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自身もバンド活動をしていたという三木聡監督が脚本と監督を務めたファン待望の最新作、映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』が12日、公開となった。
察しがつくようにロックをモチーフにしている本作は、驚異の歌声だが“声帯ドーピング”で維持している世界的ロックスター・シン(阿部サダヲ)と、声が小さすぎるストリートミュージシャン・ふうか(吉岡里帆)という対照的な男女が織りなす物語で、おなじみの三木聡ワールドはそのままに、かつての“脱力系”と評された世界観とはまた異なる新たな世界観が刺激的で早くも話題になりそうな予感。
豪華ミュージシャンも数多く参加している本作に三木監督はどういう想いを込めたのか。「ある種、体験=エクスペリエンスを映画にしようと思っていた」と語る三木監督に、今回の「音タコ!」にまつわる話を聞いた。【取材=鴇田 崇】
バンドマンだった
――もともとバンドをしていたそうですね?
そうですね。学生の頃。世代的には、爆風スランプ、聖飢魔II、「踊る大捜査線」の音楽を手掛けた松本(晃彦)さんたちと同じで、僕はキーボードをやっていましたが、才能なかったのでサークル程度で辞めました。世間的にはYMOだのニューウェイブ全盛の時代で、洋楽だとスペシャルズ、メン・アット・ワーク、「ベストヒットUSA」全盛の時代にやっていましたね。
――その時代の想いが、今回の映画に至るまであった、ということで?
ありますね。ジューダス・プリースト、スコーピオンズがいて、ヘビメタはブラック・サバスが源流かどうかなど諸説がありますが、シンという名前はジューダス・プリーストの「Sin After Sin」(背信の門) というアルバム名から取っていたりします。岩松了さんはアタマだけ、ロッド・スチュワートになっています。けっこう気に入っていただいたみたいです。
――映像と音楽は表現の仕方として差がありますが、両方の経験がある方って、その融合を目指すような作業に二の足を踏みそうな気がするのですが、その点は?
たぶん、ちょっとわかっていないからよかったんじゃないでしょうか。不具合や整合性、映画にする上で必要なことが音楽としてはソコじゃないことってあるわけですよ。でも、ちょっとわかってないからこそ踏み込めただろうし、世代的には『シド・アンド・ナンシー』、セックス・ピストルズのドキュメンタリーも観ていたので、『ロッキー・ホラー・ショー』もそうですが、ロック映画の感じってどっかでやってみたい想いがあって、知らないからこそえいやで飛び込めた感はありますね。それとなによりも今回、ミュージシャンの人たちに大いに助けられたってことはあります。
それぞれの読解力で
――本当に超豪華ですよね。
L’Arc~en~CielのHYDEさん、いしわたり淳治さん、あいみょんさん、みなさん全員がそれぞれの読解力で脚本を読み、自分たちなりの感想で音楽を作ってくれました。その意味では、ミュージシャンにすごく恵まれ、助けられました。「あ、確かにそういう解釈できるよね」って思う。何らかのニュアンスで受け取って、それを音楽というカタチで表現してくれた。ちょっとしたフェス状態だとよく言っておりますが、音楽強力ですよね。
――どういう風に声をかけたのですか?
間に入ってくれている音楽のプロデューサーがもちろんいて、その人になんとなくのイメージでリクエストを出していました。マリリン・マンソン的な感じにスティーヴ・ヴァイを足して、フランク・ザッパで割る、みたいな。「は?」みたいなオーダーではあるけれども、それはそれとして「たぶん、このヘンだな」ということは汲み取ってくれるクレバーな方しかいないわけですよ。僕のつたない音楽言語を解釈してくれましたよね。
――それで届く音楽をベースにいろいろ決まっていくわけですよね?
そうですね。脚本はベースにありますが、演出プランは音楽によって決まりますよね。これにプラスして、劇伴もあるわけです。元ゲルニカの上野耕路さんですが、超人的な作曲家で、ハンス・ジマーと仕事をしていた人なんです。『ラスト・エンペラー』の頃、坂本龍一さんと向こうに渡り、いろいろな目新しい機材を持っていたハンス・ジマーのことをエンジニアだと思っていたらしいですよ。すごい個性の曲がたくさんある中で、さらに劇伴を作るという、どっちが浮いてもどっちが沈んでもダメななか、ストリングスのアレンジを入れるなど、トップレベルの仕事をする。上野さんはシーンの感情に合わせて、ちょっとずつ弦を入れたり引いたり、煽るようにティンパニーを入れるなど、綿密に作ってくれるんです。
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