など様々な作品を演じてきた彼が演じる上で大切にしているのは「生き様」だという。その思いとは何か。【取材・撮影=木村武雄】

当時の答え合わせをする機会

伊藤監督作への出演は、三億円事件をモチーフにした主演映画『ロストクライム -閃光-』(2010年6月公開)以来となる。演じる吉田満は戦艦大和から生還した小説家。沈みゆく巨大艦、そして亡くなった戦友たちの姿を『戦艦大和ノ最期』にしたためた。渡辺は、映画『男たちの大和/YAMATO』(2005年12月公開)で船員を演じており、“大和”とは「奇縁」を感じさせる。

 「伊藤監督からは何年か前に、こういうものを撮りたいという話を聞いていました。近代史をやるときはいつもよりも『伝えたかったものは何か、それをどう託すか』という事を考えながらやっています。戦艦大和に対する縁も感じていますし、そう意味では、無い所から作ったわけではないので、他の作品よりも心構えはあったうえで臨むことが出来ました」

GHQ占領下にあって、国体を示す憲法の改正を巡り、吉田茂、白洲次郎らが奮闘する上層部の姿を追うだけでなく、戦争の前線に立ち、そして『戦艦大和ノ最期』がGHQによる検閲で出版差し止めにあった吉田満の姿も軸に置くことで物語を立体的に映し出した。戦後75年経った日本。渡辺はどう捉えたのか。

 「僕たちが生まれてきたというのは、前の世代があるからで、そうした繋がりがずっと続いています。出版社での文芸評論家・小林秀雄(演・青木崇高)の台詞にもありましたが、先人たちが伝えたかったものを分断するような狙いがあったように思います。それをどう伝えるかがすごく大事だと思いました。この人たちが何を思い、日本国憲法を作るにあたってどう取り組んだのか。その先に何を望んだのか。国家としての主権を取り戻すという意味もありますし、日本がどれだけ成熟した国家になっていったか。戦後75年が経ったこの世の中で僕たちが国家として成熟したのか、人間として成熟したのかという答え合わせするところにきていると思います」

渡辺自身はどう答え合わせをしたのか。

 「形は違いますが、いまコロナ禍で国難な状況にあります。その中で、他者の事を思ったり、色んな意味での共存共栄を望んでいる人間になっているのかと。過去の事を振り返る上で、それを責めているだけなのか、もしくは、そこから学んで先人たちの思いがどれだけ継承されているのか。普通は時間の経過とともに良くなっていくはずですが、実際にそうなっているのか。正直、難しいとろです。人として変わっていない、むしろ悪くなった部分もこういう時だからいっぱい見えてきた部分もあります。それだけじゃないところもありますし、満点とも赤点とも付け難い微妙なところです。今まで教授を受けた部分から、どういうふうに先に残そうか、ということを考えるのは年齢や立場によって変わってくる。少なくても当時の人たちがどういう思いで携わっていたのかを考えながら日々生きていかなきゃいけないんじゃないかなと思います」

歴史、教養、世界情勢…。関心があるものないもの、知識があるものないもの。良くも悪くも、そうしたものがない交ぜになり、混とんとしているのが現在の状況のようにも感じる。

 「技術や科学の発展。学校教育やネットなどの発展によって、知識に触れる機会は今の方が恵まれていると思います。ただ、人間という内面はどうなのかということだと思います。今は個人で生きようという部分が強すぎると思います。それは日本だけじゃなく世界でも同じことが言えると思います。技術が進歩していくから、それに乗じて人間も進歩していっていろんな所が豊かになるようにしていかなきゃいけないんですが、なかなか上手くいかないと言いますか。少なくともそれに向かって努力している人間が果して何人残ったかっていうか…。当時も吉田茂や白洲次郎のような人物がいたからこそ、今の時代に形として残っているわけで、僕らの行いが、後世に良い形で残していかなくてはならないなと思います」

渡辺大

渡辺大

演じる上で大切にしている「生き様」「価値観」

映画を作り上げるのは、キャスト、スタッフも含めた「人間力」が問われる。IT化が進む昨今、希薄になりつつ人との関係性のなかで、芝居は「人間の魅力」を追求する作業。どのように感じながら取り組んでいるのか。

 「相手の事を想えるようになる、という意味では、以前よりもアンテナはもっと敏感になったと思います。独善的になってはだめですし、映画やドラマはいろんな人達と一緒に作り上げていくものですから、個では作れないですし、発信出来るものでもない。オールドスタイルの話かもしれないですが、無駄を全て削げばいいというものではないですから。心の遊びというもの、心が豊かになるというものをコストとは別に考えてやっていかなきゃいけないと思います。コストを優先しがちだけど、心が豊かになることを、みんな考えていけたらいいと思います」

これまでに様々な役を演じてきた。それらは作品が終わった後も蓄積されるのか、それとも抜けていくものなのか。

 「抜けはしないです。ライブラリーじゃないですけど、一個一個引き出しにしまっていく感じです。僕の場合は、役になるというよりかは、来てもらう方。役が降りてくるのではなく、近づいてくれる。ですので、自分が無理しない方がいいと思っています。自分の性格に寄り添ってもらうというか、僕が表現しやすいようなものを探していく。役に対して共通できる部分を最大限広げて開けるような。合わない部分もありますし、でも自分と役との共通項が0だとは思わない。必ずどこかにある。そこを切り口に広げていく感じです」

実在した人物を表現する時は、その人の生き様を現代にどう表現するかが重要だ。その分、演じる者への負担は大きいように感じる。

 「その点については困ることはないです。書いたり演出する方が難しいんじゃないかなと思います。江戸時代、昭和初期、現代の価値観は全然違う。剥離はありますが、僕はフラットに見なきゃいけないと思うんです。価値観の剥離という部分でも、見ている人が嫌悪感ないように作るというのは大変で、でもそれはしょうがない。僕はそれでそういうもんだと思って役で消化してあげればいいかなと思っています」

「フラットで見る」ことを意識していると語った。一方、役作りでは「共通項」から広げていくとも明かした。その時代時代に価値観が異なるなかで、人間として変わらないものを見出していく作業とも言える。

 「必ずしも0ということは無いと思います。価値観が違うとしても、こういう生き方してみたいとか憧れでも良いと思う。人を救うヒーローになるシチュエーションは特にそう。だけど、身を投げ売ってやろうとしていた役の場合は、価値観とかに関わるその人の『生き様』が大事だと思います。そういうものを追っかけていきたい。なりたいものでもいいし、そういうものを追っかけるのでも良いし、どんな役でもあっても何かひっかかるものがあれば、絶対1%なりえると思います」

その人が必死に生きた生き様が「共通項」。

 「とにかく一生懸命じゃなきゃ。なんとなくなぞるだけじゃ難しい部分があるので」

そのような志のなかで吉田満をどのように捉え、臨んだのか。

 「戦艦大和に乗って、いろんな葛藤を見てきて、いろんな人間の生き方を見てきた人だと思います。何千人も乗っていた船ですから、いろんな人生や考え方、国(日本国内の出身地)があったと思う。それを伝えたかったんだと思います。遺族や日本で戦後迎えられた人、日本に帰還してきた人達にとっての生き字引として伝えられるんじゃないかと思ったところで、小林さんが言った通り、分断されたんだろうなと。その無念は当時あの環境で生き延びた人たちの思いなんだろうと思います。戦後急に価値観が変わってひっくり返っちゃったわけですから。自分達の思いを誰の手も返さずに伝えられなかったという無念はすごく感じました。そういう所を伝えられたらと思っていました」

渡辺が演じる上で大切にしている役柄の「生き様」。吉田満の「生き様」とは。

 「今だったら検閲もないですし、発表しようと思えばSNSとかもある。当時は不自由さを感じる。不自由さはドラマになりやすい。この時代の人たちの人生はドラマチックで、不自由なものに対して抗ったり、人が一生懸命生きようとしている姿、不自由に対しての戦い方というものが描かれています。人が一生懸命戦っている姿というのがこの作品に描かれてすごく良いと思っています。翻弄されていますが、その悔しさも表現できていると思います」

戦中の文章は様々な制限があり、短いセンテンスのものが多い。制限があるからこそ生まれる美しさもある。明治時代の海軍軍人・秋山真之も名文家で知られ、吉田満の『戦艦大和ノ最期』は文学的にも高く評価されている。

 「以前浅田次郎さんとお話する機会があって、時代劇ってドラマが作りやすいんですって言われました。理由は『不自由だから』。要するに、解決策を探したり、出来ないからこういうドラマが生まれる。今は連絡もとれますし、場所も分かる。なんでも分かるから、何も不自由しない」

映画は、求めているもの体験出来ないものを疑似体験できる良さがある。こう色々なものが揃っている現代。ドラマは生まれにくいのか。

 「そうは言っても生まれないことはないと思います。それはそれで色んな事が変わっていくと思いますし、その中で、自分達で課題を探して作っていく。世の中、便利になったようで不便にもなっていますし、人ひとりみても生き方に山があり谷がある。山があった時にゴールだと思わない方がいいし、谷があった時に終わりだと思わない方がいい。どう上がるか、いい時はどこまで落ちるか覚悟して生きるかを考えながら、自分で課題を決めてクリアしていくのが人生だと思う。やり易かろうがやり難かろうが自分で探していって頑張るしかないかなと思います。それも一つのドラマとも言えると思います」

渡辺大

(おわり)

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