渡辺大、ワイン作りの祖に重なった師・津川雅彦氏の言葉 証し「ウスケボーイズ」
INTERVIEW

渡辺大、ワイン作りの祖に重なった師・津川雅彦氏の言葉 証し「ウスケボーイズ」


記者:桂 伸也

撮影:

掲載:18年11月02日

読了時間:約12分

 主演に俳優の渡辺大を迎えた映画『ウスケボーイズ』が10月20日に全国公開された。俳優業界でも大ベテランとして高い評価を得ている父・渡辺謙。“日本のワイン”製造に挑戦した者たちの物語。今回は渡辺に、作品参加の感想やストーリーの印象と共に、今作のメインテーマとなる“日本のワイン”に対しての思いなどをたずねた。【取材=桂 伸也/撮影=大西 基】

「日本のワイン」を作る者たちの姿を、ワイン作りの祖との交流を交え描いたストーリー

 本作は第16回小学館ノンフィクション大賞を受賞した河合香織さんのノンフィクション作品『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』が原作。日本製ワインの常識を覆す銘柄「桔梗ヶ原メルロー」を生んだ醸造家・でワイン評論家の麻井宇介さんの思想に感銘を受け、ワイン作りの道に積極的に進んでいく若者たちの姿を、麻井さんとの心の交流を交えながら映し出す。

 渡辺はワイン作りの道を志し、会社を辞めブドウ作りから醸造と、ワイン造りにまい進する主人公の若者・岡村役を演じる。そして岡村と同じく浅井のワインに向けた思いに感銘を受け、自身もワイン作りを手がけていく友人を出合正幸、内野謙太、竹島由夏らが担当、そして本ストーリーのキーパーソンとなる麻井役を橋爪功、その娘役を伊藤つかさが演じる。他にも安達祐実、和泉元彌、枡毅、大鶴義丹ら豪華キャストが名を連ねる。また主題歌にはYuccaが歌う「風の未来」が起用されている。

 近年は『覆面系ノイズ』『空飛ぶタイヤ』『散り椿』などの話題の映画をはじめ、テレビドラマなど幅広い役柄に挑戦している渡辺は、今作で『マドリード国際映画祭2018』の最優秀外国語映画主演男優賞、『アムステルダム国際フィルムメーカー映画祭2018』の最優秀主演男優賞と、海外の映画祭で2冠という快挙を成し遂げ、高い評価を得ている。

 また本作自体も『マドリード国際映画祭2018』では5部門にノミネートし最優秀外国語映画作品賞、『アムステルダム国際フィルムメーカー映画祭2018』では最優秀監督賞を受賞、渡辺の受賞と合わせて作品として4冠受賞を達成している。

渡辺大

渡辺大

“見て感じたものを、そのままやる”ことで演じたノンフィクション・ストーリー

――遅れながら映画祭での男優賞2冠受賞、おめでとうございます。この作品で賞を受賞されたということからは、ご自身の俳優としてのキャリアで、一つの大きな節目になったという実感もあるのでしょうか?

 ありがとうございます。そうですね、まあ別に“これで賞を獲るんだ!”という感じで作っているわけではないですが、たとえば僕のやっていること、俳優というものは、(実績として)形が無い。その意味ではこんな形で賞をいただけるというのは、自分の中でもいろいろ区切りや締めとなって、頑張ってきたものの積み重ね、この作品に限らず積み重ねてきたもの…それの証明のようなものになるかな、という気はしますし。そう考えると本当に良かった、という実感はあります。

――この作品に向き合われていた際にはいかがでしょう?

 いや、作っている時にそういう気持ちはないですけど…現場ではやるだけですし。どちらかというとストーリーを読んで感じた“もっと日本のワインって、メジャーになっていいよね”という気持ちのほうが強くて、そういった思いをどう見せるかという気持ちだったと思います。

 作品に入る前に、実は日本のワインをたくさん飲んで、その良さを知りました。そのワインが日本で出来上がる前の段階のストーリーを映像化して、皆さんに見せられたら楽しいかな、という感じだったんです。だから作品作りに関しても“日本のワインを知っていただく切り口になれば”という思いで向き合いました。

――なるほど。もともとこの映画のストーリーに関しては、どのような印象をもたれましたでしょうか?

 まあドキュメンタリーチックというか…日本のワインはまだそれほど歴史もそれほどあるわけでもなくて、実際におられる岡本さんという醸造家(劇中では「岡村」)が、15~20年前に体験されたことをそのまま起こしているストーリーですし、そんなに派手な誇張があるわけでもない。でもなにか本人の生き様みたいなものには共感する部分があって、畑と向き合っているところなんかでそういったものが見せられたらいいなと思いました。

――ストーリー自体は、ワインにまつわる話ということもありますが、すごく深みのある雰囲気を感じました。ただ、実際に渡辺さんがこの役を演じようとされた時はいかがでしょう? 演じるという意味では、大きな特徴を表すような展開もなく、演技としてはかなり難しいものだったのではと。

 そうですね、岡村の役はフラットだと思うんです。だから逆にあまり足してもどうかな? というところもありました。岡本さん自身もそんな方だったし。だから演じるポイントとしては、“僕が見て感じたものを、そのままやる”という感じで。

――それほどセリフが多いわけでもないけど、逆に長回ししているわけでもない感じでもあるので、撮影という格好ではそれほど難しさがあるような感じはありませんでしたが、劇中ではセリフがない分表情で感情を表すというか、すごく微妙な表現が随所に見られますね。

 そう、自然と向き合うということが多いので、相手がいない中でブドウと向き合ってみたり…。

――劇中で渡辺さんがブドウのつるを見ている時の表情には、いろんな思いや感情が見えるようでもあり、印象的でした。ああいったところは、脚本にどう書いているんだろうな?などと不思議に思いながら…(笑)

 当然、脚本には書いていないですよ(笑)。単純に“ブドウを見て、分ける、”くらいしか書いていない。ただその中に、なんか”なにをしたらいいのか”というか“自分が一生を分ける作り方をするんだったら”みたいなことを考えていました、それが良い、悪いのすごく大きな分かれ道になるわけですから。そういう選別の仕方を、どうやってやるのかな、というのは考えながら演じていました。

――それは演じる前から、なにか“こうすればいける”という目論見のようなものは、ご自身の中にあったのでしょうか?それとも“やってみないと分からないかな”という感じだったのか…。

 半々ですね。なんかあまり淡々とやりすぎると…どっちも怖い。やりすぎても怖いし、無さ過ぎても怖いので。だから程よい按配で、うまくやれたらいいかという感じでした。そんな中で、岡本さんがどういう風に苦労されていたかということが、見ている側にも伝わればいいな、と。

――実際の岡本さんにはお会いされましたか?

 何度かお会いさせて頂きました。実際に僕が映画で演じたような雰囲気の方で、結構フラットな感じの方というか(笑)。でも、ちょっとワインの話なんかをすると“私の好きなワインは、これなんですよ”って持ってきて見せてくれたり。

――話が止まらなくなる感じですか?

 そうなんです! まあそれほど”ワーッ!”と騒がしい感じで話したりするわけでもないんですけど…でもああいう感じの性格の人こそ、5年、10年とゆっくりと自然に向き合える人なのかなという印象はありましたし、確かに感じるものはありましたね。分かるというか、辛抱強く、粘り強く生きている、畑と向き合ってきた、自然と向き合ってきたんだというのは、すごく伝わってきました。

――それは興味深いご対面でしたね。性格的にご自身と岡本さんを比較するといかがでしょう? たとえばその仕事の向き合い方として、岡本さんのブドウ作りという面とつながる部分というか…。

 同じ面と違う面、両側面があると思います。この作品なんかは特に、気持ちはのんびりおだやかにはやっていました。でも他の時はセカセカ、イライラしたり。両面の気質があると思うんです。どうでもいい時はすごくのんびりするけど、急ぐ時はすごくせっかちになっちゃうとか。

――短期集中型みたいな?

 そうですね。でも基本的には根がそっちのほうかな、という気もします。

――一方で、特に渡辺さんは今日、ジャケットとパンツでシックに決められていますが、チラシなどで見せられているビジュアルのイメージは、すごく若々しく見えるな、と(笑)

 そうですか(笑)。いや~でも劇中の岡村は、年齢的にも同じくらいなんですよね。就職して、3、4年くらい後に会社を辞めて畑をやり始めて。岡本さんもそれくらい。実年齢では30ちょっとくらいだと。

――そうでしたか。でも本当に若々しい感じですね。

 まあ最近年齢不詳なんですよね(笑)

――そうなんですか?

 実は今朝、(笑福亭)鶴瓶さんに会ったんですけど、“お前、随分若うなったな!?”って言われて(笑)。鶴瓶さんにお会いしたのは10年くらい前なんですよ。“そうですか? 30代半ばですけど”と返しましたけど(笑)

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渡辺大
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