INTERVIEW

井上芳雄

音楽で色んなものが表現できる。
ミュージカルの醍醐味


記者:木村武雄

写真:

掲載:18年06月05日

読了時間:約13分

歌唱力の極論は恵まれた声帯

――司会を務めるジョシュ・グローバンはどんな俳優であり、歌手ですか?

 「野球でいうと大谷さん(大谷翔平=MLBロサンゼルス・エンゼルス投手)みたいな人ですね。天性の声を持っていてデイヴィッド・フォスターに見い出されたのかな。僕は(大学が)声楽科だったので分かるんですけど、歌って極論を言えば、どんなに素敵な声帯を持っているかが全てなんですよ。悲しい言い方をしたら持って生まれたものが全てで、もちろん歌い方で上手くなることはありますけど、そういう意味では彼は持って生まれた楽器が素晴らしい。たぶんオペラ界に行ってもスターになっていただろうし、あまりにも声が良くて歌が上手いから、放っておいても歌手になっていただろうなと。僕からしたらナチュラル・ボーン・シンガーみたいな人です」

 「彼の場合ドラマにも出ているんですけど、以前からこの世界に興味があるんだと思って見ていました。特に『グレート・コメット』(ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812)はバンバンと歌いまくる役ではないんですよ。太ってひげが生えていてかっこいい役ではない。でも、それを見た時にお芝居も本気でやろうとしているのが分かって。歌ももちろん素晴らしい。だから二刀流、それで司会もやるというんだから三刀流で。思った以上で貪欲な人なんじゃないかと。温厚そうな人なんですけどね、色んな事に挑戦していく人なんだと思いました。僕もそうでありたいなというシンパシーを感じながら見てます」

――ジョシュ・グローバンのような生まれ持った声帯を持っている方は日本でいますか?

 「盲目の歌手の新垣勉さんですかね。なかなか日本人ではああいう声を出せる人はいないんですよ。骨格が違いますから。そもそも胸板の厚さが違うじゃないですか。なので、アメリカなど欧米の作曲家が作ったものを僕たちが歌うのは大変なんです。キーも高かったり、パワフルさも必要だったり。そういう意味ではハンデもありました。日本には歌が上手い方はいらっしゃいますけど、ミュージカル界では言えば今井清隆さん。今井さんは凄いと思います」

 歌手でもある井上。その歌唱力は定評がある。2016年には東京国際フォーラム・ホールAで、ディズニーの名曲を歌うコンサートをおこなったが、1回公演で30曲以上歌った。当時、ある番組の密着取材で、曲数が多い中で歌唱力を維持させるために声帯を使い分けるとの趣旨を語っていたが。

――過去に声帯を使い分けるという話もしていましたが、工夫している点はありますか?

 「実際にはそういうことは体の構造上できなくて、そういうふうに意識はしているということですね。ただ喋る声と歌の発声が違っていて、歌の声で喋ると不自然になるんです。歌を歌っている分には喉は消耗しませんが、セリフも言って歌も歌って、それにミュージカルだと叫んだりもすることも多いですから喉は消耗するんです。そこの兼ね合いが難しくて」

 「例えば怒るセリフは(語気を強めて)本気で『なんだこのやろう!』と言いたいけど、本気でやるとその次が歌えなくなってしまいますから、そのギリギリの線でやる。ここまでは歌えるけど、これを越えちゃうと歌えないというところを。これは身をもって学ぶしかないんですけど、そこのせめぎ合いは今でもあります。でも気持ちが乗ってしまって叫んで歌えなくなってしまうこともあります。ミュージカルをやっている人間としては難しいところですね」

――最後にどの作品が受賞されると思いますか?

 「ミュージカルを見ていないので難しいのですが、流れからすると『The Band's Visit』(邦題=迷子の警察音楽隊)だと思います。映画は派手な内容ではありませんが、エジプトの警察音楽隊がイスラエルに行くというあのグローバル観、宗教観、それをアメリカでやっているというごちゃまぜな感じに意義があるというか。賞はそういうのが評価されるのではないかと思います。

放送概要

「生中継!第72回トニー賞受賞式」(同時通訳)
6月11日(月)午前8時 WOWOWプライム

トニー賞直前SP in NY
6月10日(日)午後3:30 [WOWOWプライム] 無料放送 
出演:井上芳雄、生田絵梨花、坂本昌行 他

6月16日(土)夜7:00 [WOWOWライブ]
第72回トニー賞授賞式 (字幕版)
詳しくは特設サイト ⇒ http://www.wowow.co.jp/stage/tony/

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