ゆらゆら揺れる会場

撮影・熊谷直子

撮影・熊谷直子

 さて、ギターを置いて珍しくクラップしはじめたカミンは「ついてこれるかな」とぼそっと言うと、無言でついてくるフロア前方。従順である。カミンは直立ハンドマイクでステージ前方まで歩み寄る。突如のブレイクからギターソロでエンディングへ向かう。

 さらにカミンの歌と静かなギターで演奏が続く。ベースの高めのアルペジオが良い感じに響く「サンセットガール」。Aメロに戻るエンディングで心にぽっかり穴を空けられた。続く「あたまいたい」。ベースのマイナー調リフが回されてから、ミディアムなテンポでカミンが入ってくる。カミンの声が抜けて聞こえてる様な高めのメロディラインのサビ。特に裏声域に歌が到達するところは聞き惚れる。

 ここでMCが挿入された。「ニューアルバムの唯一のダンスチューンをお届けします。ここで踊らないと踊らずじまい」と言って繰り出したのは「嫉妬」。正直ここで食傷である今時ロックバンドな高速4つ打ちチューンをあてがわられたら、折角高まったこの気持ちも覚めてしまうだろうなと若干緊張した刹那。始まったのは昔のディスコくらいの速さで進む緩い4つ打ちチューンだった。ギターのワウが効いたカッテイングもナイス。彼らの時代の匂いを感じる嗅覚にとても嬉しくなる。

楽しさにある未来への儚さ

撮影・熊谷直子

撮影・熊谷直子

 楽曲はサビのメロディがバスドラムに重なる様な構造になっており、とても気持ちいい。最高だ。ゆらゆら揺れる僕ら。またも最高だ。

 でもメジャーデビューしてこの才能がどんどん世に知られてしまえば、このゆらゆら揺れるスペースも無くなるのだろうかと考えると少し悲しい。演奏後「そうだねえ、あの歌詞で踊れっていうのも申し訳なかったな」と短くカミンが笑いをとったので、「いやいやいや全然踊れたんだけどね」とテレパシーでツッコミを入れておいた。

 さらに「今日はニューアルバムの曲全部やります。全部受け取って頂戴よ」と続けてから投下されたのは「ハロースター」。ギターを置き、マイクをホルダーに差し込んだまま右手を添えて歌いあげていくカミン。突っ込んだリズムで進行していくサビでは見合わせながら、ぴたりとグルーヴする楽器隊。テンションが積みあがるにつれて、左手も添えられたカミンのマイクにさらけ出された感情が増々込められていく。ベースの余韻が少し残ってエンディング。拍手が起きた。

 「ランドセルカバー」。そのまま、両手を空けたまま歌うカミン。じっと見守るオーディエンス。やはりその場にいたほとんどが熱狂というよりカミンの世界にどっぷりと浸っている。ギターソロ後、歌だけになるブレイクがあってからバンドが再合流。シンプルなメロディが彼女の声と感性というフィルタを通って増幅される。

正気を奪われた観客

撮影・熊谷直子

撮影・熊谷直子

 そのまま「くだもの」に繋がる。クリーンのギターと独特な歌詞で惹きつけるイントロ。「あの子の体を殴った」というパンチラインで文字通り殴られた様にはっとしてから、すかさずバンドがインして展開していく。ギターが小刻みのフレーズでスカスカなサウンドをつくるBメロがメリハリを生んでいた。珍しく人差し指を立てて歌ったカミンは終盤マイクをホルダーから引き抜いて、バンドの音に腕を振って音とシンクロする。楽しそうだ。

 もはや「早いもので次の曲が最後になります」という儀礼をカミンが口にしても「えー!」とさえ言えないオーディエンス。バンドの作りだした世界観から出てこられないでいるのだろうかと心配したが、続く曲紹介後に歓声がわいてちょっと安心した。

 歌いだしたのは「バタフライ」。驚いたことに彼女はギターを鳴らしてのピッチ確認などせずにアカペラでイントロを歌いきる。バンドイン後も凝ったアレンジを見せてくれた。最後のサビは何度もリフレインして盛り上げてから、ギターのオクターブ奏法でキャッチーなラインを紡いで本編は終わりに着地。

 「ありがとうございました」とステージから去ると、当然アンコールが沸く。少し間を空けて再入場するカミンはじめ、バンドメンバーたち。すると唐突にベース・上野恒星がMC。オーディエンスからも笑いが起きる。カミンよりもだいぶ流暢に物販の宣伝MCをしたが、マイクは不馴れだと語る。それを横で見ながら笑うカミンがチャーミングだった。

彼女達の後ろ姿

撮影・熊谷直子

撮影・熊谷直子

 そして始まったアンコールは3拍子系の「生命線」。個人的にはドラムのフィルインに心踊った。サビは同じモチーフを4回繰り返すのだが、往復する度に何かが積み上がって僕らに迫ってくる。エンディングの急なブレイクもセンスが冴えていた。

 セットリストを締めくくったのは「なくしもの」。マーチ風のドラムから空間系な音外れのギターが入ってくるイントロ。そして静かに歌い始めるカミン。残響の残る声で歌い上げるサビはとても壮大で宇宙的。エフェクターをいじくり回して音を増幅させていくようなギターソロも面白かった。静的ながら押し殺したような盛り上がりをつくりあげていって、最後は爆音まで持っていく。余韻を残しながらこの夜のライヴが終わりを迎えた。

 「ありがとうございました」と告げて、さっと去っていく彼女達。果たしてメジャーデビューで彼女達を取り巻く状況はどう変わる。それをドキドキしながら見守りたいが、できることならまた良好な状態で聴きたいものである。(取材・小池直也)