「全てのことにガチで向き合う」大森靖子にとって生きることとは
INTERVIEW

大森靖子

「全てのことにガチで向き合う」大森靖子にとって生きることとは


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:22年11月01日

読了時間:約10分

 超歌手の大森靖子が10月26日、メジャー6枚目となるフルアルバム『超天獄』をリリースした。2021年には提供楽曲を含め 80曲以上の作品を手掛け、100本以上のライブを開催するなど、精力的な活動を続ける大森靖子。ドラマ Paravi「来世ではちゃんとします2」主題歌「アルティメット□らぶ全部」(□は白抜きハートマーク)、映画「ひらいて」主題歌に加え、新曲11曲、全13曲を収録。設楽博臣(Gt)、千ヶ崎学(Ba)、張替智広(Dr)、sugarbeans(Pf)の、“四天王バンド”と共にレコーディングし、大森靖子の魅力が詰まった印象的な1枚に仕上がっている。インタビューではアルバム『超天獄』の制作背景から考えていたこと、大森靖子にとって生きるとはどういうことなのか、話を聞いた。

天国も地獄も現世に引きずり降ろす

村上順一

大森靖子

――すごいアルバムが完成しましたね。しかも、昨年は提供曲も含めると80曲くらい制作されていたみたいで。

 ありがとうございます。自分でもそんなに作っていたのかとビックリしています。曲が必要なことが沢山あったんです。それは、ライブの才能がある子がいるけど、所属できるグループがないとか、この子の新曲も作らなきゃと色んな事情が重なって。

――もともと所属していたグループが解散して一人になってしまったり。大森さんは解散というのはないですけど、終わりというものを考えたりすることもあります?

 声が出なくなる、歌えなくなった時が私にとっての終わりですよね。先日、Theピーズのはるさん(大木温之)と2マンライブをやったんですけど、私はこれまで音楽で出会いたいという気持ちを大事にしすぎて、尊敬しているミュージシャンやアーティストに声をかけて自分からアプローチするということをしなかった。私は絶対に行かない派で、そういう状況になるまで行かないんです。

 でも、イノマー(オナニーマシーン)さんの件で、人は亡くなるんだということを改めて感じて、自分から行かなきゃと考えが変わりました。でも、ライブが始まるまでは話しかけたりはしないという、変なプライドは今もあるんですけど。人の命は有限なので、生きているうちにしゃべらないとと思いました。

――本当にそうですよね。明日も会える補償なんて誰もなくて。

 機会損失みたいな。

――大森さんの原動力にもなっていて。

 そうです。私が誰かと会うため、誰かが誰かと会うためだったり。

――人というものが好きなんですよね。

 好きです。特に面白い人、わけのわからなさを与えてくれる人がいいなって。こいつ何言ってんだみたいな。私は正論以外のことを言っている人に出会いたくて。言っていることはめちゃくちゃで仕事としてはムカつくこともあるけど、面白いからオッケーみたいな人ってすごくいいですよね。

――ムカつくけど面白い、興味深いですね。

 例えば私が関わっているグループで、この子はステージに立つセンスはないと決めてしまった子にも、面白いことしてくれたらいいよみたいなことを言ったりします。でも、それを言った時の他のメンバーは「自分がそれ言われたら何をしよう?」みたいな感じで戦々恐々としてましたけど。

――ハードルが高い(笑)。常に面白いことを実践している大森さんだから言えることですね。

 仮に面白くなくてもやるという意気込みだけでもいいんですよ。パフォーマンスからそれがちゃんと伝わってくるので。

――さて、アルバムのタイトル『超天獄』なんですが、この表現の仕方があったかと感銘を受けました。いつ頃から考えていたタイトルなんですか。

 アルバムを作ろうと思ってから思いついたタイトルでした。既にありそうなタイトルだからめっちゃ検索しました。私が見た中ではなかったので良かったです。

――どんな想いがこのタイトルには込められているのでしょうか。

 「死」というのはそこら中にあるものだし、みんないつか死ぬことを恐れていると思うんです。でも、亡くなってしまった人の方が今生きている人よりも多いじゃないですか。死の世界というのは死んだ人しか体験できないようなものではなくて、こちら側が体験できるものとして、死も生きているうちにやり尽くすという感覚を身を持って表現したい。天国も地獄も現世に引きずり降ろした方がいいぞという想いがあります。

――発想がすごい!

 でも、ラジオとか音声だけのコンテンツだとこの文字が伝わらなくて。「超天国」が発売されました、みたいに捉えられてしまうのが難点で、説明する時に『鬼滅の刃』の煉獄さんの獄ですと説明したり(笑)。こういった文字のインタビューはそれが伝わるから楽でいいなと思っています(笑)。

――冒頭のお話にも繋がりますが、死というものをすごく感じているんですね。

 自分も死が近しい時があるだろうし、死んでしまいたいと思ってしまう時も、生きていたら当たり前にあるんです。いま生きている人は死んだことがないから、死んでみたいと思うのも別におかしいことではなくて。でも、戻って来れないというデメリットが大きすぎるんですよね。

――確かに死後の世界、興味ありますね。

 そのデメリットを失くしてしまうくらいの欲動があるとき、死にたいと思うのは悲しい感情だと一見思ってしまうかもしれないけど、それは人間の欲動の一つだと思っています。人はその欲動が勝ってしまう時がどうしてもあるんですよね。私の周りはクリエイターが多いので、そういうふうに感じている人も多いので、今回のような作品が生まれたのかなと思います。

――表題曲の「超天獄」は明るめのトラックに歌詞の内容はダークな部分があって、そのギャップがいいですね。

 まさにその欲動を表した曲ですね。割とそういう時が楽しかったりするんです。でも、ただ「わー」となっているだけかもしれないんですけど(笑)。

――ちょっとした興奮状態みたいな。さて、今回、レコーディングもいつもとは違う感じで録られたみたいですね。

 ほぼ1発録りです。直したい人だけ直すみたいなスタイルでした。

――メンバーもすごい豪華ですよね。

 私がプロデュースしているMAPAの流れもあるのですが、今回収録した「ひらいて」という曲がきっかけで実現したメンバーです。これまでも参加してもらったことがあるメンバーだったのですが、バラバラだったんです。例えば「みっくしゅじゅーちゅ」の時に設楽さん、「Rude」の時に千ヶ崎さんが参加していたり。私のようなボーカルが歌う中で、スピード感、反応がいいなと思う方を全員バンドにしたら面白いよねと、sugarbeansさんが話していて。MAPAの作品の時に結成して、その作品が『四天王』というタイトルだったので、四天王バンドと呼んでいるんです。

――実際一緒にやられてみていかがでした?

 ちょっとみなさん変わっているんですよね。普通ならこういくだろうなというところも、私もそうなんですけどいかない。例えば普通にハネたリズムになりそうなところも、溜めたハネになったり、こういったら気持ちいいよねというところもあえてちょっとずらしたりするんです。それを全員がやっていて、やっぱり私はこのバンドが好きだなと思いました。

全てのことにガチで向き合うこと

村上順一

大森靖子

――高度な技術を要しますから。アルバムが完成して少し時間が経ちましたが、発見や気づきはありましたか。

 いつもならこういう人に届けたい、こういう人に向けて心に刺さるような作品にしたいというのがあって、だからこの音という明確なものがありました。でも、今作は私から生まれたものに対して、これってこういう音だよねという風に作った曲たちなんです。私はいつも作った作品は格好いいと思っているし、自信もあるんですけど、本作がどう届くのかという予見がまだできていなくて。こうやってインタビューで話している時に大丈夫かな?と不安に思ったり。それが気づきですね。

――大森さんの作品は時間が経たないと全貌が見えてこないところもあると感じています。

 そうなんです。1年、2年経って前作の『Kintsugi』がわかってきたと最近よく言われるんです。そもそも他の人より歌詞の文字数も多いですし、データ量も多い(笑)。

――確かに(笑)。本作が完成して、次のフェーズに入ったみたいな感覚は?

 私の場合、段階というよりグルグル回っているだけなんです。輪廻して少しずつ回っているものが大きくなっているのかなと思っています。表現力というところでは、ライブを沢山やってきたので、上がっている自信があります。音だけでも色んな感情を楽しんでもらえるんじゃないかなと思っています。

――大森さんは1年中ライブをやってるイメージがあります。ツアー毎に新しい自分が見えたりも?

 ツアー毎にではなくて、一つひとつのライブで発見があります。毎回違うことをやっているというのも大きいんですよね。同じ曲もやらないですし、曲自体も解体しているので、こんなことも言えるんだとか。

――解体とは?

 自分の曲をマッシュアップして遊んでいるんです。それによって曲で言いたいことが真逆になったり、主人公が変わってしまうこともあるのですが、やっていてめちゃくちゃ楽しいです。あと、マッシュアップのいいところに歌詞を丸々一曲覚えていなくても歌えるというのもあります(笑)。やっぱり頭に浮かんでくるものを歌いたいじゃないですか。

――まさに一期一会のライブになっていて。なんかジャズみたいでスリリングですよね。

 あ、そうか私がジャズみたいな感じだからバンドもそうなのかも。

――それこそ一曲目の「VAIDOKU」は、ウッドベースから入ってきて、ジャズのニュアンスもありますよね。でもプログレみたいな感じもあって。

 私もプログレの認識はありました。

――この曲を1曲目に持ってきたのはすごくクールで、攻めの姿勢を感じました。

 嬉しいです。なぜこの曲を1曲目にしたのか聞かれると困るんですけど。本作の中で一番気に入っています。でも、夫からはこの曲を一曲目にしたことで「売れる気あるの?」と言われました(笑)。私はこれで売れようと思って書いているんですけどね。

――この曲のタイトルもすごいですけど、背景になった出来事があるんですか。

 風俗で働いている女の子がお客さんから、「大森靖子とか聴くの?」と言われたみたいなんですけど、「聴くけど死んでもお前には言わない」って。だから笑顔で「知らないよ」って答えたというエピソードから生まれた曲です。それを聞いて私は可愛いなと思いました。

――ところで「告発」という曲は歌詞のモデルになった人がいますよね?

 います。私がこの曲で言いたいのは、告発した人をみんな信用しすぎじゃないかなと思って。その人のことや裏側もしっかり調べた方がいいと思うし、そういう人側の曲を書いてみました。こんな嫌な女がいるかもしれないぞって(笑)。自分が寄り添いやすくて、世の中の正義とされやすい方に意見がいきがちじゃないですか。人対人のことなので、裏を取らないとどちらがヤバいかわからない。言わない方が言わないなりの正義を貫いていることも多いので、告発している側の嫌な事情を書いてみたいと思いました。

――こういう視点からの表現ができる大森さんってやっぱりすごいなと思うんです。しかも、コンプライアンスギリギリを攻めてくる感じもあって。そんなコンプライアンスについてはどう感じていますか。歌詞、書きにくいなと感じたりとか。

 私の場合、書きたいことは書いてしまうタイプなので、あまり関係ないと思っています。ただ、書いてしまったものに対して後からこれは無理かなと言われることはあるんです。それを別の方法でどう表現出来るかなというのを考えます。ダメだからやめましょうというのは好きじゃないんです。考え直すことはそんなに嫌いな作業ではないです。あとは、なぜこの言葉がダメなのか問いただしてみたり(笑)。それは知りたいところなので。

――制約があってもそれを楽しめるわけですね。さて、「前説ADvance」のMVが公開されていますが、坂上忍さんなど出演者が豪華ですね。坂上さんとはお話しされました?

 私と話して「意外とこういう方なんだ」と仰っていたのが印象的でした。もしかしたら今回、MVで金髪のバキバキの衣装だったからか、もしくは「Rude」の時のイメージもあったと思うので、そのギャップから、そう思われたんじゃないかなと思います。情報が多くて捉えづらい部分が自分にはあるんだなと思いました。対バンとかしても「意外」という言葉をよく言われるんです。

――実際に会うとパプリックイメージと違うみたいな。

 そうです。たぶん、そのイメージが分かりやすい人の方がエンタメ向きなんですよね。

――本作『超天獄』でどんなことが伝わったら嬉しいですか。

 聴いた人が、「私、何にも考えていなかったかもしれないな」と、思ってもらえたら嬉しい。見方を変えたらどんなことでも楽しかもしれないって。でも、それを押し付けることはないんですけど。

――確かに角度を変えたら全然違うものになることもありますからね。楽しく生きている人というのは、そういうことを上手く出来る人なのかもしれないですね。ちなみに大森さんにとって生きるとはどんなことですか。

 かちこむ、全てのことにガチで向き合うことです。例えばコンペとかあるとするじゃないですか、ちゃんと作品を全部読んでからやったり、やれることを全部やって落ちたらしょうがないとなるんですけど、それが出来ていないと後悔するんですよね。とにかくかちこむことが私の生きることです。

(おわり)

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村上順一
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