体験を映画にしようと――「音タコ」三木聡監督、指標にあった吉岡里帆
INTERVIEW

体験を映画にしようと――「音タコ」三木聡監督、指標にあった吉岡里帆


記者:鴇田 崇

撮影:

掲載:18年10月12日

読了時間:約9分

阿部サダヲ、吉岡里帆の存在感

――こういう作品を作る場合、何が醍醐味となりますか?

 勘違いも含めて、みなさんの想像力ですよね。それぞれの解釈を元に、いろいろな想像力の結果を、みなさん俺にぶつけてくるわけじゃないですか。それを弾き飛ばすように、全部身にまとって走り続けることの大変なこと。俺が手ぶらだと、それに対抗できないわけじゃないですか。なんらかの提示を各セクション全員にしなくてはいけないという義務感が、大変と言えば大変。矢が刺さりまくって弁慶みたいになっていましたけれど。それでも映画は完成に向けて、走り続けなくてはいけない。60歳近いおっさん、まあしんどいしんどい。終わった後、体動かなくなる感じでした。

 ある種、体験=エクスペリエンスを映画にしようと思っていた、この映画を撮っていた体験をみなさんに伝えたいという想いは強かったので、音楽の魅力ってそこなんですよね。ライヴ行ってもそう。だから、今度はみななさんが、この映画を映画館で体験してくれればいいなと思っています。その指標が、吉岡さんのお芝居。彼女自身が体験して、成長して、自分で歩いて行かなくてはいけない、そのエネルギー感は大切にしていました。

(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

――その吉岡さんの手ぶらでくる感と言いますか、冒頭の丸腰感が凄まじかったですよね。

 あれは本当にすごいです。正直、僕の今までの作品でも手ぶら感を用意していたことはあり、そういう時「それってパニックになりますよ、わたしは」って、前にも後ろにも進めない状態になることがありました。「なんにもしていないことと一緒ですよね?」って。でも、それがいいんですよね。吉岡さんには、そういう説明が要ならかった。しかも、彼女が演じるふうかは、音楽もやって対人関係もそこそこに濃密ななか、そこで手ぶらで入っていくって、まさしくリスペクト。非常に想像力がいる仕事です。

――阿部サダヲさんをはじめ、ふせえりさん、松尾スズキさん、池松了さん、田中哲司さんと、みなさんモンスターみたいなものですからね。

 そこに手ぶらで行くって、すごいことですよね。しかも、みなさんの持ち込みも多い。そういう俳優たちの想像力が楽しいわけで、それが映像に反映されないのであれば、そもそも絵や漫画や小説のほうが断然いい。自分の中だけで完結して、自分の中だけでコントロールしていればいいので。

(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

――その中で軸でいる阿部さんの存在感、吸引力も素晴らしかったです。

 すごいですよね。松尾、ふせ、すべての人たち、聖飢魔IIを歌うおばあちゃん二人組までも全方位的に対処しなければいけないじゃないですか。今の日本でシンを演じる俳優は、阿部サダヲしかいないでしょう。プロデューサーに始めに相談した時に、もう7秒後には阿部サダヲの名前が挙がっていました。どっちからともなく。世界的にというか、少なくとも環太平洋的には阿部サダヲしかいないのではないかって、思いましたね。

 吉岡さんのほうも歌ってスタイルで返していかないといけなかったというか、何曲も歌わなくちゃいけないし、都度都度ギターがあるわけで、大変だったと思います。逆に言うと、そういう物理的にやらなくちゃいけない事象が多かったので、余計なことを考えずに済んだかもしれないですけれどね。

映画を撮ることの魅力

――ところで、今回の映画を経て、今までと何か価値観が変わったというようなことはありましたか?

 そうですね、今までは映画の中のお芝居に対して、客観的な部分をもって撮影していた気がしますね。コメディーをコントロールしていくという意味でも。それがもう少し主観的な部分で入り込み、自分もイケイケで撮ってみようかなと。60歳も近いのにやることかという話もありますけれど。

――なぜ心変わりを?

 たぶん世代的に俳優小劇場みたいなものも含めて、演技をしているやつが「なんであんなに大声でやってんだ?」「あの芝居独特のセリフの言い方はなんだ?」みたいな世代の真っ只中にいて、コントなどでもそういう時代を通り抜けて来ていて、わりとそういうことに対して客観的に立ち続けていた。でもロックという世界の中では、そういうことがないトランス状態に持って行くということも大事で。今後ちゃんとした映画が撮れるかどうか不安になりました。もともとちゃんとした映画撮ってないんですが。

――音楽への想いは学生時代からですが、いまの三木監督自身が投影されているわけですね。

 映画ってメディアでもある以上、時代の空気みたいなものに反応していくじゃないですか。ある種、ドキュメンタリーみたいな部分があるし、普遍的に変わらない部分もあるけれど、やはり時代の空気みたいなことを反映しているからこそで、『イージー・ライダー』もあの時代だからこそ生まれたわけですよね。それと同じで、現代の2017年11月という時期に撮ってはいましたが、その時期の、自分の何らかの気持ちが投影されているわけです。映画を撮ることって、そういう魅力がやはりありますよね。

(おわり)

三木聡監督

作品情報

物語
リミット迫る“声の争奪戦”が今、はじまる!!!爆音!爆上げ!ハイテンション・ロック・コメディ!! 驚異の歌声をもつ世界的ロックスター・シン(阿部サダヲ)と、声が小さすぎるストリートミュージシャン・ふうか(吉岡里帆)。正反対の2人は偶然出会い、ふうかはシンの歌声が“声帯ドーピング”によるものという秘密を知ってしまう! しかもシンの喉は“声帯ドーピング”のやりすぎで崩壊寸前!やがて、シンの最後の歌声をめぐって、2人は謎の組織から追われるはめに。リミット迫る“声の争奪戦”が今、はじまる!!!

出演:阿部サダヲ 吉岡里帆
千葉雄大 麻生久美子 小峠英二(バイきんぐ) 片山友希 中村優子 池津祥子 森下能幸 岩松了
ふせえり 田中哲司 松尾スズキ

監督・脚本:三木聡(『俺俺』、「時効警察」シリーズ)
音楽:上野耕路 

主題歌:SIN+EX MACHiNA「人類滅亡の歓び」(作詞:いしわたり淳治 作曲:HYDE)(Ki/oon Music)
ふうか「体の芯からまだ燃えているんだ」(作詞・作曲:あいみょん)(Ki/oon Music)

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三木聡監督
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