INTERVIEW

竹内涼真

「力を抜いて楽器のように」自身初の死刑囚役で意識したこと:『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』


記者:村上順一

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掲載:23年10月19日

読了時間:約9分

 俳優の竹内涼真が、北川景子が主演を務めるWOWOW『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』(WOWOWオンデマンドで全話配信中)に出演。死刑囚の立石力輝斗を演じる。本作は湊かなえ原作のミステリーで、ドラマ『竹内涼真の撮休』(2020年)で監督を務めた内田英治氏がメガホンを取り実写化。竹内が演じる力輝斗は、妹の立石沙良(演・久保史緒里/乃木坂46)を惨殺、さらに自宅に火をつけて両親も殺害したことを自供し、死刑囚として刑の執行を待っている。15年前に起きた一家殺害事件の“真実”に、北川演じる長谷部香と吉岡里帆演じる甲斐真尋が迫る。インタビューでは、自身初の死刑囚という重い十字架を背負った役をどのような意識で臨んだのか、今年30歳になった竹内の展望について話を聞いた。【取材=村上順一】

立石力輝斗が無意識の中で一番欲しかったものは何なのか?

竹内涼真

――立石力輝斗役のオファーを受けられたときのお気持ち、役へのアプローチはどのように進められましたか。

 このお話をいただいた時、偶然今までしたことのない死刑囚という重い何かを背負っている役を、キャスティングしてくださった皆さんに感謝の気持ちがありました。「あっ、こういう役が30歳のタイミングで来たんだな」と嬉しく思いました。ただ、撮影期間は切り詰めたスケジュールで、その中でこの役にどうアプローチしていこうかと考えた時に、死刑囚、殺人犯というところから入るのではなく、力輝斗が幼い時から無意識の中で一番欲しかったものは何なのか? というのを脚本から抽出した方がいいなと思いました。本来なら狂気とかけ離れた力輝斗が妹を無残に刺し殺して犯人となるのですが、その裏側にあるものはすごく純粋な何かがあるのでは? と考えたんです。

――先日行われた完成披露試写会の時に内田監督が『竹内涼真の撮休』からの3年で変化した、成長したと仰っていましたが、ご自身でもそれは感じていますか。

 3年前とは全然違います。当時よりも引き出しも多くなっているはずですし、この3年間は自分の意識も生活も変化したので、「変わった」と言っていただけたことがすごく嬉しかったです。自分も変えていったつもりでしたから。

――このタイミングで死刑囚役というのも大きい?

 自分がイメージできて心から向き合える作品であればどんな役でもチャレンジしたいと思いますが、すごく信頼を寄せている内田監督の作品だったことが大きかったと思います。

――すごく難しい役だと思いますが、実際やられてみていかがでした?

 学生時代の力輝斗と死刑囚として牢獄に入っている力輝斗の2役を演じたのですが、そのヴィジュアルの変化というのはすごく大切にしました。カツラを作っていただいて自分で調整したりもしました。その中で僕はカツラをつけた自分の姿を見て確認することが大事でした。普段生活をしている中で鏡って見るじゃないですか? 鏡で自分の容姿を見た時に、脳で判断して行動が変わっていくと思ったんです。力輝斗役に関しては撮影日数は短かったので、早く馴染む為にその姿の写真を撮ってもらったり、すごく自分自身に向き合った撮影でした。そうするとだんだんその時の力輝斗の気持ちになってくるんです。

――内田組が大好きだと完成披露試写会でお話しされていましたが、内田監督のどんなところに魅力を感じていますか。

 僕は内田監督と話が合うと思っていて。はじめてお会いした時から話が弾んだので、内田監督が好きなんです。

――ちなみにどんな会話をされるんですか?

 お芝居に関することが多くて、いま世界ではこういう演出や作り方をしているとか、内田監督はすごく詳しいので、僕はそういう話を内田監督から聞くのが好きなんです。また、内田監督の声のトーンが僕は落ち着くんです。その声で演出していただけることで自分の感情と体がリンクするのでリアクションがしやすいんです。また、内田監督の好きなもののセンスとかが僕とマッチしている気がしています。

――今回、内田監督からリクエストやアドバイスはありましたか。

 「力を抜いて楽器のようにいつでもいろんな音を鳴らせるようにできるといいよね」と。久々にお会いしてその言葉を聞いてすごく納得しました。日本人はあまり感情を外にアウトプットすることや、一瞬でバーンと感情を出すことはあまりないじゃないですか? 人の感情が爆発したり、それが表に出るというのは日常的にあまりみないことですが、いろいろな感情のリミッターが外れたところというのはすごく魅力的で。いつでもそこに持っていけるような体の状態を意識すると、すごく演技の幅が広がると仰っていました。

――楽器という表現がいいですね!

 その時の感情が違っていても、様々な音を鳴らせるようにしていれば、その感情に持っていくことができるようになります。ここでこんな風だったら面白いなという時に、気持ちが繋がらなくてその感情に持っていけないというのは可能性が半減してしまう。自分で決めつけて現場に入ってはいけないなと改めて感じました。ただ、自分の意見は絶対持っていなければいけないのですが、本番が始まってカメラが回るまでに色んなヒントが溢れているはずなんです。それをキャッチできないともったいないぞってことなんだと思いました。

――撮影をされていて一番印象に残っているシーンは?

 北川景子さん演じる長谷部香から送られてきた手紙に書かれたシナリオを読むシーンです。あのシーンは感情を出すものと堪える2パターンを撮りました。内田監督から「もっと解放してみて 」と言われて自分なりにやってみました。一見苦しそうに見えると思いますが、苦しかったというよりあれは力輝斗の心の深層に触れてくれた喜びでもあるんです。なぜかと言うと、そのシナリオには力輝斗が見た様々な光景が記されていて、自分の奥底にしまっていたものをいきなり掘り起こされたので、そこにびっくりしているんですよね。

 僕は今回「認めてもらう」というのをテーマにして、力輝斗が一番ほしいものとして演じていたのですが、あのシーンは無意識的にそこに一歩近づけた瞬間でした。やっている時は一生懸命抑えようとしていたのですが、自然と解放されていきました。こじ開けられそうになるのを僕は一生懸命に閉じようとしていたので、あのシーンはすごく疲弊しました。

久保史緒里の芝居はエキサイティング

竹内涼真

――乃木坂46の久保史緒里さんとの共演シーンはいかがでしたか?

 楽しかったです。久保さんが僕に手を上げるシーンがあるのですが、「もっと大丈夫。もっときていいから」と話していました。彼女が過剰に僕を痛めつければつけるほどこの作品は深みが増し、際立つからです。なぜ彼にそこまで当たるのかというのが大切で、やり場のない彼女のむしゃくしゃした気持ちを僕にぶつけないと物語が成立しないですし、彼女の動機がすごく弱くなってしまうと思います。

 僕は葛藤しながらも殻を破って挑戦されている久保さんの姿を見てすごく刺激になりました。アイドルグループでセンターを務めていた中で、アイドルを目指す沙良みたいな裏表のある役に真正面から勝負をするというのは精神的にも体力のいることだと思います。役と向き合っている彼女のお芝居はとても素晴らしかったと思いますし、見ていてエキサイティングでした。。

――演技のアドバイスとかされたりは?

 僕がアドバイスするなんておこがましいです。素晴らしいです。

――逆に相談されたりは?

 撮影中も少し会話はしましたけど、クランクアップしてからちゃんと話しました。いま思うと僕はあのカツラを被っているとあまりうまく人とコミュニケーションを取れなくなっていたんです。髪型や見える視界の広さがその人の性格に影響すると思うのですが、ボサボサな自分を鏡で見ると人とあまり喋りたくなくなるんです。聞かれたことにしか答えたくなくなるといいますか、それも自分から話しかけなかったことに関係しているかもしれないです。

――完成披露舞台挨拶の時に北川さんが、「抑えて」と監督に言われて削ぎ落とす演技をしていたとコメントしている時に、竹内さんはうなずいていましたが、竹内さんも削ぎ落としたり抑えるシーンがあったのでしょうか。

 むしろ僕の役は削ぎ落とすと何もなくなってしまいます。力輝斗は心の中で起こっているものが表に出ない人間だから、そのもどかしさだったり心の奥の方で思っていることを出さない描写が多いんです。削ぎ落とすのではなく逆に加えた描写として、取り調べで僕が机を爪でカリカリ擦っているシーンがあります。僕はそれを自然にやっていたのですが、それを監督が見てくださっていて、その描写を増やしてくれたんです。

――なぜ、そういう行動を?

 本心を言わない人のストレスの拠り所みたいなものはどこかにあると思ったからです。

――さて、たくさんの猫と戯れているシーンがありますが、あの撮影はどのような雰囲気のなか行われていたのでしょうか。

 あんなに猫に囲まれたのは人生で初めてです。あの設定はすごく好きで、誰も力輝斗のことをわかってくれないけど、力輝斗を受け入れてくれるのは猫なんですよね。あのシーンでは力輝斗が一番落ち着いている状態なので、故意的に何も考えていなくて、心をリラックスさせて臨みました。

――力輝斗の純粋さが表れているシーンだと感じました。

 純粋さもそうですが、しゃべるのが苦手、笑うのが苦手、人といるのが苦手というのを表すのは、犬ではなく猫だと思います。猫って基本的に自由気ままじゃないですか? 人に対してフラットに接してくれるのがいいなと思います。
 
――力輝斗と猫とのシーンは心を許すような存在、場所だったと思います。竹内さんは自分の癒しになるようなものや場所はありますか。

 自分で淹れるコーヒーです。

――今はどんなものがお好きですか。

 家に豆が10種類以上あるので、いつも「今日はどれにしようかな」みたいな。すごくこだわってコーヒーを淹れているんですけど、現場に持っていったりとか、自分の好きなコーヒーを皆さんに差し入れしたりもします。内田監督にも飲んでいただきました。

――ちなみにリラックスされるのに音楽は聴かれますか。

 コーヒーを淹れている時はトム・ミッシュとか、トゥー・フィートとか聴いています。コーヒーを淹れている時は、インストの方が良いんですよね。あ、でも最近はサム・スミスも聴いています。

――それらを現場に向かう時にも聴いていたり?

 現場に向かう時はまた違います。その時によって変わるので一概にどの曲を聴いているとは言えないんですけど、テンションが上がる曲を見つけて聴いています。

時間をかけて丁寧に作品を作る

竹内涼真

――さて、30代はこういう役をやっていきたいといった目標のようなものはありますか。

 いろいろな目標はあって、今は30代の今しかできない役を全力でやりたいです。最近、その時の年齢やその瞬間にしか出せないものってあると思っていて。本当に作品、物語を背負える年齢は40歳、50歳を過ぎてからなんだろうなって。そこにいくためには、ただその役をこなしていくだけではなくて、丁寧に役に取り組む習慣を体に染み込ませていかないといけないと思います。

 ずっと成長し続けていると思いますし、自分の価値みたいなものを自分でも高めていかなければいけない。俳優として自分にしか持っていないものを磨いていきたいと思っています。そして、もう少しずつ歳を重ねた時に誰にも負けないものを見つけられていけたらと思っています。

(おわり)

スタイリスト:徳永貴士(SOT)
ヘアメイク:佐藤友勝
カメラマン:福岡諒祠(GEKKO)

Photographs:FUKUOKA RYOJI(GEKKO)

作品情報

「連続ドラマW 湊かなえ『落日』」
WOWOWオンデマンドにて全4話配信中
https://www.wowow.co.jp/drama/original/rakujitsu/

出演:北川景子 吉岡里帆 久保史緒里(乃木坂46) 高橋光臣 宮川一朗太 真飛聖/竹内涼真
原作:湊かなえ『落日』(ハルキ文庫刊)
監督:内田英治
脚本:篠﨑絵里子
音楽:小林洋平
チーフプロデューサー:青木泰憲
プロデューサー:村松亜樹 八巻薫 木曽貴美子
協力プロデューサー:遠田孝一
制作協力:MMJ 製作著作:WOWOW

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