GLIM SPANKY「デフォルメされたレトロ感」いま2人が目指すサウンドとは
INTERVIEW

GLIM SPANKY

「デフォルメされたレトロ感」いま2人が目指すサウンドとは


記者:村上順一

撮影:

掲載:22年09月02日

読了時間:約12分

 男女2人組ロックユニットのGLIM SPANKYが8月3日、前作『Walking On Fire』から約2年ぶりに6thアルバム『Into The Time Hole』をリリース。GLIM SPANKYは2007年に結成され、2014年にミニアルバム『焦燥』でメジャーデビュー。2018年には日本武道館でワンマンライブを成功させている。『Into The Time Hole』は、サントリーウイスキー『角瓶』TVCM楽曲「ウイスキーが、お好きでしょ」など新曲8曲を含む全11曲を収録。打ち込みサウンドを融合させ、更に音楽性の幅が広がったアグレッシブな作品に仕上がった。インタビューでは、短編映画集のような作品になったという『Into The Time Hole』の制作背景から、「デフォルメされたレトロ感」と語るGLIM SPANKYが提示していきたいことまで、多岐に亘り話を聞いた。【取材=村上順一】

選択肢があった方がこれからの時代に適している

『Into The Time Hole』通常盤ジャケ写

――前作『Walking On Fire』から、お互いの変化はどのように感じていますか。

亀本寛貴 松尾さんは変わっていないよね?

松尾レミ ひどい! めっちゃ進化してるから(笑)。

亀本寛貴 いい意味でだよ(笑)。

松尾レミ それをちゃんと言わなきゃダメだよ(笑)。亀本は打ち込みとか研究し始めたので、GLIM SPANKYの音楽の幅が広がりました。そのおかげですごく楽しく制作ができています。

亀本寛貴 これまでもデモも含めて打ち込みはやっていたんですけど、今では完成品レベルに差し替えるまでになりました。

――ここまで打ち込みを追求するようになったきっかけは?

亀本寛貴 コロナ禍が大きかったです。今回のアルバムでもそうなんですけど、オープニングの曲とか僕のギターだけ生で録音して、他は全部打ち込みという曲もありました。誰かにお願いするのではなくそれを全部自分でも出来た方がいいなと思いました。大きなスタジオで人を集めてレコーディングする環境というのは、それはそれで素晴らしいけど、ちょっと機動力が落ちると思ったりして。打ち込みもできる中で、「これは生でやりたいね」と選択肢があった方がこれからの時代に適しているんじゃないかと思いました。

――レミさんは打ち込みにもともと抵抗はなかった?

松尾レミ 自分が格好いいなと思うルーツにも打ち込みの音楽はありますし、サンプリングもいいなと思っていたので、打ち込みが嫌というのはなかったです。それよりもイヤモニの方がまだ抵抗があります(笑)。前回のツアーからイヤモニでやってみたんですけど、ちょっとまだ慣れないですね。

――私は転がし(演者に向けて設置されるスピーカー)でライブをやっているイメージが、お2人にはあります。

松尾レミ 私はどんな場所でも転がしでやるというのが自分の美学でした。だけど、コロナ禍で配信ライブしかできないとなった時に、生のステージに勝るものはないけれど、生でできない中でもできる限り同じ熱量のステージ、クオリティを提供するにはどうしたらいいかと考えました。そこで辿り着いたのがイヤモニを使ってライブをするということで、それは、私の中で曲げてもいいこだわりだと思ったんです。

――日本武道館でも転がしでしたからね。

松尾レミ あの時は全く音が取れてなくて、今までの経験値でやっていましたから。今は信念を曲げてもいいところと、曲げてはいけないところを見極めたいなと思っています。自分の音楽は曲げたくはないけれど、それが伝わらないというのが一番悲しいことなんです。ちゃんと伝えるためにはというところで、イヤモニでやった方が画面越しでもクオリティが落ちないと判断し挑戦しました。

――本作の初回限定盤に付属するDVDには、オンラインライブの模様が収録されているので、その映像からもいろいろ確認できますね。

亀本寛貴 初めて松尾さんがイヤモニを使用したライブですね。色々と変化を感じてもらえると思います。

いつ聴いても格好いいものを

――さて、アルバム『Into The Time Hole』はどんな作品にしたいと思われましたか。

松尾レミ 最初はアルバムのテーマというのは特になかったんです。「風は呼んでいる」という曲がリリースされて、それがきっかけとなって他の曲を作っていったという感じで、本腰を入れて今年の頭から他の曲も作り始めました。 DISH//に提供した「未完成なドラマ」や、ピチカート・ファイヴの野宮真貴さんに「CANDY MOON」という曲を提供させていただいたり、曲はずっと書き続けていたので、気付いたら色んな曲ができていました。

亀本寛貴 リード曲の「シグナルはいらない」と「形ないもの」を、アルバム曲として最初に録ったので、そこからまたアルバムの全体像が見えてきました。曲は割とスムーズにポンポンとできていて、ワンコーラスのデモは既にいくつかあったので、アルバムを作っているというよりは曲をどんどん作っていった感じがしています。

松尾レミ 話している中でレイトショーというワードが出てきたり、普段の私たちとは違う世界観の曲を書くことによって、「これって短編映画、短編小説を作っているみたいだね」といった会話がありました。最終的に色んな曲を箱の穴から覗いている、色んなストーリーを見ているような短編映画集といったテーマが生まれました。

――それでタイトルが『Into The Time Hole』になったわけですね。

松尾レミ 最初、覗き穴を覗くという行為が思い浮かびました。曲というのはいつ聴くかによって色んな捉え方ができるけれど、その曲の中の空気、世界というのはいつの時代も同じなんです。なので、その箱を覗けばいつでもその世界に行けるんですよね。さらにいいものを見た時、好きなものを聴いた時は時間が過ぎるのがあっという間だなと思ったんです。

――あれ不思議ですよね。

松尾レミ それは自分が異空間、Time Holeという時が止まった時空に迷い込んでいるのかもしれないと感じました。このアルバムを聴いた時に「こんなに時間が経っていたんだ」と思ってもらえるような作品にできたらいいなと思い、一つひとつの曲の世界に入り込んでいくというところで、このタイトルに決まりました。

――Timeにはそういう想いや意図も込められていたんですね。

松尾レミ 前作『Walking On Fire』が「Circle Of Time」という曲で終わっているんですけど、それに引っ張られたところもあります。「Circle Of Time」から『Into The Time Hole』に繋がっていくという流れをタイトルでも見せられたらいいなと思い、Timeというワードは入れたいと思っていました。

――亀本さんはどんな作品にしたいと思っていましたか。

亀本寛貴 僕らの音楽にはレトロな世界観だったり質感というのは常に存在していて、それを皆さんに理解してもらうためには、すごくデフォルメすることが必要だと思いました。そのままやってしまうとただ古いものという認識になってしまうので、デフォルメされたレトロ感というエンタメを作らなければいけないよね、という話をしていました。『ストレンジャー・シングス 未知の世界』というドラマがあるんですけど、あの作品は中身はゴリゴリの80年代なんですけど、どこかすごく今っぽいんです。同じようにデフォルメされたクラシックというのを僕らも目指していかなければと思い、それを意識してアレンジしています。レトロでいいなと思ってもらうために、現代的なことをするという感覚です。

――すごく難題でもありますね。

亀本寛貴 それができないと化石になってしまうので。僕らはただレトロなものをやりたいわけではないんです。ただ古いもので魅力的なものはたくさんあって、今も廃れずに残っているということは素敵なものだという証拠でもあると思います。そういう感覚でアウトプットしていけば、ちゃんとエンタメとして成立すると思っています。

松尾レミ デビュー当時私たちは20代前半で、その年齢でレトロなものをやっていたから面白がってもらえていた部分もあると思います。それをずっとやっていく格好良さもあるけれど、年齢を重ねて行けば渋いだけで終わってしまうんです。いつ聴いても格好いいものを悩みながらも作っていきたいという気持ちが強いんです。

説教臭さを削りながらもメッセージ性を強くしていきたい

――曲順もすごくいいですね。どんなこだわりを持って決めたのでしょうか。

松尾レミ 「ウイスキーが、お好きでしょ」はボーナストラック的な感覚で、アルバムとしては10曲目の「Sugar/Plum/Fairy」で終わるイメージです。本作は今の時代を切り取って歌っているけど、曲の世界に入り込めるような感覚を全体的に意識してました。曲順もオープニングからレイトショーへと向かう主人公を見ている感じです。映画とかで最後にまた日常へ戻っていくような作品ってあると思うんですけど、そういった日常に戻るような曲の「Sugar/Plum/Fairy」で締めくくろうと思いました。

――本作で特に苦労された楽曲は?

亀本寛貴 苦労したというよりも、すごく手間を掛けました。特に「レイトショーへと」「ドレスを切り裂いて」「HEY MY GIRL FRIEND!!」は、打ち込みで組み立てているので時間が掛かっています。シンセも実機は使っていなくて、PCのソフトシンセなんです。楽曲に合う音色を探すんですけど、その作業も楽しかったです。

――どんなところにこだわりが表れていますか。

亀本寛貴 よく聴いていただかないとわからないような、細かいSEとかたくさん入れています。サビ前の盛り上がりのSEに何時間も掛けたりもしますから。それらは手作りなのですごく時間が掛かるんですけど、あるのとないのとではポップスとしての強度が全然違うんです。例えば「シグナルはいらない」は、生音で録音しているんですけど、その中にシンセなど細かい音がたくさん入っています。それがないとストイックなロックサウンドになってしまうんですけど、隠れたサウンドによってポップになっているというのは、注目ポイントでもあります。

――松尾さんの苦労された曲は?

松尾レミ 歌詞です。何回も書き直したのが「シグナルはいらない」と「ドレスを切り裂いて」でした。「シグナルはいらない」のようなヘヴィでハードなサウンド、ここまでの派手なものはあまりやってこなかったので、そこをどう自分に落とし込むか、というのがありました。こういうストレートなロックサウンドに乗る歌詞はめちゃくちゃ説教くさい歌詞になりがちなんです。でも、強いメッセージが込められていないとパワーが弱まるので、説教臭さを削りながらもメッセージ性を強くしていきたいと思いました。今の社会にあったテーマでメッセージを組み込むと、ストレートすぎて逆に響かなくなってしまうので、少しファンタジックにして非現実的なキーワードに変えてみたり。その塩梅が難しくて苦労しました。あとこだわったのが歌で聴いた時にも入ってくるけど、文字として読んだ時にも、しっかり詩的になっているというのも重要でした。

――「ドレスを切り裂いて」は?

松尾レミ 「ドレスを切り裂いて」はリズム的に日本語をはめるのがすごく難しくて。語弊を恐れずに言うと、格好いい歌詞というのは割とすぐ出来てしまうんです。それは格好いい単語を並べて、雰囲気だけだったら何となく出来てしまう。でもそれだと後でボロが出てしまうから、しっかり芯のあるものにするというところで大変でした。曲に合う日本語を探して、リズムに乗ったときにしっかり流れるような言葉になっているか、そして現代において私が何を言いたいのか、というところが重要でした。

――「ドレスを切り裂いて」というタイトルも意味深ですね。

松尾レミ この曲の裏テーマはSNSについて書いています。“インスタ映え”という言葉もあるように、そこにはすごく豪華な日常だけど、裏ではすごい頑張って見せていたり、顔もアプリでの加工がないと出せなかったり、そういうことが本当に怖いなと思いました。それは自分にかけているフィルターなので、他人は取ってくれないんですよね。自分で外そうと思わないとダメなんです。そもそも、自分で掛けている魔法は気付けなかったりします。歌詞ではそれをドレスや宝石に例えていて、それを脱ぐだけではまた着れてしまうので、心のナイフで切り裂いていきなよ、というメッセージを込めました。

スポットライトは日常にある

――「形ないもの」の歌詞はすごく今を捉えていると思いました。この歌詞の背景にはどのような考えがあったのでしょうか。

松尾レミ コロナ禍でお店が閉まったりとか、新木場STUDIO COASTや下北沢GARAGEだったり、失くなるはずがないと思っていた場所がなくなってしまったことがきっかけになりました。自分の経験もそうですが、ファンの方たちからも、「楽しみにしていた体育祭がなくなっちゃいました」、「就職が決まっていたけどなくなりました」とかメッセージをもらって、いま私が同じ境遇だとしたらすごくショックなことだと思いました。でも、形あるもの、例えば場所だったり、そういうものがなくなってから追い求めてもどうしようもないというか。形があるものじゃなくて、形がないところに大切なものはあるんだと思えれば、ちょっと前向きに生活できるんじゃないかなと思って、それを色んな世代の人に向けて歌いたいと思って書きました。

――素敵な考え方ですね。

松尾レミ 人それぞれスポットライトは日常にあると思うんです。舞台へ上がる人だけにスポットライトは当たるものだけど、でもそれだけがスポットライトではないと思って。町の街灯もそうだし、いま私たちを照らしているこのライトや月明かりもスポットライトかもしれない。その明かりの下に立って、いつか思い出した時に、自分はスポットライトが当たってる瞬間だったかもしれないと思うと、日常が素敵なものに見えるんじゃないかという思いもあります。歌詞に「平凡な特別を抱きしめていたいよ」とあるんですけど、そういう想いも込めて書きました。

――さて、ギターについてお聞きしたいのですが、様々なfuzzサウンド(歪みエフェクター)が聴けて楽しかったです。ギターはどんな意識でアレンジしていましたか。

亀本寛貴 ギターの音は歪みが強くなると真ん中の周波数を占有してしまうんです。なので、ギターをたくさん入れてしまうと他の楽器や声もほぼ聞こえなくなってしまうので、本当に必要なところに印象度の強い音を入れるということを凄く意識しました。ケースバイケースでフレーズに合わせてベストな音にするというのが大前提にあって、fuzz自体も色々な種類があるので、曲毎ではなくフレーズによってエフェクターを使い分けています。

――具体的にはどんな手法をとっているんですか。

亀本寛貴 例えば「シグナルはいらない」のメロディーを弾くパートがあるのですが、主旋となる真ん中のフレーズに対して、下のフレーズ、上のフレーズを重ねて、真ん中のフレーズのオクターブ上も弾いています。さらにそのフレーズにoctave fuzzも掛かっているという状態なんです。なので合計すると4オクターブ分くらい重なっていることになるんですけど、そうするとそのフレーズの印象がすごく変わるんです。

――実はすごい重なっているんですね。では最後に11月2日からスタートするツアー『Into The Time Hole Tour 2022』への意気込みをお願いします。

松尾レミ 全国いろいろ回れるというのは本当に貴重なことだと改めて思いました。ライブができないと、自分の音楽はどういう人が聴いてるんだろう、どこに自分の音楽を聴いてくれている人がいるんだろうとか、わからなくなる時があります。でも、ライブをやることによってそれがわかると、自分が音楽を作るパワーにもなりますし、勇気をもらえるんです。ライブはその勇気をもらって私も与え合うという、それが本当にいいなと思いました。以前のアルバムよりも難しい曲が多くなっていますし、歌も難しいんです。それをライブバージョンとして落とし込んでいけるかというのが、これから考えるべきところなんですけど、クオリティーの高いライブにできるように頑張ります。

亀本寛貴 楽曲の世界観をバシッと伝えて、それがちゃんとできれば自ずとすごく良いショーになるんじゃないかなと思っています。

松尾レミ レベルアップした姿を見せられたらと思っているので、ぜひ観に来てください。

(おわり)

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