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超歌手の大森靖子が19日、配信シングル「Rude」をリリース。同曲は7月7日にリリースされるセルフカバーアルバム『PERSONA #1』に先駆けて7週連続で配信リリースされる第1弾シングル。「Rude」は東野幸治や平成ノブシコブシ・吉村崇などの著名人から新宿などの街にいる人に声をかけ、 ひたすら街頭インタビューする YouTubeチャンネル『街録ch-あなたの人生、教えてください-』の主題歌として書き下ろされ、メッセージ性の強い一曲に仕上がった。インタビューでは、みんなに聴いて欲しい曲が出来た、と今までとは違う感情が生まれたという「Rude」についてや、『街録ch』を観て感じた人生についてなど、大森にとって音楽とはどのようなものなのか多岐に亘り話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】
芸術でしかやれないこともある
――ツアー『えちえちDELETE TOUR』も半分を過ぎましたけど、どのような手応えを感じていますか。(※取材日は4月下旬)
ツアーはコロナ禍ということもあり1日2部制の公演が多いんですけど、半分しかお客さん入れられないなら2回やればいいんだ、ということで始めました。でも、それは昔から思っていたことでもあって。
――そう思っていたのはなぜ?
100人くらい埋められる人が当時いて、私は10人ぐらいしか入っていなくて、それがすごく悔しかったんです。「だったら10日間やれば同じ100人じゃん」って(笑)。
――間違いない(笑)。
それで今回の1日2回公演にも結びついて。私はライブで長く喋ってしまったり、曲を永遠とやってしまうという病的なところがあるんです。せっかくいい感じでライブが終わったのに、そのあと喋り続けて余韻を壊してしまうという罪深いことをしてしまって。でも、今回のように2回公演で次の開演時間が決まっていると、それもコントロールできるんです。
――意外なメリットですね。
ライブは90分くらいがちょうどいいとロックバンド界隈ではよく言われているんです。それ以上になるとダラっとしてしまうって。私は3時間くらいやりたいんですけど(笑)。でも、2回公演なら3時間観たい人は2回来てもらえればいいんですよね。私も1部の反省点を2部で活かしたり、1部が良ければその新鮮さを2部に持っていくこともできるし。
――結構良いことだらけなんですね。
すごく自分に合っているなと思ったので、お客さんを満員で入れていいようになっても、この2部制は続けていきたいです。セットリストも弾き語りライブではきっちり決めていないので、それもすごく楽しくて。
――その時の気分で。
そうなんです。今日はこの人が来ているからこの曲をやってあげようとか。あの人はこの曲楽しみにしているから今日はやらないで明日やろうとか。
――すごい! ファンの方の好きな曲覚えているんですね。記憶力いいですよね?
そんなに良くないと思いますよ。ただ自分に興味を持ってくださる方は覚えます。ライブをやるということは、自分が一方的に発信するものではなくて、その人の気持ちを音にして返すことだと思っているので、「なんか今日は疲れているな。仕事で何かあったのかな」とか、来てくれた人の状況を把握するのがすごく重要なんです。
――大森さんとファンの方の関係値が良いですね。
でも、ライブに来なくなった人とかもわかってしまうので、それはそれで凹みます(笑)。あと、コロナ禍で思い出したことがあって、昨年から制約がある中で少しずつ有観客でライブが出来るようになったじゃないですか。それで開演時間が早まったりして、仕事の関係でスタートに間に合わない人とかもいたんですけど、コロナ禍以前の対バンライブの時もそういった間に合うか、間に合わないかみたいな時があったなと。それで何とか急いでライブにやってきた人ってすごいエネルギーなんですよね。そのノリを今回久々に感じて、少しずつ生活が戻ってきている感覚もありました。私は生活と結びついているライブが好きなんです。
――残りのライブはどんな意識で臨みたいと思っていますか。
新曲もたくさんあるんですけど、ライブが一番楽曲を成長させてくれるものだと思うので、その気持ちでツアーを重ねていきたいなと思っています。その人の感性やカルマはライブで直接届けないと入ってこない気がしていて、それらを自分が肌で感じて楽曲が成長していくなって。
――人の感性というところで漠然ではありますが、昨今のSNSついてどう思っていますか?。
人の感想をトレースして自分の感想にしてしまっている風潮がよくないと思って。どこか共感性を重んじる社会になってしまっているなって。その他人のコメントが自分のものだと錯覚してしまう子もいるんです。インターネットは嘘も多いですし、それはすごく危ないなと思って。私が誘導することも出来るんですけどそれは違うなと思いました。そうすることでバズりとは遠くなると思うんですけど、自分で考えて欲しいと思っています。自分の感性と向き合うことが芸術と向き合うということで、音楽のある意味だと思っているので。
「Rude」は色んな人の人生を肯定できる可能性がある曲
――さて、今回7月7日にリリースされるミニアルバム『PERSONA #1』から「Rude」を先行配信されますが『街録ch-あなたの人生、教えてください-』というYouTubeチャンネルの主題歌なんですよね。
以前から知り合いでもあるディレクターの三谷(三四郎)さんが始めたチャンネルで、街で歩いている人たちにインタビューするというものなんです。有名じゃなくても、成功した人でもなくても、その人の人生を深掘りするのがすごく面白くて私がファンなんです。それで三谷さんから「主題歌を作って欲しい」と言ってもらえて。不器用だけど憎めない人や悪いことをしてしまったけど、ちゃんとその人の正義があったりして。ある人に対して“社会の闇”とコメントした方がいたんですけど、その人は誰にも迷惑をかけず好きなことをやって生きているので、私は光だと思ったんです。なのでそういう人たちがカッコよく見える曲を書きたいなと思いました。
――大森さんもそういった経験が?
私も「弱者側の音楽」という感じに取られることもあって。でも、私は私が面白いと思う人たちの声をや、まだ言語されていないものを歌っているだけなんです。それが弱者的に扱われることはあるけど、弱者だと自認して生きているわけではないんです。それはなんて素敵なことなんだろう、と歌っているだけなので、それを別の次元に引っ張っていってくれる『街録ch』が生まれたのはすごく嬉しいです。
話せることと話せないことというのは、守るべきものがある人ほど言えないことが多いと思うんです。私は全てを説明することが正義だと思わないし、それが優しさでもあると思っていて。「Rude」は説明しなくても『街録ch』で新しい人生が上がるたびに、この曲が輪郭がついていくような、説明していただける感覚があります。
――ライブで育てるのとはまた違った感覚があるんですね。
『街録ch』で話している人たちのエネルギーを「Rude」は確実にもらっています。私は自分の曲をみんなに聴いてほしいという感覚になることは少ないんですけど、聴くべき人が聴いてほしいとは思っています。そのために曲を広めなければいけないと思うことはあって。でも、今回は『街録ch』のおかげでできた曲ということもあり、色んな人の人生を肯定できる可能性がある曲だというのが、これまでの私の曲とは違うところだと感じています。それもあって色んな人に聴いてほしいと思いました。その中でこの曲を生で聴きたいと思う人の家に行って歌ったりもしているんです。
人の家ってその人の生活が染み付いていて、その人が整えている空間で、そこにお邪魔して音を鳴らすというのがすごく特別で、人と会うことによって自分も曲も育ててもらっているんだなって。自分をいくら深めていってもそれは成長ではななくて、内向的に深掘りしていかないと、研ぎ澄まされた表現は出来ないけど、人と表現を介して出会うことによって、成長はするものなんだなと思いました。
――なかなか面白い企画ですよね。ちなみに人の家に行った時ってどこを見てしまいます?
匂いとか空間をどれだけ空けているかとか(笑)。特に空間の演出は気になって、この家は光の演出が考えられてるなとか。多くの人は空いている空間をどう使うかと考えるんですけど、“空ける演出”という発想にはなりにくいんですよね。自分も空間が空いていると物を詰め込んでしまうタイプで、音楽でもその傾向はあって、ギターソロを聴かせれば良いのにセリフを入れちゃったり(笑)。なので空間を演出できる人に憧れます。
――引き算ができる人ってすごいですよね。さて、「Rude」は大作ですが、最初からこの構成だったんですか。
最初のアカペラパートは『街録ch』用に後から付け足したんですけど、他はそのままです。最近曲を作ると長くなってしまうんですよね。楽曲提供する時は3分〜4分なんですけど、自分の曲の時は情報量が多くなってしまいます。今自分はそういうターンなのかなと思ってます。
――しかも歌詞の繰り返しがないのですごいなと。
なので歌詞を覚える限界が来てます(笑)。他の人の曲の5曲分くらいの歌詞量なんです。だから曲が“重い”とよく言われるんですけど。
――シンプルに物量の問題もあるとは思うんですけど、大森さんの表現方法も意味合いを深くしていると思うんです。僕はたまに他のシンガーの方がこの曲を歌ったらどうなるのか、と想像するんですけど、「Rude」は大森さん以外難しいと思いました。
(笑)。私の曲を他の方がカバーしてくれることもあるんですけど、それを聴いて自分でも「これは私しか歌えないな」と感じる曲もあるんです。「死神」や「シンガーソングライター」、今回の「Rude」もそうだと思っています。
人生を言い尽くさなければいけない
――「Rude」が完成した時はどんな気持ちでした?
基本的に良い曲だと自信を持って出しているんですけど、この曲は依頼主がいたので、気に入ってもらえるかな、という不安がありました。今は三谷さんが気に入ってくれたので安心しています。
――MVもあるんですよね。
MVは東野(幸治)さんを中心にして『街録ch』に出演していた人たちが登場するんですけど、泣けるくらいすごく良いものになっています。
――ちなみに『街録ch』に登場される方で“推し”はいるんですか。
人して好きな人とエピソードが好きな人の2パターンあって、人としての推しは歌舞伎町の天使、白夢ぴくしぃ君です。すごく可愛いいんです。エピソードとしては平塚遺体事件の女の子はすごいなと思いました。
――そういうの観ると人生とはなんだろう? と考えてしまいますよね。
考えます。私は自分で決めたいタイプなんですけど、生まれてきた環境で作られた人格形成だったり遺伝子による性格なんだというのを自分で感じてしまった時の絶望感というのがあって...。人格形成の要因はみんなそれぞれあるじゃないですか。仕方ない部分はあると思うので、そこをどうサバイブしていくか、それを踏まえた上で人生は自分で決める事だと思っています。
――自分ではどうにもできない部分に絶望感があって。
過去を面白おかしく書き換えると、エピソードが増えていくことでどんどん改変していってしまい、それが正しい事になっていくこともあるんです。なので過去は変えることはできてしまうんですよね。でも、自分がこうなってしまった理由や人格は変えられないから絶望を感じてしまうんです。
――さて、歌詞に<僕等はみんな生きているって 小学生から歌っている>とあるんですけど、これは「手のひらを太陽に」の一節ですよね? この曲に思い入れがあるんですか。
私は小学生の時からモノを作る職業に就きたいとずっと思っていました。その中でどんなジャンルのものも表現尽くされているのか、されていないのか、というのが議題としてあって。既にある技法を使って現代社会をトレースすれば良いみたいな、芸術もそうなっているんじゃないかなって思ったり。でも自分の中で「表現されていないこともある」という解答になったんです。「手のひらを太陽に」という曲は言い尽くしている曲だと当時から思っていて、「僕等はみんな生きている」ってそれ以下でもそれ以上でもないじゃないですか。
――確かに。
私はスタンプを集めるのが好きで、朝のラジオ体操に行ってこの曲をよく歌っていたという思い出があります。みんなと一緒に歌うというのは苦手だったんですけど、「手のひらを太陽に」は歌詞に共感しながら歌っていたんです。「Rude」は色んな人の人生を言い尽くさなければいけない曲なので、<僕等はみんな生きている>と小学生の時の考えに戻った感じです。
――ちなみにタイトルは「Rude」以外にも候補はあったんですか。
なかったです。歌中で“ル”で伸ばしたかったんです。なので、“ル”で始まる言葉を探して意味がはまる言葉がちょうど見つかって。
――そんな付け方あるんですね(笑)。
なぜ伸ばしたかったのかというと、高い声も出るというのを見せたくて。私は「大森」でエゴサーチをよくするんですけど、そうするとMrs. GREEN APPLEの大森(元貴)くんも検索でヒットするんですよ。その中で大森くんが「キーレンジが広い」とネットで褒められていて。「なるほど、キーレンジが広いと褒められのか」と知って、私も割とレンジが広いと思っているので、褒めてもらいたいなと思って(笑)。
――はは(笑)。ぜひ注目してもらいたいですね! 最後に、大森さんは歌や音楽とはどのようなものだと今感じていますか。
自分は歌に救われてきたことがあるので、この音楽は自分の事をわかってくれる、だからこの世にいられるという体験が私は沢山あるんです。私はそれに対して恩返しをしたいなと思っているだけなんです。最後の引き金を引くのは自分かもしれないし、手を伸ばすのも自分かもしれない、というのが人と関わるという事じゃないですか。私は音楽がなかったら人と関わらなくなってしまうんじゃないか、と思うくらい音楽は人と関わり続ける意志なんです。なので、私にとって音楽はすごく温もりがあるもの、明日も頑張ってみようかなと思えるものです。
(おわり)
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