大森靖子「クソみたいな気持ちに本質がある」露呈したエグい感情
INTERVIEW

大森靖子

「クソみたいな気持ちに本質がある」露呈したエグい感情


記者:村上順一

撮影:冨田味我

掲載:18年07月12日

読了時間:約13分

周回遅れの人に会えないかな

大森靖子(撮影=冨田味我)

――「ZOC実験室」はハードに攻めてきましたね。そのZOCとはどういう意味なのでしょうか?

 これはANCHORさんという、昨年リリースした「わたしみ」という曲から携わってもらっているアレンジャーさんが得意なジャンルだなと思ったので、そういうロックな曲を作ってみようかなと思って。「ZOC」というのは“Zone Of Control”の頭文字をとったもので、支配領域、ゲームとかの魔法がかけられる範囲を示す言葉なんです。「ZOC」は言葉の響きや字面も良かったのでいいなと思っていて。

――ゲームをやっている時に発見したんですか。

 いえ、“ゾック”という響きの言葉を探していたらZone Of Controlが出てきたんです。そうしたら意味もすごく良かったので採用しました。

――続いての「REALITY MAGIC」は歌詞で今作のタイトルでもある<クソカワPARTY>と連呼されていますが、これがリード曲ではないんですね。

 そうなんです。ただこの部分で<クソカワPARTY>と言いたかっただけで(笑)。この曲は美しく生きていかないと美しい死などないと思うし、リアリティとちゃんと向き合わないと魔法にはたどり着かないと思うし…。色々とちゃんと本質を追求しないところが多いなと思って、追求する、しないというのは目を背けがちな内容だったりして、自分がこんなしょうもないことしていると思われたくない、細かい感情を自分の中でどれだけ噛み砕けたかの積み重ねだと思っていて、そういうところをしっかり描いていけたらなと思って書きました。

――大森さんのいう本質というのは?

 なんでもそうなんですけど、世の中には本質を追求した、している人と、その追求したひらめきで出来た集団の奴隷となって、追求した人がいなくなったところに面白さを感じて存在している人、それとは全く関係なく過ごしている人の3パターンがいると思っていて…。

――大森さんは本質を追求し真理を追い求めている方にいて、という。

 それが速すぎて誰も追いついてきてくれない(笑)。誰も追いついてきてくれないところで会話しているみたいな。例えば考えていることよりも喋ることや手が動くことの方が早くて。世界はそういうリズムで流転しているから自分もその速度感でいなければいけないのに、でも、そういう人はずっとそこにいるから誰とも係わり合えないんです…。誰か追いついてきてくれないかなとは思っています。

――大森さんは待ってはくれないんですね?

 待たないです(笑)。でも最近一周遅れの世界になら私がいけるんじゃないかなと。周回遅れの人に会えないかなと思っています。

――でも、楽しくないと思いますよ。なにせ周回遅れですから…。

 でも、交わってみたいなという気持ちが最近出てきたので、それもあってちゃんと説明的に歌詞を書いていかないとと気をつけました。

――それで資料のコメントにもあるような“孤独を孤立させないで”という言葉も出てきたと。

 そうです。孤独でいることは大事なことだけど、それを孤立させてはいけないわけです。

――「REALITY MAGIC」ではどのようなことを歌われているのでしょうか。

 例えば戦死者などが埋まっている場所で楽しいお祭りがあっても、私の中では、その痛みや辛さなど歴史を知っている上で楽しんでもよいのでは、というのがあります。知っているから悲しまなきゃいけないというのは違うかなと思っていて。その環境に流されず、今の自分の感情でそこに立つというのが重要なんです。ここで何があったのかは知っているけど、私はここで楽しむんだという意思が必要かなと。それをこの曲を聴いて気づいてもらえたら良いなと思います。ただ浮気されただけの女の曲ではあるんですけど、浮気されたことをわかった上で、全力で楽しんでいるんです。

――例え悲劇があった場所だとしても、そこに感情を重ねて悲しむのではなく、今の感情、例えば楽しかったら楽しんだ方が良い、その方が前に進めるということですね。さて、「GIRL‘S GIRL」なんですがMVは女性が目を布で覆われていますが、これは?

 これは監督さんがこの曲を聴いてイメージして作ってくれたものです。私の中ではもう少し可愛いイメージでしたが、監督はまた違った印象を受けたみたいで。それはそれで面白いから良かったんですけど。最初はほとんど顔が見えなかったんですけど、そこは見えるような画角にしてもらったりはしました。

――面白いですね。ちなみにご自身が女性ということもあるとは思うのですが、女の子のことを歌った曲が多いですけど、生まれ変わっても女性が良いですか。

 どちらでも良いです。どちらかと言えば可愛い服とかを着たいし女の子の方が良いかも知れないですけど。ちなみに私が男性だったらすごいプレイボーイだと思います(笑)。

――女性アイドルが大好きな大森さんですが、興味を惹かれている要因はなんですか。

 面白いじゃないですか。新しいし意味がわからないことを彼女たちは発します。理解が及ばないところに発展していくので、それを追っかけているだけで面白いんです。あとは単純に曲線美とか女の子の方が好きというのもありますけど…。

――その中で最近面白いと思った人はいましたか。

 いっぱいいますね。それこそこの「GIRL‘S GIRL」のMVに出てきた女の子たちも面白かったです。

――そこから楽曲ができたりすることもあるわけですね。

 もちろんありますね。あとは1日に100件ぐらいくるSNSのダイレクトメッセージから曲が出来ることもあります。そこから全力で悲しかったこととか思い出すんですよ。送られてくるメッセージは「どうでもいいよ」と思われかねないことなんですけど、それがその人達にとっては人生最大に辛いトピックなんです。それに対して絶対にどうでもいいとかは言ってはダメで。その人たちは絶対に忘れてはいけないことを教えてくれたり、私が知らないこともいっぱい知っているので楽しいです。

――でも知りたくないこともどんどん入ってきてしまいませんか。

 見なければいいだけだとは思うんですけど、私はいろんなものに触れたいんです。ネットも本も漫画もアニメも同じ情報でも質量が違うんです。なので、いろんなものに触れてバランスを保っています。

この記事の写真
冨田味我

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事