自分本位の音楽はやめた、ZYUN. 場所として機能する多面的な音
INTERVIEW

自分本位の音楽はやめた、ZYUN. 場所として機能する多面的な音


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年10月20日

読了時間:約14分

堤幸彦監督との邂逅

――そもそも堤監督とはどの様にして出会ったのでしょう。

 知り合いを介して、堤監督に僕の作品を渡していたんです。そうしたら、監督が個人的にそれを聴いてくださって「この子に会いたい」と。僕も元々ファンでしたけど、まさかそんなことになるなんて、人生で思うわけないじゃないですか。あの堤幸彦さんが!『SPEC』の! って(笑)。そんな方が初めてお会いした時から「この曲のMVを撮りたい」と。でも、それはリリースも何も決まっていない「体温」という曲だったので、まだ世に出てはいません。それからもプライベートでご飯を食べに行ったり、カラオケに連れていってもらったりとお付き合いさせて頂いています。

 それから先ほどお話した、書き直したものを世の中に出すということに葛藤があったんですよ。頭で考えたものを、心で歌って外に出すという矛盾に耐えられなくなって。いびつなものならいいですが、嘘のものをファンに届けたくはなかったんです。その悩みを監督に初めて打ち明けたら「そのMVやるよ」というお話をして下さって、「じゃあ、お願いします」と。それ以外にも(TBS系)ドラマ『SICK'S 恕乃抄 〜内閣情報調査室特務事項専従係事件簿〜』にも出演させて頂いたりもしています。

――もともとファンだったということもあってか、世界観に共通した部分を感じます。

 監督と僕が話していると、周りの人は「なんか、よくわからない言葉が飛び交っている」と言っています(笑)。今回のMVも撮影するまで、スタッフさんも僕も全員どういう作品になるかわからないんですよ。一応「雨の中で撮ります」とか「こういう岩場でデートシーン」そういう情報は箇条書きでわかってはいたんですけど。当日の空気感とか、その場で監督に降りてきたインスピレーションでああいう作品になりました。かなり衝撃的な作品ですよね。

――ZYUN.さんがラップでぐるぐる巻きになっていたりとかも。

 そうですね(笑)。そのシーンがジャケットにもなっています。監督に対して「なぜこれをやるんですか?」という質問は愚問。そうではなく、監督のイメージに信頼してその世界に入り込んでいくだけなんです。僕は役者ではないので、あまり大それたことは言えませんけど。それをどう解釈するかは、それを手に取ってくれた方次第なので「そのラップの意味は?」ということも結局聞きませんでした。なんとなく納得してしまうんですよね。

 それから、MVにはSKE48の高柳明音さんにも出演してもらっています。もともとヘアメイク担当の方が一緒で。彼女の舞台も観に行かせて頂いたりして「いつか一緒に仕事できたらいいね」なんて話もしていました。今回は、高柳さんと堤監督の地元が同じ名古屋で「ここが繋がったら面白いな」と思い浮かんだので、僕からお声かけしたんです。

 彼女は撮影の日も公演があって、撮影が終わったらすぐ名古屋に向かいましたね。それだけ忙しいなかでやってくれたんです。目の前で演技をしているところを見て、改めて「女優さんだ」と終始感じました。なので、MVは僕の周りの素敵な人たちで楽しく作品を作りました、という感じにすごく近いかもしれません。

――楽曲についてですが、アレンジに関してもアイディアを出されるのですか。

 僕は周りのクリエイターと信頼を持ってやっています。今作のアレンジは「こういうイメージ」「こういう色で」と伝えて、あとは好きにやってもらいました。その上で「ここの音色の高音を」とか「ドラムを柔らかくして欲しい」と細かいところだけ指示しています。でも基本的には、アレンジャーさんが感じた世界で作ってもらっています。僕はチェック程度で。

 ただストリングスだけはめちゃくちゃこだわるんですよ。旋律も和音の積み方もこだわっていますね。ワンマンライブになると弦楽四重奏を呼んだりしています。生のストリングスをファンのみなさんに聴いてもらいたくて。僕のファンで、クラシックも聴きに行くっていう人はそんなに多くないと思うんです。こういう場で体感して「ヴァイオリンを弾きたい」という夢が生まれるかもしれないじゃないですか。

――もともとクラシックが好きだった?

 そういうことでもないですね。僕はソロなので、コーラスを誰かと一緒にやることはないじゃないですか。もちろん音源のなかでコーラスをやったりはあるんですけど、それでは作れないところでストリングスが大事なんですよ。歌のメロディとストリングスのメロディがどのくらいマッチしているのかとか。わざと音をぶつけるところとかもありますね。

――カップリングの「牲犠」ですが、こちらもタイトルからして面白いですね。

 タイトルは最後につけるんですよ。制作が終わって、「個人的な意味で正義の歌になったな」と思いました。でも普通に「正義」だとこの曲ははまらなくて。小さい頃からヒーローものとかディズニーとかすごく好きなんです。でも僕のなかの正義は「牲犠」の方。僕が正義と思っていたこととか、憧れていたヒーローはどちらかというとこちらのイメージだったんだなと今は納得しています。

 この曲に関してもストリングスは生でレコーディングしました。とてつもなく繊細な世界観ですよ。ブレスひとつで雰囲気が変わる曲なので。でもボーカルの録音は30分くらいで終わったんです。基本的に僕は、コーラスとかも入れて1時間半以上かからないんですけど。そんなにテイクを重ねるというより、つるっと歌ってます。クリック(音源に合わせるためのメトロノーム)も聴いてないですね。「いいね。よし」という感じが今回のシングルだとこの曲が1番強かったかもしれません。

――その場の空気感を大事にされているということなんでしょうか。

 特にバラードは繊細で、ピアノ線よりも細い、感情線の様なもので成り立っています。だから編集したり、途中からやり直したりするのはちょっと違うと思うんです。音程が外れている、外れていないというよりも僕自身が最初から最後まで歌い切れることが大切なので。その世界に入り込めているものの方が、聴いてくださる方へダイレクトにイメージを届けられるんじゃないかなと思っています。

――「Dearest.」はダンスミュージックでまた違う質感ですね。

 この曲は少し前にできていた曲で、ライブでは何度かやったことがありました。個人的には今まで出してきた楽曲の中で、唯一自分の毒が出ていると思います。世の中に対してとかそういう大それたことではなく、日常のなかで「理不尽だな」とか「悔しいな」と思うことをダイレクトに出した感じ。サウンド感とかも聴き方によってはするどい切り口だったりするかもしれません。ただ、この曲でみんなが楽しく換気ができる様にもしたくて。だからダンサブルでもあるんです。

 以前はもう少しバンド色が強かったんですけど、シングルに入れるに当たって「最終形態は何だろう」と考えた時にクラブなノリもありかなと思ったんです。ネオンがすごく似合うというか、照明だったらレーザーが似合うみたいな。それでいて、たくさん音が入っている様なのに実は余分なものが何もないものにしたい、とアレンジをお願いしました。

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