時代の音は自分が作る、清水翔太 簡単に消費させない真白な新作
INTERVIEW

清水翔太


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年06月29日

読了時間:約10分

アーティストは孤独であるべき

清水翔太(撮影=冨田味我)

――リリックで気に入っているラインがあれば教えてください。

 歌詞は思い付きで結構作っているんです。「Range Rover」なんかは、僕がレンジローバーに乗っているから書いてますし(笑)。あと「alone feat.SALU」には、出身が大阪・八尾市なので<思い出すのYao>という1節。八尾を曲に格好良く入れ込むのは難しいと思うんですよ。そこはチャレンジであり、気に入っているフレーズですかね。

――その「alone feat.SALU」のフックは<俺は一人だよ/俺に頼るなよ>という歌詞が含まれていますが、これは実際の心境なのでしょうか。

 僕は器用だし、優しいので(笑)。大体周りの人を甘やかしてしまうんです。僕は音楽業界の中でほぼ人とつるまずに1人でやってきました。そういう部分をミュージシャンの後輩とかに見てほしい、勉強してほしいと思っているんです。アーティストは常に孤独なものだから、そこから逃げないでほしいという想いがあります。

 自分がやっている事を100パーセント理解してもらうのは無理なんですよ。それが一番苦しいんです。だから自分が歩み寄るしかない。寄れば寄るほど、自分の想いとはすれ違っていく瞬間があったりする。でもそこからは逃げられないんですよね。

――aloneなのに客演がいる、というのも面白い矛盾でした。

 僕が一匹狼で音楽業界の中を生きてきて、仲間ができたと思えたのは最近なんですよ。その仲間のありがたみについては「Good Life」で書きました。先ほどから言っている通り、アーティストは孤独だし、孤独であるべきなんです。誰かと仲良くしていても、作品と向き合った時は誰も助けてくれないし、助ける事ができない。それをお互いが負い合って、関わりあうから格好良いのだと思っています。

 僕はマンガ『賭博黙示録カイジ』などを描いている福本伸行さんが大好きです。『カイジ』の中で、ビルの上の、落ちたら死ぬ鉄骨を渡るシーンがあるんですよ。何本かある鉄骨を1番早くゴールした人が賞金をもらえるんです。そこでは自分以外敵なんですが、恐怖心から段々と仲間意識が芽生えてくるという描写があって。僕はそれと同じ様な感覚を持っています。

―なぜSALUさんを指名したのでしょう?

 SALUには自分の力で発信して頑張っている同世代のアーティストとして、とてもシンパシーを感じています。普段から連絡を取り合って「最近どう?」とか言わなくても、インスタとかで「最近曲出した」という投稿を見るだけで自分も頑張ろうと思える。何も助けてもらえないし、助けてあげられない、そんな中で1人だけど「自分は1人じゃない」と感じられる相手。この曲でもそんな関係性を表現したかったんです。

 どれだけ仲の良い人でも、SNSなどのちょっとした言い間違いで疎遠になってしまったり、今は簡単に間違ってしまう時代。それは虚しいし、悲しいですよ。どれだけ頑張っても全部は伝わらないですし、伝わってた事もちょっとした事で価値を無くしてしまう。消費されていく音楽もたくさんあって、自分のアーティスト生命や才能もいつまで続くかもわからない。そう意味でミュージシャンは儚い職業ですよね。一瞬の輝きとその裏にある孤独を感じます。

――これまでのキャリアで、ライバルに蹴落とされる恐怖や心配があったりも?

 『カイジ』でも前の相手を押したりできます。でもそれができるのは低い鉄骨を渡っている時までなんですよ。それは練習で、本番はビルの上。そこで押したら本当に人を殺すということですから、なかなか押せない訳です。

 僕も最初は誰より早い自信があったので「余裕じゃん」と思っていました。「押せるなら押してみろ」くらいの気持ちでしたね。でも年数を重ねて、芸能界や音楽業界を生き抜く厳しさを知りました。デビューした時は若かったので怖い物知らずしてたけど、怖さも感じる様になって。そうしたら「あいつも頑張っている」と思える様になるんですよ。

――誰かに嫉妬を覚える事もありませんでしたか。

 それもなかったですね。今までした事がないかもしれないです。例えば、自分より前に行く人がいたら「僕が持っている恐怖心を越えていった」という事ですから。そういう人にはリスペクトを覚えますし、一緒に音楽を作ってみたいですね。

 それこそSALUもそうだし、KEIJU(as YOUNG JUJU)やIO、(青山)テルマもそう。自分にないものを持っていて、自分が怖くて行けない所に行ける人はリスペクトしてます。

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