宇多田ヒカル「今も昔も変わらない」普遍のテーマ「繋がり」
INTERVIEW

宇多田ヒカル

「今も昔も変わらない」普遍のテーマ「繋がり」


記者:編集部

撮影:

掲載:18年06月27日

読了時間:約10分

“遊べた”気がする

「初恋」ジャケット

――「Play A Love Song」の英語の差し込み方からは、『Fantome』以前のポップさが思い出されました。

 自分でも久々に言葉の響きや語呂遊びで“遊べた”気がします。白洲正子さんの『名人は危うきに遊ぶ』というエッセーが昔から好きなんですが、私は“遊び”という言葉が“余裕”という意味で使われていたというのをその本で知ったんです。例えば紐を緩めることを「遊びを持たせる」と表現するじゃないですか。今回の自分の作風や気持ちって、それに近いというか。着物の帯をちょっと緩めて、息を深く吸うような感じで詞曲に臨むことが出来ました。

――ゴスペル隊のコーラスも気持ち良いですね。

 「Goodbye Happiness」ではケルトのコーラスの方々にお願いしましたが、今回はゴスペルの方々に。エンジニアのスティーブ・フィッツモーリスが、サム・スミスとの仕事で頼んでいる方々をセッティングしてくれて、イメージ通りに仕上がりました。レコーディングも賑やかで面白かったです。

――「初恋」は、『花より男子』の続編テレビドラマ『花のち晴れ〜花男Next Season〜』のイメージソングです。

 『花のち晴れ』の原作を読んであらためて気付かされたんですが、神尾葉子さんの作品は、一見、恋愛が繰り広げられる学園もののようで、実は年齢性別を問わない社会や他者との関わり方や、本質的な意味での自分との闘いのプロセスが描かれているんですよね。私、本来、少女マンガってあまり得意じゃないんですけど、神尾さんの作品はだから好きなんだなって。それに気付いたら、曲も歌詞もどんどん膨らんでいきました。

――「あなた」は、映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』の主題歌でした。

 原作のマンガを読んでイメージを膨らませていくうちに、もしも私がいま死んでしまったら、この世に思い残すことは何だろう?と考えたら母親目線が現れてきて、いわゆる“母から子へ”みたいな曲がたまにはあってもいいのかな?という気持ちになりました。でも、ラブソングにも聴こえるし、恋人間や夫婦間の歌ともとれる歌詞だと思います。

――「誓い」はゲームソフト『KINGDOM HEARTS III』のテーマソングです。

 『Fantome』のリリースからまだ間もなかった頃にオファーをいただいて書きました。『Fantome』が完成した直後は、「いろいろ出し切った。もう抜け殻だ。何もない!」と思っていたんですが、「誓い」を作り始めたら、「あれ、何かまだまだというか、むしろたくさん湧いてくるぞ?」って(笑)。そこから畳みかけるような勢いで、「大空で抱きしめて」、「Forevermore」、「あなた」がどどどっと作れました。ものすごく意欲的なモードで、ちょっと自分でもびっくりしましたね。

――今回の参加ミュージシャンは全員海外勢ですね。なかでもクリス・デイヴ(※編注=アデルやエド・シーラン、ディアンジェロの作品に参加)が大半の曲のドラムを叩いています。

 「誓い」という曲の一部が『KINGDOM HEARTS III』のトレーラーで公開された時、「リズムの取り方がわからない」、「どういう拍子だか理解が出来ない」という反応が多かったんです。私自身は、ごく普通で単純な、心地の良い6/8拍子のつもりだったんで、それはとても予想外な反応でした。それであらためて、自分がすごくスウィングを付けていることや、そこに細かく刻んだハイハットがさらにノリを複雑化させていることや、ドラムとピアノが溜めたり突っ込んだりしていることが、実は独特なノリで、誰にでも感じられるものではないんだなと気付かされました。ドラムがクリスじゃなかったら、この曲は成立しなかったかもしれない。「Forevermore」もそうでしたね。私一人のプログラミングで済ませていたら、決してここまでの熱量にはならなかったと思います。売れっ子だから無理かな、と思いつつ声をかけてみたら、快く引き受けてくれて。他の人はみんなヨーロッパ勢でしたが、彼だけ毎回アメリカから駆けつけてくれました。

――「Forevermore」は、テレビドラマ『ごめん、愛してる』の主題歌でした。

 ドラマのプロットに描かれていた、母親との関係における愛であり謎のような部分に共感しました。大人になってからもその謎が残ったままであるせいで、ただ「好き」というだけではない、複雑な感情がドラマの根底にあった。だから〈愛してる、愛してる〉と言う一方で逆説的な表現をしてみたり、悲しい歌なんだけど、何かを宣言しているような力強さも持たせました。

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