メロディが歩いて行く、GLIM SPANKY 最初の種が生み出す奇跡
INTERVIEW

メロディが歩いて行く、GLIM SPANKY 最初の種が生み出す奇跡


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年05月04日

読了時間:約15分

 オーセンティックな音楽を追求する松尾レミと亀本寛貴によるロックユニット・GLIM SPANKY。5月12日に開催される日本武道館公演に向けて順調に活動を重ねる2人が、1月リリースの「愚か者たち」に続き、5月9日に通算4枚目となるシングル「All Of Us」をリリースする。今作はseason2に続いて内藤剛志主演の人気ドラマ『警視庁・捜査一課長 season3』(テレビ朝日)の主題歌に起用。EDで流れるということもあり1日の終わりを温かく、次の日を「頑張るぞ」と思えるような、近くにいる人を愛することをテーマに制作。サウンド面についてはマスタリングを今までの米・ニューヨークからイギリスへ実験的に変更したといい、それによって今作が求める理想的な低音が作り出せたという。作曲に関しても「メロディが勝手に歩いて行く奇跡」と話す今作の制作背景について2人に話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=片山 拓】

“最初の種”が重要な作曲スタイル

松尾レミ

――今作「All Of Us」はドラマ『警視庁・捜査一課長 season3』の主題歌です。season2に続いてとなりました。

松尾レミ 曲を書かせていただいてありがたいです。まずはプロデューサーのみなさんとお会いして、ミーティングをしてから書き始めました。ドラマ側的には「GLIM SPANKYにお任せします」という風に信頼して下さって。ドラマのテーマとして、エンディングはそのドラマを観た人が「明日も頑張ろう」と思える温かな気持ちで視聴者を送り出したい、と仰っていて。だから1日の終わりを温かく、次の日を「頑張るぞ」と迎えられるような歌にしようというのは最初から自分の中にはありました。

――主演の内藤剛志さんもGLIM SPANKYのファンみたいで。

松尾レミ 内藤さんは本当に私たちのことをすごく気に入ってくれていて、私たちが知らないことまで知っています(笑)。新譜を聴いたらすぐにLINEで感想を送ってくれるんです。しかもすごい長文で。

――愛されていますね。ちなみに今作の一つのテーマとなった“1日の終わり”に寂しさを感じますか? 「また明日学校かあ…」みたいな気持ちになったり。

松尾レミ 高校生のときは学校が大好きだったんですよ。高校のときは「学校を変えるぞ」と、改革をしたいと思っていたんです。自分が楽しめるように学校を改革するぞ、みたいな気持ちで。それはそれで凄く楽しくて。中学生のときも自由に楽しんで、先生達も自由にやっているのを応援してくれたし、私は学校が好きだったので“ブルー・マンデー”的な感じにはならなかったんです。逆に夏休みとかになるときに、「学校がなくて寂しい」みたいな。学校の不自由さの中で自由を見い出すのが好きでした。

――制約がある中での自由を見い出すのが好きだったのですね。

松尾レミ それがロックと繋がるな、みたいな。そういう自分なりの哲学を見い出しながら楽しんでいました。

亀本寛貴 僕は、学校は嫌いではなかったですけど、休みの方が好きでしたね。趣味の方が好きだったので。学校は退屈だし、「つまんない、早く帰りたい」と思って金曜日は「イェー!」って家に帰って。小さい頃はずっとそう思うんですけど、高校になるとバイトとかもできてお金も稼げるし、バンドも始めて楽しいし、それなりに自由なことが増えて楽しいし。更に大学に行くともっと自由になっちゃったみたいな。1年の半分は休みだぞって。

 昔はバンド活動するにはバイトして授業を受けて、空いた時間でやるのがバンド活動だったんですけど、今は365日バンド活動なので、ある意味ずっと休みの日みたいな状況が続いています(笑)。だから、より歳を増す毎に自由になってきている感じがします(笑)。

――理想的な生活ですね。

亀本寛貴 でも、これが全く売れなくなって30代になって、またバイト生活に戻るみたいなのは嫌だからそんな想像はしないですけど、これから30代になったら多分もっと自分のやれることが増えていくと思うので、楽しい30代、40代、50代になると思います。今はどんどん自由が増えていくのが楽しいし、今は最高っていう感覚はあります。

松尾レミ 今は常に最高でいたいよね。

―― “ブルー・マンデー”はあった?

亀本寛貴 月曜日とか最悪でしたよ。もう朝は地獄みたいな。

松尾レミ 私は大学生活の方がバイトに近かった。課題も大変で…。「大学に行ったら遊べるって言った奴、誰だよ」というくらい、人生の中で一番しんどかったのが大学1年とか2年とかでした。そんなことを考えながら日常を過ごしていると、色々書きたいことは増えてきます。それが今回曲となった感覚もあります。

――ではタイトルを「All Of Us」にした意図は?

松尾レミ 普遍的なことですけど、近くの人を愛するというか。近くにいるみんなと共にいるというのが、この曲が一番伝えたいことであり、どの時代でもみんなが言い続けていること、思い続けていることだと思うので、そういう言葉が良いなと思ってこのタイトルにしました。

――歌詞の書き出しはどのあたりから?

松尾レミ 頭から順番です。サビから書き出す、というようなことはほとんどないです。この曲の作曲をGLIM SPANKYとしているのは、最初にコード進行があったからというのがあって、最初にかめ(亀本)が「こんなコード進行どう?」みたいな話をして、「いいね。それからアイディアもらっていく」と言って弾き語りで作り始めました。弾き語って作った最初のメロディがそのまま全部曲になっています。

――初期衝動がそのまま詰まった曲になったと。

松尾レミ その後いろいろ作ったのですが…。ボイスレコーダーで録って、色んなパターンを試したのですが、結局、最初に作ったものが良くて。歌詞もそのときに歌って作ったものが「結局はそのときに自分が一番言いたいことだったんだろうな」と。それをほぼ変えずにそのまま歌詞になって完成させました。

――歌詞の気になるところに<外にはひどい魔物がいて>という部分がありますが、この「魔物」は何を表しているのでしょう?

松尾レミ これは人でもないし、とにかく色んなものに喩えられるキーワードがいいなと思いまして。魔物って人間かもわからないし、モンスターかもしれないし、幽霊みたいな実体のないものかもしれないし、それって自分の中でも色々あるんです。例えば「誰々にムカつく、政治にムカつく」とか色々あって、それもひとつの魔物だし。嫌なことを言ってきた誰かがいたとして、それも自分の中で魔物と言えるし。そういうのって誰もが日常の中であると思うんです。嫌な上司でもいいし、何でもいいんです。

――魔物の正体は、負の存在や感情でしょうか?

松尾レミ そう。歌詞では“毛布”と喩えていますけど、そこから一歩出るというのは学校や社会かもしれないですけど、家にいるんじゃなくて外に出なければいけない、でもそこにはどこかに引っかかる魔物があって、でもそれと戦って倒しながら、あるいは味方にしながらみんな生きているという。全員に当てはまる言葉がそれかなと。「人」とかじゃなくて何とでも受け取れるものにしたくて。

 でもその魔物という負のものでさえも本当は弱かったりとか、本当は怖くて人に批判していたりとか悪口を言っていたり、自信がなかったりとか。そういう人間的な部分をいやらしくなく書きたかったというのがあります。

――作曲のきっかけとなるコード進行はどこから出てくるのでしょうか?

亀本寛貴 まずは曲調を考えます。バラードなのか、テンポはどれくらいなのか、そこからコード進行を考えていくという感じです。例えば色んな曲を聴いて「ここの感じいいな。どうなってるんだろう?」とか、コードを拾ってみてということは常日頃やっていて。その中から組み合わせやちょっと変えたものをツギハギして考えて、曲構成まで考えて、という風にやることが多いです。

――何気なくギターを弾いて生まれるというより、考えて出すという感じ?

亀本寛貴 そうです。ただギターを持っていても何も思いつかないですもん(笑)。ただ適当に弾いて時間が過ぎていくだけなので。指を動かして遊ぶだけになって脳が停止するので…。

――試行錯誤したうえでギターを持った方が良いのですね?

亀本寛貴 僕はそうですね。イメージを持って考えていく感じです。

松尾レミ 私は真逆なので、かめのスタイルが面白いです。

――亀本さんの頭の中ではレミさんの歌は常に鳴っている感じ?

亀本寛貴 あまり鳴ってはいないかもしれないです。ただ、松尾さんが歌うGLIM SPANKYの楽曲、音楽生というのは前提で、他のことは考えていないので、ただ良さ気な雰囲気を探す感じです。

松尾レミ 本当にラフのラフなので。それをもらっても変える所は変えるし、「絶対これ」というのはなく、かめのコード進行はきっかけで、良いと思えるのをシェアする“最初の種”という感じです。

――最近はそんなに“最初のきっかけ”は変えない?

松尾レミ どうかな?

亀本寛貴 この曲もBメロは松尾さんが考えたコード進行。僕が最初に考えたのも…。

――きっかけにしかなっていない?

松尾レミ 結局そうですね(笑)。

亀本寛貴 自分が考えたやつじゃなく、他の人が考えたのが新鮮だったりするんだと思います。

松尾レミ メロディによってなので、いくらコード進行があったとしても、かめは考えて作るんですけど私は感覚でどんどん作っていっちゃうので、メロディがどこへ行くかわからないんです…。だから最初に決めることができない。自然に作ったときの、メロディが勝手に歩いて行く奇跡というか。なので“最初の種”、そのきっかけがすごく重要で。

――「メロディが歩いて行く奇跡」ですか。

松尾レミ そういう感じでメロディを作っていくので、Bメロも赴くままにやっていくので。あとはメロディがストーリーを作っていって導いてくれる感じです。

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