女性シンガーソングライターのedda(エッダ)が5月23日に、EP『ねごとの森のキマイラ』をリリースする。絢香や家入レオを世に送り出した福岡の音楽塾ヴォイスでの経験を経て2017年に活動開始。本人が描くイラストを含め、独自の世界観を持った歌詞と楽曲がインディーズ時代から話題になり、昨年10月にシングル「チクタク」でメジャーデビュー。メジャー2作目となる本作には、Coccoが作詞作曲で参加した他、detune.やササノマリイが作曲・編曲に参加、たまの「さよなら人類」のカバーを収録。edda独自の物語的な世界観はそのままに、表現の幅が広がった大人のための絵本のような作品に仕上がった。今作について「自分の世界観が壊れそうで不安もあったけど、自分だけでは生まれなかった表現をすることができました。とてもパワーのある作品になったと思います」と話すedda。インタビューから、彼女の世界の広がりと成長が感じられた。【取材=榑林史章】
自分にとって意味のあるEPになった
──『ねごとの森のキマイラ』というタイトルは、どんなイメージで付けたんですか?
今までは自分で作詞作曲をしたものを歌ってきたのですが、今回は曲とか詞曲を提供していただいたり、カバーを収録したりという形で、いろんな方とコラボレーションさせていただいて1つの作品を作っています。キマイラというのは、ギリシャ神話などに出てくる架空の生き物で、頭がライオンで体が羊でといくつもの動物が合体してできているので、キマイラのようにいろんな人が参加してくださって1つの作品ができているというところで、まずキマイラとつけました。
「ねごとの森」ですが…今回の曲は、どれも夢の世界なのか現実の世界なのか、この世なのかまったく違う世界なのか、ゆらゆらとした実態のない、何かと何かの狭間の物語を歌った曲が多いんです。それで、寝ているときと起きているときの狭間とかゆらぎをイメージして「ねごとの森」とつけて。実際の森というよりは、たくさんのものがある空間といったイメージです。ねごとという空間にいるキマイラさんみたいな(笑)。eddaの音楽の世界は、絵本のようなものを目指しているので、絵本ぽいタイトルにしたいと思って、『ねごとの森のキマイラ』と付けました。
──今作では、どうしていろんな人から曲や詞曲を提供してもらおうと?
きっかけはスタッフからの提案でしたけど、自分でもedda一人ではできないものができるんじゃないか、新しい発見があるんじゃないか、と思いました。でも最初は、すごく不安と抵抗感があったんです。今まで自分一人で作り上げてきた世界観が、崩れてしまうんじゃないかと。それで実際にやり始めたら、本当に自分だけでは表現できなかった世界が表現できたし。結果として、自分にとってすごく意味のあるEPになりました。
──1曲目の「グールックとキオクのノロイ」という曲は、detune.の郷拓朗さんが作曲とアレンジを担当している。
detune.さんは、アニメ『Peeping Life』の音楽を担当していらして、変拍子だったりわざとコードから外れた音を使ったり、独特な楽曲が多くて。まるで魔法がかかったような音楽をたくさん作っていらして。高校生のときに出会って以来、今も敬愛してやまないユニットです。私の音楽もdetune.さんから、とても影響を受けています。その郷さんに作っていただけたのは、本当にうれしかったです。
──作品は絵本のようなものをイメージしたとのことですが、「グールックとキオクのノロイ」は、どんな物語ですか?
かぐや姫をモチーフにしています。物語の主人公=グールックは、月に行って地球での記憶を消されて、地球に大切な人を残してきたことも忘れてそのまま生活を送るのですが、少しずつ地球で大切な人と過ごした日々のことを思い出していく。でもそれが本当にあったことなのかわからないので、友だちに話すと「それは呪いだよ」と言うわけです。でも本人は「こんな素敵な気持ちが呪いなわけがない」と思い、真実を求めていくというお話です。真実に振れる前の緊張感やザワザワ感、ゾクゾク感みたいなものを表した曲と言えば、わかってもらいやすいかもしれませんね。
──グールックは女性なんですね。
はい。モデルは祖母で、祖母の名前が幸子なので、ドイツ語で幸せを意味するグルックという言葉を元にして付けました。郷さんには、そんなストーリーや設定などをすごく長い文章で送って、相談しながら一緒に作っていった感じです。
──「夢のレイニー」は、ササノマリイさんが作曲とアレンジ。
これは郷さんとの作り方とは違って、曲とアレンジがすべてできあがったものを送っていただいて、それを聴いて歌詞を書いて歌いました。これは、自分がよく思うことなんですけど…夢は記憶の再生で、経験も体や脳が記憶していることで、つまり夢も記憶している限りは実体験と同じだ、と。
この物語は、主人公が夢のなかでレイニーという女の子と出会い、レイニーのことを忘れないように、心に焼き付けるための冒険を夢のなかでしていく話です。でも結局、朝起きたら忘れてしまうんですけど、「ああ〜忘れちゃった」と思った、その気持ちだけでも覚えておきたいなと歌っています。
──レイニーも誰かモデルが?
映画『世界の終わりのいずこねこ』に、レイニーという女の子が出てくるんです。そのレイニーのイメージではなくて、その役を演じていた緑川百々子ちゃんの外見が、私の曲に出てくるレイニーに近くて。それで「夢の百々子」というタイトルではちょっと物語には合わないので、「夢のレイニー」にしました。