確かな物に辿り着いた、彼女 IN THE DISPLAY 覚醒のメジャー作
INTERVIEW

確かな物に辿り着いた、彼女 IN THE DISPLAY 覚醒のメジャー作


記者:長澤智典

撮影:

掲載:18年05月30日

読了時間:約14分

 5人組ロックバンドの彼女 IN THE DISPLAYが5月30日に、TRIADからミニアルバム『get up』でメジャーデビューする。これまで、理想とする音楽を追及するため試行錯誤を繰り返してきたが、今作では本来の姿を投影させるため「純粋でやりたいことをやった」という。そこで得られたのは「確かなものにたどり着けた」という意識と「バンドの背筋をピンと伸ばしてもらえた」という、いわば覚醒だ。そんな彼らにとって重要な位置づけとなる今作について、RYOSUKEと海 THE KIDに思いを語ってもらった。【取材=長澤智典】

変化を求めるよりも、僕ら自身の本来の姿を投影しよう

――彼女 IN THE DISPLAYの楽曲はどれも、エッジが鋭くラウドな音を勢い良く突きつける体感的な衝動を感じます。同時に、RYOSUKEさんの書く歌詞や歌声からは、自分の心の内側から突き上がる熱い衝動やジレンマ、葛藤さえも糧に未来へ突き進もうという強い意志など、とても生々しい心の揺れも感じます。

RYOSUKE そういう気持ちがあると言えばありますね。今年で活動9年目なんですけど、それまでの日々の中でジレンマや葛藤が多かったので、そういう気持ちが出ているかもしれないですね。

――どの歌詞も鋭いけど、刃先は尖っていないというか意外と丸みがあるように感じます。言葉は痛く突き刺すけど優しさを隠し持っているというか。それは、RYOSUKEさんの人間性が表れているんじゃないかと。

海 THE KID そういう面は、かなりあるかも知れないですね。そこはRYOSUKEの歌詞や歌に限らず、メンバーらの演奏もそうです。確かにバキッとした楽曲たちかも知れないけど、それを形作っているのはどれも感情をダイレクトに投影した演奏や歌声。もちろん、演奏面における技術的な面などで格好良さやエモーショナルな面を出すことも心掛けています。でもそれ以上に、人間性の伝わる楽曲や演奏をしていくことを、このバンドでは何よりも大事にしています。

――その姿勢は昔から変わらず持ち続けているのでしょうか?

RYOSUKE 表面上での変化はあっても、芯となる部分は何も変わってないです。ただ、今回のミニアルバム『get up』を作り上げたことで、改めてバンドが持っていた初期衝動を思い出せたのは確かにあると思います。

海 THE KID 『get up』を作り上げたことで、メンバーの関係性も、ライブのやり方もすごく良くなってきています。

――メジャー進出という環境の変化も、バンドの意識に影響を及ぼした要因の一つになっているのでしょうか?

RYOSUKE メジャーへ行ったことで新しいチームができたわけですし、メンバー全員が音楽に集中できる環境を手にすることが出来たのは大きいですね。そういう面での変化もプラスに作用していて、確実に変わったと思います。

――「完全D.I.Y」でやっていた頃は、すべてをメンバーだけでハンドリングしなきゃいけなかったわけですもんね。

海 THE KID そこなんですよ。もちろん、やりたい音楽や持つべき姿勢はしっかり見えていますけど。バンドを前へ進めてく以上、対外的な人との交渉など、音楽をしていればいいだけではなく、いろんなやるべきことがあるので。そこで悩むことはけっこう多かったですね。

RYOSUKE そこは主に、リーダーの海さんが悩んでいたことで、その辺の考え方の差が、俺ら他のメンバーとの気持ちの差というか、ギャップとして出てくることもありました。正直、分かり合いたくても分かり合えない時期もありました。でも今は、対外的な面が軽減されたので、メンバーみんな見てる景色はだいぶ近くなりましたね。

海 THE KID 今、描いてるイメージは、メンバーみんな一緒というか、かなり近いなと思っています。

――バンドが前へ突き進む以上、ただ曲を作ってライブをやればいいわけではない。そのライブをやるにも、場所を確保しなきゃいけないし、先へ進むための展開も描かなければならない。そういう面でも、誰かしらバンドを引っ張る先導者は必要ですからね。

海 THE KID そうなんです。ただ、何事においても気持ちの共有は正直難しい。たとえば、メンバーと一緒に同じライブを見ていても、それぞれ見ている視点や受け止め方が異なっていたんだけど、今は、全体を俯瞰して捉える大切さをメンバー全員が共通認識として分かっている。だからこそ、そのライブの捉え方も。作品を作るうえでのイメージの共有も、めちゃくちゃ早くなりました。

――その変化の兆しは、前々から見えていたことだったのでしょうか? それとも、今回がきっかけだったのか。

RYOSUKE 俺らはずっと変化を繰り返してきたバンドだと思うんですよ。ただ、今回の『get up』を作ってく中、変化を求めるよりも、僕ら自身の本来の姿を投影しよう、改めて純粋にやりたいことをやってみよう。その姿勢で作ったのが、収録曲の「KVE」でした。この曲を作ったことで、本来の姿というか、自然体で楽曲制作へ向かったほうがバンドにはすごく馴染むことを、メンバー全員で確認することができました。バンドのやり方として、自然体で音楽へ挑むほうが輝けるのは強く実感しています。

――前ミニアルバム『GOLD EXPERIENCE REQUIEM』をきっかけに、彼女 IN THE DISPLAYの楽曲が、よりエッジ鋭く音が際立った印象を受けています。

海 THE KID 確かに、その頃から音の際立ち方はガラッと変わりましたね。

RYOSUKE 前々作『JAPANESE ORDER』の頃から、僕らもいろいろ音楽面で試行錯誤をして、そこから4、5年はわりと模索しながら進んできました。でも、ようやく今、確かなものにたどり着けたという意識は持っています。

――そうなれたのも、バンドに対する向き合い方が変わったからなのでしょうか?

RYOSUKE そこは単純に、「楽しくやりたい」が一番にあるからじゃないですかね。試行錯誤を繰り返していく中、気づかないうちに、バンドを嫌いになりそうになる自分もいたんですよ。もともと彼女 IN THE DISPLAYは、メンバーお互いが好きで、そのうえで音楽が大好きで始めたバンド。その純粋な気持ちを大切にしていた頃が何よりも一番楽しかった。それを取り戻せたことが大きかったんじゃないかな。

海 THE KID そこへ至るまでには、いろんなものを見過ぎるあまり、それを懐に取り込んでみたり、いろんな遠回りをしてきました。でも、一度「今の自然体で演ってみる」。つまり、取ってつけたようなことは排除して、もともと自分たちの中にある純粋に音楽的な衝動のみで楽曲へ向き合ってみようと。その姿勢で曲制作へ向かったら、すごくナチュラルにできて、演奏にも向き合えるようになりました。それこそ、「俺たちはロックバンドなんだから、無理やりなMCはなくていいんじゃないか」など、そういう風に考えるようになったら、すごく綺麗にシンプルにこのバンドがまとまったというか…。余計なものを削ぎ落とした結果、大切なものだけが見えてきて分かりやすくなったんだと思います。

RYOSUKE 遠回りし、削ぎ落とせた。その工程があったからこそ良かったなと今は思えてます。

――純粋に衝動で作りあげた「KVE」は最初に作った楽曲なのでしょうか?

海 THE KID これが最後なんですよ。『get up』へ収録する6曲中の5曲が見えたとき、サウンドプロデュースをしてもらっている江口亮さんに「バンドみんなでただただ好きなことを演奏してみたら?」とアドバイスをいただいて、「じゃあ、1回セッションで、やりたいことだけを互いにぶつけてみよう」と始めたら、ものの10分くらいで曲が出来上がり。それを聴いたら、めちゃくちゃ勢いが出ていて、すごく格好良かった。純粋に衝動だけを詰め込んだ良さを、自分らも「KVE」から感じられました。

――「KVE」の歌詞には、食らわせろインディペンデントの魂と歌いながらも、ほっとくと手の届かない存在になるよという想いもぶつけている印象もありました。

RYOSUKE ちょうどその頃は歌詞を書くスランプ時期で、めちゃくちゃ頭がおかしかったんです。というか、何を書こうとしていたのかの記憶があまりないですね。人間、ものすごい痛みとか、思い出したくない記憶があると、脳が忘れさせようとするじゃないですか。たぶん、それが起きてます(笑)。

海 THE KID それまで絞りに絞ったうえで、その最後の一滴を「KVE」の歌詞に詰め込んだからね。以前のRYOSUKEは、こう書いたほうがファンが喜んでくれるんじゃないかということを考えすぎて頭が爆発するみたいな感じだったけど。今は、もっとシンプルになれているような感じがします。

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